デロイト トーマツ グループは12月21日、新たに立ち上げたグループCEO直轄の「Climate Sustainabilityイニシアチブ」の取り組みの一環として、2050年にカーボンニュートラルが実現された時点での日本の経済社会のあり方に関するシミュレーション結果をまとめたレポートを公開した。
今回のシミュレーションは、グループのデロイト トーマツ コンサルティング合同会社が国際エネルギー機関(IEA)の提供するシミュレーション開発環境TIMES (The Integrated MARKAL-EFOM System)を活用して独自に開発したエネルギーシミュレーションモデル(2020年6月発表)を活用して実施された。
シミュレーションは、国民生活に影響の大きい電力料金の増額を最小限に抑え、原子力発電所の新設を行わないなど政府方針を踏まえた上で、カーボンニュートラルを実現した場合の電源構成、再エネ大量導入を支えるエネルギーインフラ像、モビリティ電動化、水素活用等のエネルギー社会像を定量的に示している。
なお、レポートで公開されたシミュレーション結果はあくまで予測される将来像の一つのシナリオにすぎず、前提条件が変わることで分析結果も変化する。
【レポートの主なポイント(抜粋)】
1. カーボンニュートラル社会の電源構成・発電等コスト
カーボンニュートラル社会の電源構成において、再生可能エネルギー及び原子力発電といった脱炭素エネルギーのシェアはほぼ100%となる。シミュレーションではガス火力発電所において水素を活用する水素発電やCCS(CO2回収・貯留技術)を活用する場合、しない場合の2つのパターンで電源構成を試算している。
水素発電やCCSを活用できない場合、電力供給量が安定しない変動型再生エネルギー(風力・太陽光など)の割合が増加し(再エネ中心ケース)、基幹系統の新設・拡充に加え、需給調整の安定化のための蓄電設備に対する投資が拡大。加えて既存の火力発電のインフラの活用もできないため、発電・系統費用が増大する。
※上記グラフの金額はシミュレーション結果をベースとして、DTCで発電にかかる費用と系統・蓄電等のインフラ投資にかかる費用を推計したもの。実際の電力需要者に課せられる電力料金は、この数値以外に各種費用等が加算されるため、実際の電力料金とは異なる。
2. 再生可能エネルギー大量導入を支えるエネルギーインフラ
シミュレーションではカーボンニュートラル社会において、多い場合で約40GW以上もの蓄電設備を導入する必要があることが分かった。その投資は電力コスト上昇の要因となるため、水素発電やCCSの導入、蓄電設備の代替として活用するためのEV(電気自動車)などの電動モビリティの普及、VPP(Virtual Power Plant)などのソフト的な需給調整、再エネの地産地消の推進、などの取り組みを行って、系統網の負荷を軽減する必要がある。なお、CCSや水素発電を導入することによって、蓄電池や系統網への投資は、導入しない場合と比べて1/3~1/4に抑制できる分析結果となっている。
3. エネルギーインフラとしての電気自動車(EV)の重要性
シミュレーションの結果、カーボンニュートラル社会においてはクリーンエネルギーを活用しつつ、モビリティの電動化(EVや燃料電池自動車)を進めることが必要であることが判明した。変動型再生可能エネルギーの調整のための蓄電機能として、EVを活用することも可能として分析を行うと、乗用車におけるEV比率は約7割まで上昇することとなった。
4. セクターカップリング型水素社会の到来
このシミュレーション分析においては、変動型再生可能エネルギーの調整力として電解水素を生成し、需要側において燃料利用していくことを織り込んでいる。この場合、約1,300億Nm3の水素需要が推計された。
カーボンニュートラル社会においては、大量に生じる再生可能エネルギー余剰電力を活用してクリーン水素を生成し、熱源や輸送用燃料(E-fuel)、基礎化学原料等として利用する「セクターカップリング」の考え方が重要となる。