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2023年7月6日【事業資源】

デンソーら、着脱荷台で貨物だけを中継する輸送実証を開始

坂上 賢治

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スワップボディコンテナの交換の様子

 

デンソーアスクルエレコムタカラスタンダード三井倉庫ロジスティクス安田運輸大和ハウス工業の7社は7月10日から14日までの期間を設けて、荷物を積載する荷台(コンテナ)部分を脱着できるスワップボディコンテナを用いた幹線中継輸送サービス「SLOC(Shuttle Line Of Communication)」の実証実験を開始すると7月6日に発表した。

 

具体的な中継地点を静岡県浜松市と埼玉県坂戸市に設けて、7月10日(月)から14日(金)までの5日間、関東・関西間での貨物中継輸送を実施する。

 

なお同実証ではドライバーが行う〝輸送作業〟と、荷物の積み降ろしなどの〝荷役作業〟を明確に切り分け、荷主が荷役作業を行う「荷役分離」や、異業種による複数の荷物を同じコンテナに積載する「混載輸送」も行われる。

 

実証では、ドライバーの労働環境改善と輸送効率向上を目指し、スケジュール通りに運行出来るか、ドライバーによるコンテナの脱着オペレーションがスムーズに行われるかなど、社会実装に向けた課題の抽出を行う。

 

主な検証項目は以下の通り

・ 1日6便(関西発3便/日、関東発3便/日)を運行し、事前に合意したスケジュール通りに運行出来るかの検証。
・ 中継地点に複数台のコンテナが置かれた場合でも、ドライバーが間違えずに脱着出来るオペレーションの確認と課題の検証。
・ スマートフォンとQRコードを活用したコンテナ管理システムの利便性確認。
・ 複数荷主の貨物を混載輸送した場合の役割分担や責任区分の確認と課題の検証。

 

1運行あたりの拘束時間とその内訳(出典:国土交通省トラック輸送状況の実態調査/令和3年)

 

これらは、いずれも来たる2024年4月から適用される働き方改革関連法によって、自動車の運転業務について時間外労働の上限規制が有効化となるためだ。

 

これによりドライバーの労働環境が改善する一方で、これまでの輸送形態ではドライバー不足が深刻化するのみならず、今後、国内でトラック輸送している荷物の約1/4を運ぶことが出来なくなる「2024年問題」が到来する。

 

またそもそも昨今の物流業界では、ドライバーの長時間労働が長期に亘って深刻化。その大きな要素のひとつとして荷物の積み降ろしのために待機する「荷待ち」時間、ドライバー自身が荷役作業を担う身体的負担も問題だと言われている。

 

加えて既存の輸送形態の場合、長距離ドライバーは長時間運転に加え宿泊が伴うことになり、これによる拘束時間も問題だ。

 

運行の拘束時間とその内訳(出典:国土交通省トラック輸送状況の実態調査/令和3年)

 

今回は、以上の課題解決としてSLOCを使った幹線中継輸送を行う。幹線中継輸送とは、一つの行程に中継地点を設け、複数のドライバーで交代しながら輸送する仕組み。結果、ドライバー一人当たりの拘束時間が短縮され、荷主は労働環境を守りつつ、荷物を目的地に運ぶことが出来る。

 

SLOCの流れ(イメージ)

 

上記のSLOCとは、荷物を積載する荷台(コンテナ)部分が脱着できるスワップボディコンテナ車両とQRコードを活用するもの。コンテナ管理をQRコードで管理することで、複数の荷主と複数の運送業者によって荷物を運ぶことが出来る。

 

スワップボディコンテナ車両を用いると、中継地点でコンテナを分離し、指定されたコンテナに載せ替えて目的地に輸送することが出来る。

 

この方式の最も大きな利点は、トラックの乗り換えや荷物の積み降ろしがないことの他、トラック同士が待ち合わせる必要がなく、柔軟な運行スケジュールにより長距離運行を日帰り運行にすることが可能であることだ。

 

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参加企業とそれらの役割は以下の通り

 

荷主:
アスクル株式会社
エレコム株式会社
タカラスタンダード株式会社
三井倉庫ロジスティクス株式会社

 

荷主および混載作業:
安田運輸株式会社

 

中継地点(マルチテナント物流施設「DPL坂戸Ⅱ」)の提供:
大和ハウス工業株式会社

 

コーディネーター(運行スケジュール立案など実証実験とりまとめ):
株式会社デンソー

 

運送協力企業:
アートバンライン株式会社、遠州トラック株式会社、高伸物流株式会社、トランコム株式会社、フジトランスポート株式会社、株式会社優輪商事

 

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各社のコメントは以下の通り

 

株式会社デンソー
デンソーは、「環境」と「安心」分野における提供価値の最大化を通じ、人々の笑顔があふれる幸福循環社会の実現に取り組んでいます。

 

業種を超えた多くの荷主企業の皆さまとともに、SLOCの社会実装に挑戦し、働く人の労働環境を改善しながら、荷物を待つ生活者に荷物を届ける「安心」な物流と、輸送効率の向上によるCO2削減で「環境」に優しい物流を目指します。

 

また、将来的には、人・モノ・時間の最適化に向けて、量子コンピューティングや高度運転支援技術を活用し、物流全体の自動化を推進していきます。

 

アスクル株式会社
<当社は2020年に定めたパーパス(存在意義)『仕事場とくらしと地球の明日(あす)に「うれしい」 を届け続ける。』に基づき、さまざまなステークホルダーと共創し、荷主の立場から様々な社会課題への対応をすすめ、サステナブルなEC物流の実現を目指しています。

 

これまでも、荷待ち時間の削減や荷量の平準化など、物流環境の改善に取り組んでまいりましたが、本実証実験への参加を通じて中継輸送/共同輸送の可能性を模索し、今後も物流業界の皆様と共に、持続可能な物流網の構築と働き手の環境改善に努めてまいります。

 

エレコム株式会社
当社は、IT周辺関連製品の開発、製造、販売を行っており、現在東西の2拠点で物流センターを運営しています。

 

そのため、物流業界が抱える2024年問題に対して非常に強い危機感を抱いている一方で、当然のことながら1社のみの取り組みでは解決できない問題だと認識しています。

 

この度、幹線中継輸送サービス「SLOC」の実証実験に荷主の立場で参加させていただきますが、ここで得られた知見やノウハウを業界内でシェアリングすることで、物流業界全体の最適化に取り組みたいと考えています。

 

タカラスタンダード株式会社
今後、物流業界の2024年問題をきっかけに、全国的な輸配送能力不足が予想される中、当社も荷主企業として、輸配送を効率的に行うさまざまな手段の有効活用が必須と認識しています。

 

現在、入出庫業務の高回転化を目指した設備導入によるトラック待機時間の短縮や、輸配送能力に合わせた出荷量平準化の他、運送事業者様のご協力の下、船や鉄道へのモーダルシフトなども含めた輸配送の多様化による対応力強化を進めています。

 

今回の幹線中継輸送サービス「SLOC」の実証実験も貴重な経験とし、多様化をさらに進めてまいります。

 

三井倉庫ロジスティクス株式会社
弊社三井倉庫ロジスティクスを含む三井倉庫グループは、物流を通じてお客様のサプライチェーンサステナビリティの実現を支援する新たなサービス(三井倉庫SustainaLink)を展開しており、環境リスク・労働力リスク・災害リスクに対応した幅広いメニューを提供しております。

 

本実証実験は、企業や業界の枠を超えての輸送最適化とドライバー労働負荷軽減の実現に向けた挑戦となります。

 

今後更にAIやロボティクスなどの新たなテクノロジーの導入による輸送の最適化や自動化に取り組み、物流という社会インフラの安定化に貢献していきます。

 

安田運輸株式会社
安田倉庫グループは、「健全な企業活動を通じて、お客様、株主、従業員、地域社会の期待に応え豊かさと夢を実現する。」という経営理念のもと、「高品質で安全なサービスの提供による最適な社会環境の創造」、「多様な人材がゆとりと豊かさを体現できる職場の実現」という重要課題(マテリアリティ)に取り組んでおります。

 

グループの一員である安田運輸は幹線中継輸送サービス「SLOC」の実証実験参加を通じ、持続可能な輸送サービスの構築やドライバーにとって働きやすい環境の更なる整備を目指してまいります。

 

大和ハウス工業株式会社
当社は、全国にわたる営業ネットワークと開発実績を活かして、中継輸送に適した土地の選定や先進的物流施設の仕様を取り入れ、お客さまのニーズに応じた物流施設開発を進めています。

 

また、2024年問題におけるトラックドライバー等の人材不足への対応として、ダイワロジテックをはじめとするグループ会社およびパートナー企業とともに、物流業務の作業効率化、ロボットの活用による省人化やサプライチェーン全体の効率化・省エネ化にも取り組んでいます。

 

今後も、物流DXや総合的なコンサルティング力を活用することで、物流業界全体の課題解決を目指してまいります。

 

幹線中継輸送サービス「SLOC」の取り組み詳細

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。