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米テクノロジー見本市「CES」が1月10日(日本時間11日)に閉幕した。ショー自体は2025年を迎えて会場の賑わいが戻り、コロナ禍からの完全復活を示した。但しファーウェイを筆頭とする中国テック大手の出展は減少、新常態の到来を予感させる開催模様となった。
ただ一方で、会場内での中国系比率は依然高く、中国系ベンチャーが米国などの中国外に拠点を構えた当該企業が見られ、今年のスタートアップ1400社のなかに於ける中国比率は高いものと見られる。国別の出展者数のベストスリーは、米国企業(1509)、中国企業(1399)、韓国企業(1031)となっている。
ちなみに主催者発表によるとトータルの出展企業は4,500社超で、この数値は昨年より200程度増加した計算となる。来場者は141,000人超(メディア傘下の6,000人超を含む)となった。この来場者の数はコロナ前の2020年に記録した17万1,000人には及ばないものの、昨年の来場者数13万8,000人から確実に超えた。結果、世界で最もパワフルなテックイベントという立ち位置は不動のものとなっている。
もとより毎年1月に米ラスベガスで開催されるCESは、かつては〝コンシューマー・エレクトロニクス・ショー〟と呼ばれ、文字通り最新鋭のTVなどが並ぶ家電見本市であったのだが、ここ数年は「CES」の3文字をメインタイトルとして打ち出し、テクノロジー見本市であることを自ら発信するようになった。これに倣い、出展企業も出展品目を整理。ゲーム機の出展枠は以前よりは縮小される傾向で、技術を背景とした多角的な産業コンテンツの提案(また提案力を持つ企業という立ち位置)に切り替える流れになっている。
実際、今年の出展概要では、現行の自動車産業に取って代わるモビリティ領域の出展が大きく拡大。例えばソニー陣営では、自社をクリエイターが作りたいものを作れる技術環境を提供するテック企業として打ち出し、傘下のソニー・ホンダモビリティも「AFEELA」ブランドのモデル「AFEELA1」を市販化モデルとして遂にリリース。カリフォルニアで2025年内の正式発売(上位モデルのみ)と2026年中旬の納車開始(上位モデルを10万2900ドル/約1625万円、ベースモデルを8万9900ドル/約1400万円で販売する意向)を明らかにした。
またソニーと組んできたホンダ自身も、昨年発表したコンセプトEVを「0(ゼロ)シリーズ」と銘打ち、逸早く米国内で生産する予定であることを発表。こちらは求め易い価格帯での自動運車であることを打ち出しており、いよいよ米国内での自動運転EVの鍔迫り合いに参画する意思を明確にした。
CESの本開催に先駆けて6日から行われたキーノートスピーチでも、前年の小売・金融のリテール領域とは異なり、NVIDIAを筆頭にモビリティ系製品やサービスの提案が目立った。
また新たな半導体とAIの組み合わせはモビリティの自動運転を大きく加速させる傾向にあり、この勢いは、ものづくりの生産現場などに供されるロボットの知能化にも及んだ。こうしたロボティクス分野では、プロセスオートメーションが加速。産業ロボット、物流ロボット、サービスロボット、防衛ロボットなど大きな拡がりを生んでいる。
対して、その他の領域での日本企業では、京セラが水中に於いて約100メートル離れた場所へ大容量データを送信できる「水中光無線通信」を提案。海中の石油パイプラインの検査時などに活用できる可能性があることを示唆した。
日立製作所は仮想現実(VR)技術を使い、工場内の設備点検を行える実証システムを公開。クボタは、農園などでのラストワンマイル輸送を想定。傾斜地でもバランスを取って自動走行する小型車両を提案した。広大な農園に於ける輸送モビリティは数年前にヤマハ発動機も提案していたが、クボタでは、より走破性を高めた仕様としたようだ。
過酷な環境下という意味では、コマツは月面で使う建設用機械の模型を展示した。サイバー空間に月面の環境を再現。地球上に比べ重力が少なく(約6分の1)、気温変化が激しいなかでの耐久性などを検証・提案した形だ。
そうしたなかで日本の課題は明白だ。というのは、新提案の多くは、いずれもソフトウエアやAIの活用をベースに持ち前の技術を高度化させる考えであり、それは多くの日本勢にとってソフトウエア人材をどう確保していくかという喫緊の課題が浮上してくるからだ。具体的には、ソフトウエア開発に強みを持つスタートアップとどう協業するか、場合によっては、より素早い動きを実現するべく企業買収も重要な経営課題になりそうだ。