視覚障害者にとって朗報と言っていいかもしれない。視覚障害者が自立して街を移動するのを助けるAIスーツケースの実証実験が始まった。そのAIスーツケースにはカメラをはじめとしたさまざまなセンサーがついており、音声などで視覚障害者を誘導する。(経済ジャーナリスト 山田 清志)
実証実験を行うのは「次世代移動支援技術開発コンソーシアム」という一般社団法人で、2020年2月にアルプスアルパイン、オムロン、清水建設、日本アイ・ビー・エム(IBM)、三菱自動車工業の5社によって設立された。きっかけはIBMの浅川智恵子フェローが米国カーネギーメロン大学で行った視覚障害者のためのスーツケース型誘導ロボット「Cabot」の研究だったそうだ。
近年、高齢化に伴う視力の低下や緑内障をはじめとする目の疾患発症により、視覚障害者は増加しており、日本には推定164万人いて、そのうち全盲の視覚障害者数は19万人弱ののぼるという。しかも、今後その数が加速度的に増えていくという研究結果も出ているのだ。
日本では、2006年6月の「バリアフリー新法」、16年4月の「障害者差別解決法」が施行されて以降、障害者に対する対策は進んでいるものの、視覚障害者は通勤や通学をはじめとした社会生活に欠かせない移動に依然として困難を抱えている。
そこで、こうした課題を解決するために5社が集まって団体を設立し、視覚障害者が自立して街を移動することを助ける総合ソリューション「AIスーツケース」の開発に取り組むことになったわけだ。旗振り役は日本IBMで、参加企業が技術や知見を持ち寄って今回のAIスーツケースを完成させた。それは、肩につけたウェラブルデバイスとスーツケース型ナビゲーション・ロボットがセットになったもので、移動とコミュニケーションの両方を解決するものだという。
AIスーツケースの基本的な機能については6つある。(1)位置情報と地図情報から目的までの最適ルートを検索する機能(2)音声や触覚などによる情報提示を交えながら誘導する機能(3)映像およびセンサーの情報から障害物を認識し避ける機能(4)位置情報とクラウド上の知識情報から周囲のお店の案内や買い物の支援を実現する音声対話機能(5)映像から知人を認識し、表情や行動などから相手の状況を判断し、円滑なコミュニケーションを支援する機能⑥映像およびセンサーの情報から周囲の行動を認識し、「行列に並ぶ」といった、その場に応じた社会的な行動を支援する機能だ。
そのほか、新型コロナウイルス感染症への対応として新機能を追加したそうだ。例えば、映像やセンサーの情報から人とのソーシャルディスタンスを確保しながら誘導するほか、マスク着用の有無を判定して音声と振動で通知といった機能だ。
実証実験は、まず三井不動産が管理運営する商業施設コレド室町3(東京・日本橋)から開始し、国内の商業施設、公共交通機関、大学構内などへ拡大していく計画だ。期間は2020年11月12日~2021年4月30日までを予定している。
非常に反響が多いそうだが、今のところ発売時期や価格については未定で、まずは搭載機能の性能や使いやすさなどの評価・検証をしていくとのことだ。