ブリヂストンとENEOS(エネオス)は2月18日、「使用済タイヤの精密熱分解によるケミカルリサイクル(※1)」技術の社会実装に向けた共同プロジェクトを開始したと発表した。
両社は、同プロジェクトを通じて、ブリヂストンが掲げる「2050年サステナブルなソリューションカンパニーとして社会価値・顧客価値を持続的に提供している会社へ」と、ENEOSが掲げる「低炭素・循環型社会への貢献」という共通するビジョンの実現を目指す。
なお、今回の共同プロジェクトは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金事業(※2)/CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発」に採択された実証事業「使用済タイヤからの化学品製造技術の開発」に於ける2つの研究開発項目の内の一つにあたる(※3、※4)と云う。
タイヤ需要は、自動車・交通需要の増加に伴い、将来も継続して拡大(※5)していくことが見込まれている。タイヤには現在、主な材料の一つとして石油由来の合成ゴムが使用されており、使用済タイヤの多くはサーマルリカバリー(熱回収)(※6)といった形で燃料利用されるが、その際にCO2を排出する。
共同プロジェクトでは、ブリヂストンがタイヤ・ゴム事業を通じて培ってきた高機能ゴムなど高分子素材の設計技術と、ENEOSが有する原油精製技術や基礎化学品製造に関する基盤技術を最大限融合させ、使用済タイヤのケミカルリサイクル技術の確立を目指す。
具体的には、使用済タイヤを精密熱分解して得られる分解油を石化原料(ナフサ(※7)等)化し、この石化原料から合成ゴム(※8)の素原料であるブタジエン等の化学品を高収率に製造する「ケミカルリサイクル」技術の社会実装に向けた実証実験を実施。2030年までに量産を想定した大規模実証試験を行い、その後、早期の事業化を進める。
共同プロジェクト実施の背景
ブリヂストングループでは、「2050年サステナブルなソリューションカンパニーとして社会価値・顧客価値を持続的に提供している会社へ」をビジョンとして掲げ、中長期事業戦略/中期事業計画(2021-2023)(※9)を実行。その中核として、バリューチェーン全体でサーキュラーエコノミー、カーボンニュートラル化への取り組みと、ビジネスモデルを連動させる「サステナビリティビジネス構想(※10)」 の実現に向けた取り組みを加速。タイヤを「創って売る」タイヤ事業、ユーザーがタイヤを「使う」段階で価値を提供するソリューション事業に加えて、2021年にはタイヤを原材料に「戻す」リサイクル事業の探索と研究開発を行っている。
一方、ENEOSグループでは、2040年グループ長期ビジョンにて「低炭素・循環型社会への貢献」を掲げ、低炭素・循環型社会の実現のため、再生可能資源の更なる利用を促進。その取組みの一環として、グループ全体で、環境対応型事業としての製油所を活用した油化リサイクルを推進している。
両社は、この共同プロジェクトを通じて、タイヤ・ゴム産業、石油・石油化学産業に於いて培ってきた技術やノウハウを融合し、タイヤに関わるこれらの産業のカーボンニュートラル化、および持続可能な社会の実現に貢献。将来に向けて、これらの産業のバリューチェーンに於けるさらなる資源循環性の向上やCO2排出量の削減に取り組んでいくとしている。
[代表者のコメント]
・ブリヂストン グローバルCEO 石橋秀一氏
ブリヂストングループでは、サステナビリティを経営の中核に据え、将来に亘って社会価値・顧客価値を創出し続けるサステナブルなソリューションカンパニーへと進化するため、様々なパートナーとの共創に取り組んでいます。
その中で、石油・石油化学産業におけるリーディングカンパニーであるENEOS社との共創は、タイヤ・ゴム産業の資源循環性の向上とカーボンニュートラル化に向けた大きな一歩であり、大変嬉しく思います。
本プロジェクトを通じて、使用済タイヤを原材料に「戻す」リサイクルを事業として確立し、社会実装することは、当社グループの「サステナビリティビジネス構想」の実現につながるものと確信しています。
ブリヂストングループは、今後も、持続可能な社会の実現へ向け、様々な共創活動を推進していきます。
・ENEOS 代表取締役社長 大田勝幸氏
当プロジェクトは、当社グループの 2040 年長期ビジョンで掲げる「低炭素・循環型社会の形成への貢献」につながるものです。
今回、タイヤ・ゴム業界のリーディングカンパニーであるブリヂストン社と共同開発を実施することで再生可能資源の利用促進が更に進むものと確信しています。当社が長年培ってきた技術を十分に生かしながら、循環型社会実現に向けてサプライチェーン全体で協力し、取り組んでまいります。
※1:使用済みの資源を、そのままではなく、化学的に処理し、他の化学物質に転換してリサイクルすること。
※2:日本政府が掲げる「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という目標の達成に向けて、エネルギー・産業部門の構造転換や大胆な投資によるイノベーションの加速を目指し、経済産業省により設置された制度で、この目標に経営課題として取り組む企業等に対して、10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援する。
※3:(NEDO)グリーンイノベーション基金事業で、CO2からプラスチック原料を製造する技術開発に着手(2022年2月18日付・ニュースリリース):https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101517.html
※4:(ブリヂストン)ブリヂストン、企業とアカデミアによる、使用済タイヤから合成ゴム素原料であるイソプレンを製造するケミカルリサイクル技術の共同研究を開始(2022年2月18日付・ニュースリリース):https://www.bridgestone.co.jp/corporate/news/2022021802.html
※5:(新化学技術推進協会)「化学産業が紡ぐ30年後の未来社会とイノベーション戦略 個別戦略編 基礎化学品製造分野の技術戦略(1)ゴム編」:http://www.jaci.or.jp/public/page_03.html#rubber
※6:使用済みの資源から熱エネルギーを回収すること。
※7:主に原油から得られるガソリンに近い油を指す。ナフサを熱によって分解することで、プラスチック、合成ゴム、合成繊維、塗料、合成洗剤などの原料が作られている。
※8:タイヤの主材料の一つで、現在は主に石油から製造されているゴム。
※9:(ブリヂストン)中長期事業戦略/中期事業計画(2021-2023)進捗:https://www.bridgestone.co.jp/ir/library/strategy/index.html
※10:(ブリヂストン)ブリヂストン、サステナビリティビジネス構想を発表(2020年12月22日付・ニュースリリース):https://www.bridgestone.co.jp/corporate/news/2020122201.html/(ブリヂストン)株式会社ブリヂストン年末定例記者会見・中長期事業戦略進捗(PDF):https://www.bridgestone.co.jp/ir/library/strategy/pdf/JPN_yearendpressconference2020.pdf