1,600馬力のハイパーカーを誰もが操縦できるようにする技術とは
コンチネンタルは11月6日、「Continental Engineering Services(CES/コンチネンタルエンジニアリングサービス)のモータースポーツ向けABSキット」をベースに、アンチロックブレーキシステム(ABS)、電子安定性制御(ESC)、トラクションコントロールシステム(TCS)を備えたハイパーカー、ブガッティ・ボリード用の電子ブレーキ制御システムの開発で成功した。
この新たなブレーキ制御システムが開発されたことにより、腕に覚えのあるプロのレーシングドライバーだけでなく、一般の自動車愛好家もプロドライバーと同じく1,600馬力のレーシングカーを自在に制御できるようになった。
対象車となったブガッティ・ボリードは、サーキット専用の非常にパワフルなレーシングカー仕立てのクルマだ。もともとブガッティ・シロンの生産モデルをベースにしたコンセプトカーとして考案されたボリードは、現在40台限定で鋭意・製造されており、最初の車両納入は年末までに実行される予定だ。
同車に活かされたCESのモータースポーツABSキットは、レーシング用途に特化した精緻なブレーキ制御ソリューションだ。コンチネンタルの社内開発およびエンジニアリング サービス プロバイダーであるCESとブガッティは、特にブガッティ・シロンとブガッティ・ヴェイロンの両モデルを対象に、数年間に亘って車両開発で協力してきた。
わずか1年で、ハイパーカー専用のブレーキ制御システムを仕上げる
このプロジェクトは、ハードウェアとソフトウェアのコンポーネントの統合の仕上げ過程で佳境に入っている。そもそも公道走行が全く許されないレーシングカーであれば、主にブレーキシステムの開発では極限でのパフォーマンスだけに最適化すれば良い。しかし今回の車両は、一般ドライバー向けのドライビングシステムは搭載されていないたるめ、車両開発には特別な技術が必要になった。
それゆえCESモータースポーツ チームは、どんなドライバーでもコントロールできる優れたドライビング ダイナミクスを備えた車両を作るという途方もない課題に取り組むことになった。
1,600 馬力のパワーユニットを搭載したモンスターマシンのステアリングを握りながら、破綻なくレーシングマシンを制御し続けるにはドライバー自身が、ステア操作やブレーキ操作のバランスを取りつつ、車体の姿勢を正確にマネージする必要がある。
そこでCESモータースポーツ チームは、あらゆる走行下での多様なシナリオを検証。電子制御技術を駆使して可能な限り最高のブレーキ性能を発揮させつつも、車両の安定を一貫して維持できるバランスづくりに取り組んだ。
しかし時速380kmで疾走する1,600馬力のスーパースポーツカーで、一度ハードブレーキを踏むと最大2.5の減速Gが発生する。これは一般的なスポーツ車両の最大減速Gの2倍以上に達する。併せて高速走行時のダウンフォースなどの空力特性も考慮する必要がある。
これらの極限の要件を満たすため、CESのエンジニア達は、モータースポーツ用のソフトウェアパッケージを大きくかつ丁寧に改造しなければならない。そうしたなかでCESは、最初の打ち合わせから最終的な走行テストまで、わずか1年でこの専用制御システムを仕上げることに成功した。
全てのドライバーが自在に制御できる敷居の低いレーシングカーを作る
そうした過酷な開発過程について、ブガッティのボリード担当チーフエンジニアを務めるクリスチャン・ウィルマン氏は、「我々のESCシステムがこれだけの大きなカーボンブレーキシステムに利用される機会はこれまで、ありませんでした。
しかし今回は、ボリードを対象にあえてこの取り組みに挑戦し、パフォーマンス、安定性、安全性に於いて期待を上回るソリューションを生み出すことに成功しました。結果、コンチネンタルのモータースポーツABSを駆使したボリードのドライビングプレジャーは、大変優れたシステムに仕上がっています」と説明した。
その説明に続いてCES のシャシー & ブレーキ システム事業部長のフォルカー ファン リアー氏は、「この特別なプロジェクトで、ブガッティと共に限界を押し広げることができたことを非常に誇りに思います。
但しハイパーカーのブレーキ制御技術の開発は、コンチネンタル エンジニアリング サービスが豊富な経験を持つ特別な分野です。それはプロだけに向けたモータースポーツ用の純レーシングマシンとして仕立て上げる訳ではないからです。
プロ・アマを問わず全てのドライバーが自在に制御できる敷居の低いレーシングカーを作ることは、私たちにとっても興味深い挑戦だったからで、大きなやり甲斐を感じる仕事となりました」と語っている。