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2024年5月3日【ESG】

電脳交通、事前確定運賃機能をライドシェア事業へも提供

坂上 賢治

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配車アブリだけでは、移動ニーズに応えられない

 

京都のエムケイホールディングス( MK/エムケイ )は5月3日、タクシー事業者様が事業主体として展開する自家用車活用事業( NRS / 日本版ライドシェア )に於いて、配車アプリ以外でのサービス提供を実現するべく、電脳交通が提供する〝事前確定運賃機能〟を自らの日本版ライドシェアサービス内に導入する。

 

導入の理由は現時点で「日本版ライドシェア」の利用には、現金による対価の授受を避けるため、顧客側と事業社側の双方で、必ず事前に運賃を確定しなければならない仕組みとなっているからだ。それゆえ〝配車アプリ〟を利用する一連の流れなかで、双方で利用運賃額で事前合意。その後の決済を自動確定できるよう〝事前確定運賃機能〟が組み込まれている。

 

しかし、それではスマートフォンの扱いに不慣れな高齢者など、強い移動ニーズを持つ交通弱者が「日本版ライドシェア」を使うことを阻むことになる。そこで従前通り、顧客側が電話を掛けて配車依頼する注文スタイルでも「日本版ライドシェア」を利用可能にする必要がある。

 

日本版ライドシェアが、もっと手軽に利用できるように

 

そこで電脳交通では、顧客からの電話による配車依頼に対して口答で顧客側と事前確定運賃額の確認を行った上で、オペレーターが配車手配を行う機能を自らの配車サービスに組み込んだ。しかも実はこれには、「日本版ライドシェア」を担うタクシー会社にも利点がある。これにより移動需要が増える時間帯でも配車数を安定させられるからだ。

 

そもそも「タクシー配車」と「ライドシェアドライバーの配車(日本版ライドシェア)」は、全くの別事業であり、本来「日本版ライドシェア」の利用顧客には、必ずライドシェアドライバーの配車しなければならない。

 

しかし現段階では、ライドシェア事業に参加するドライバーの総数自体が限られていることから、移動ニーズで混み合う朝夕の時間帯で、ライドシェアドライバーの車両配車に支障を来す。この際、「日本版ライドシェア」を担うタクシー会社が自らのタクシーを配車することで、繁忙期に於いても「日本版ライドシェア」の移動ニーズを満たすこと( 現時点では、移動の対価水準が日本版ライドシェアもタクシーも同等であるため )ができる。

 

この結果、タクシー配車を希望する利用者にとっても、タクシー事業者管理のもとで安心・安全な日本版ライドシェアが利用しやすくなる。但し電話による配車受注は、人手不足が続く個々のタクシー事業者にとっては対応不可能だ。それを受けて電脳交通では、タクシー会社へ向けた導入サポートも充実させ、配車アプリ経由以外であっても、日本版ライドシェアが手軽に利用できるようにした。

 

 

タクシー営業エリアで日本版ライドシェアの展開を目指す

 

もとより電脳交通では、電話発注の繁忙時間帯でもタクシー配車が的確に取り扱えるよう、オペレーター数を増やして電話を介した煩雑な運行管理体制に対応。これにより日本国内の広域で配車サービスの切り出し・移管ができるよう予てより事業体制を拡充してきた経緯がある。

 

従って電脳交通の電話配車を利用するタクシー会社であれば、電話注文・配車アプリ注文のどちらでも「日本版ライドシェア」を利用できるたけでなく、タクシーも、ライドシェアドライバーのどちらの車両も配車が可能だ。タクシー事業者側も、タクシー配車と日本版ライドシェア配車を1つのシステムで運行管理できるようになる。

 

また電脳交通では、車両側が利用するハードウエアも既に刷新済みだ。従来からのドライバー用タブレット端末以外に、ライドシェアドライバー向けのスマートフォン版アプリも提供。

 

顧客からの〝電話によるオペ配車〟+〝配車アブリの利用〟の両面で日本版ライドシェアの運行に必要な事前確定運賃・キャッシュレス決済に応えていく。これを受けてエムケイでは5月以降、京都府内のタクシー営業エリアで事前確定運賃機能を活用できる日本版ライドシェアの展開を目指す構えだ。

 

電話配車は、NRSの利便性を高めることができる

 

こうした取り組みを踏まえ、電脳交通の近藤洋祐 代表取締役CEOは、「この度、MKグループ様と協同で自家用車活用事業(NRS)の新たな取り組みを京都にて行うこととなりました。4月より解禁されたNRSは、全国のタクシー不足課題解消に向け有効な施策として主要都市を中心に実施されています。

 

現状、アプリ配車及びキャッシュレス決済を前提としたサービスとなっておりますが、都市部以外では電話によるタクシー配車注文や現金で決済する利用者が多く存在し、これらの利用者に対応するサービスを提供することで、NRSの利便性を高めることができると考えております。

 

当社が開発する電話注文にも対応可能なNRS運行管理システムを活用し、MKグループ様と共に京都における移動困難地域及び時間帯の解消に取り組んでまいります」と話している。

 

今日、タクシーは大きな変革期を迎えている

 

対してエムケイホールディングスの青木信明 代表取締役社長は、「タクシーの供給不足の改善の一手として始まりました日本版ライドシェア(自家用車活用事業)ですが、原則アプリを通した配車でキャッシュレス決済とされています。

 

しかし当社のお客様は特に午前中は病院に通われる高齢の方が多くいらっしゃいますので、コールセンターで電話応答し車内で現金決済出来る仕組みが欲しいと考えていました。

 

電脳交通の受配車システムで実現可能と聞き、お客様に一台でも車両を供給するために、まずはタクシーで事前確定運賃を導入し、コールセンターでの配車が習熟すれば日本版ライドシェアにも導入していくことにしました。

 

今はタクシーは大きな変革期を迎えています。電脳交通には新しい動きに対応して頂き、当社のビジネスを支えるだけでなく、日本社会の交通課題を解消する取り組みに果敢に挑戦頂きたいと思います」と述べている。

 

エムケイの日本版ライドシェア運行内容の詳細は以下の通り

[ 地域 ]
京都市域交通圏:京都市(旧京北町区域を除く)、宇治市、長岡京市、向日市、八幡市、城陽市、京田辺市、木津川市、乙訓郡、久世郡、綴喜郡、相楽郡

 

[ 曜日と時間帯 ]
月水金:16時〜20時
火〜金:0時〜5時  
金土日:16時〜翌6時

 

電脳交通が提供する日本版ライドシェア向けシステムの仕組み
乗客は電話注文・配車アプリ注文のどちらも利用でき、タクシーと日本版ライドシェアのどちらの車両も選択可能。またタクシー事業者側でもタクシーと日本版ライドシェア車両を1つのシステムで運行管理が可能であり、従来のドライバー用タブレット端末だけでなくライドシェア車両向けのスマートフォン版ドライバーアプリを提供する。日本版ライドシェアの運行に必要な事前確定運賃、キャッシュレス決済などにも対応する。

 

———————-

 

以降は筆者の私見ではあるが、本来「日本版ライドシェアことNSR」は、自家用車活用事業という名前通りで、本来タクシー利用者が殺到する繁忙時間帯の車両を増やすためのものであり、更に移動サービスに係る運賃に市場競争力を与えるものであった筈で、ライドシェアニーズの過密時間帯にタクシー車両を配車するというのは本末転倒に映る。

 

それでも電話による配車サービス対応は、現段階で配車アプリのみでしかライドシェアサービスを利用できないという不備を改善するものとして歓迎すべきものだ。また電脳交通は、創業以来、地域公共交通の維持・存続のためにタクシー事業者向けの配車システム開発・提供や配車委託サービスを提供してきた。

 

2019年からは、全国の自治体・公共団体・民間企業と連携。MaaS・地域交通に係る実証実験を推し進め、2021年に地域交通ソリューション事業としてデマンド交通分野にも力を入れている。それでも高齢化層の拡大・人口一極集中で、地方の公共交通機関の約8割は赤字となっており、営業撤退や縮小によって交通弱者の増加や交通空白地帯が拡大している。

 

そうした前提から、おそらく電脳交通としては今後、地域の移動を支える交通事業者が存続可能であり続けるよう、ライドシェアサービスが大きく拡大する時期を見据えて、配車アプリとは異なる新たな発注手段を開拓していきたい考えであろうと捉えられる。

 

会社名:エムケイホールディングス株式会社
所在地:〒601-8432 京都市南区西九条東島町63-1(本社)
設立:2018年(平成30年)10月1日
代表者:青木 信明
従業員数:97名(2024年3月現在)
資本金:4,500万円
事業内容:グループ経営に関する事業など

 

会社名:エムケイ株式会社
所在地:〒601-8432 京都市南区西九条東島町63-1(本社)
設立:昭和35年10月26日
代表者:前川 博司
従業員数:1,823人(2024年3月現在)
資本金:9,500万円
事業内容:タクシー、整備、アミューズメント
車両台数:
 タクシー 725両/ハイヤー 131両
 計856両 (2023年3月現在)
売上高:
 平成30年度/158億700万円
 令和元年度/152億9,300万円
 令和 2年度/86億4,200万円
 令和 3年度/99億3,200万円
 令和 4年度/129億8,900万円

 

会社名:株式会社電脳交通
所在地:徳島県徳島市寺島本町西1-5 アミコ東館6階
設 立:2015年12月
代表者:近藤 洋祐
従業員:180名(2024年2月末時点)
資本金:1億円(2024年2月末時点)
主要株主:三菱商事、JPインベストメント、ENEOSイノベーションパートナーズ合同会社、JR東日本スタートアップ、JR西日本イノベーションズ、GO株式会社、第一交通産業グループ、エムケイ、沖東交通、三和交通、NTTドコモ・ベンチャーズ、阿波銀行、徳島大正銀行、いよぎんキャピタル、ブロードバンドタワー(敬称略、順不同)

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。