写真、向かって左からロバート・ボッシュGmbH取締役会会長のシュテファン・ハルトゥング氏、右側はロバート・ボッシュGmbH取締役会メンバー兼モビリティ事業セクター会長のマルクス・ハイン氏
ボッシュのソフトウエアは〝Invented for life〟であり続ける
現在のロバート・ボッシュGmbHにとって、最も注力すべき事業領域はプログラミングであり、事実グローバル規模で同社はソフトウェアサービスを介して事業拡大を図っている。またボッシュは2030年までにソフトウェアによって数十億ユーロ規模の売上高の達成を目指している。( 坂上 賢治 )
先のBosch Tech Day 2024( 開催地:バーデン=ヴュルテンベルク州レニンゲン、開催日時:6月19日 )の壇上で同社取締役会会長のシュテファン・ハルトゥング氏は、「今日のボッシュはソフトウェア分野に精力的に取り組むテック企業でありますが、それ以前からもソフトウエア分野には注力してきました。そんな私たちが手掛けるソフトウェア製品は常に、人々の生活を向上させる〝Invented for life( 生活のための発明 )〟であり続けています。
ロバート・ボッシュGmbH取締役会会長のシュテファン・ハルトゥング氏
現在、我々が開発・提供するソフトウェアは、既に様々な大手企業の生産ライン、多くの車両修理工場、医療機器など多方面で活用されています。
その一例では、ドライバーに逆走車にの接近を警告する逆走警報システム、貴重な資産や商業ビル向けのシステム管理技術、更には宇宙空間上の国際宇宙ステーションでも活躍しています。
目下、当社では約48,000人の従業員がソフトウェアのプログラミング業務に携わっており、そのうち42,000人はモビリティセクターに属しています。この事実が示す通り、おそらく今後ソフトウェア技術は、自動車業界全体を抜本的に変革する存在になります。
ちなみに当社は、モビリティ、製造、ビルディングテクノロジーなどの幅広い分野で、ソフトウエアビジネスに係る専門技術を有しており、そうした背景が多くのIT企業とのパートナー関係の源泉となっています。
しかし今後、IT企業やAI企業との協業を進展させるには、彼らとの対等なパートナーシップ関係が欠かせません。その理由は、世界広しと言えどもソフトウエアとハードウエアを一括管理できる企業は一部を除き(後に後述)殆ど存在しないからです。
このような状況下に於いて、企業の垣根を越えて専門知識を共有し、コストを削減し、標準化されたソリューションを生み出すために最も有益なツールは、〝オープンソースソフトウェア〟が鍵となります。
また併せて政策や事業に於ける指針の立案者も、個々のプロジェクト進展に重要な役割を担います。というのは、ソフトウェア開発に於いてAI技術が重要になっていくなかでも企業活動に欠かせない大切な要素があるからで、それは計画の確実性です。
これは欧州連合で最近可決されたAI法にも当てはまります。EUでは現在、AI法に基づく規格や規制などを迅速に策定する必要性が生じています。
一方で、そうした規制がテクノロジーの進化の歩みを不必要に鈍化させたり、変革を妨げたりしてはなりません。それゆえ政策や事業策定に係るブレない一貫性は、どのようなプロジェクト進行にあたっても、プロジェクトの安定化のための骨子となるからです」と述べた。
SDMがもたらすボッシュとモビリティビジネスの未来像
ロバート・ボッシュGmbH取締役会メンバー兼モビリティ事業セクター会長のマルクス・ハイン氏
このハルトゥング会長の主張を受けて、ロバート・ボッシュGmbH取締役会メンバー兼モビリティ事業セクター会長のマルクス・ハイン氏は、「未来のクルマはデジタル領域とシームレスに統合されることになるでしょう。
その結果、トラック、二輪車、eBikeを含む全てのモビリティは、自らの通信能力を活かしたOTA( Over-the-Air )機能により自らの性能を逐次アップデートできるようになります。そうなれば車両故障の度に修理工場を訪れる必要は無くなります。つまりボッシュのソフトウエア技術は、車両の経年劣化を遅らせることができるようになるのです。
実際、我々は2021年末に〝eBike Flowアプリ〟を発表して以来、eBike向けのスマートシステムを通じて、警告音、トラッキング機能、新しい走行モードなど、約70もの新機能や改良を通信環境を介して導入してきました。つまり、もはや現代の事業の柱となっているのはソフトウェアを介したデジタルサービスであり、これらは産業の垣根を越えたイノベーションの原動力となっています。
今日、こうした領域に於ける自動車産業界の新しいトレンドを包括して、〝ソフトウェア・ディファインド・ビークル( SDM )〟と称されています。ソフトウェアは、新しい車両モデルの設計と開発の出発点として益々脚光を浴びています。
最近のマッキンゼーの調査報告書では、自動車用ソフトウェアとエレクトロニクスの世界市場は、2030年までに4,620億ドルに達すると予測されています。2023年以降、車両に占めるソフトウェアの割合は3倍になる見込みです。
ボッシュはこの成長市場に加わり、世界中の自動車メーカーにとって信頼性の高いパートナーであり続けたいと考えています。
というのは、そもそもボッシュにとって、このトレンドは追い風となります。なぜなら、ボッシュはハードウェアとソフトウェアの両方に精通しているからです。私たちは自動車エレクトロニクスとクラウドの相互作用に完全に精通する数少ない企業のひとつなのです。
例えばVehicle Health( ビークル・ヘルス / 車両全体の状態を透明化させるための技術 )のようなソフトウェアとサービスソリューションの組み合わせにより、当社はフリート運用に於ける車両の故障回避、並びに効率向上を支援できます。
また物流会社に対しては、デジタルプラットフォームのBosch L.OS( Bosch Logistics Operating System )があります。このBosch L.OSとは、様々な物流領域で既存および新規のデジタル サービスとソリューションの水平統合に重点を置いたデジタル サービス プラットフォームです。
そのBosch L.OSの基盤となっているものは、個々のシステムやサービスに依存することなく、物流と車両管理のプロセスを当社独自のユーザー エクスペリエンスで実現するものです。そんなBosch L.OSにより物流のデジタル化を促進し、次第にオペレーションチェーン全体を簡素化していきます。
統合される車両制御技術で車両運行はよりスムーズになる
これに併せて当社は、プロのドライバーが運転するかのように、緊急停止を含む制動動作を、ほとんど揺れのない非常にスムーズにする特別なソフトウェアの「eBrake to Zero」を開発しました。
このeBrake to Zeroによる機能で、停止と発進を繰り返す運転時のブレーキ操作が快適でリラックスできるものになるだけでなく、プロのドライバーと同じ位スムーズにブレーキを掛けるソフトウェアにより、揺れのない停止と発進が実現し、同乗者の乗り物酔いの防止にも繋がります。
ソフトウェア・ディファインド・モビリティは、車両アーキテクチャの変化とも密接に関係しています。従来のドメイン固有ITとエレクトロニクスアーキテクチャから、少数の非常に強力なコンピューターとセンサーを用いて集中化されたクロスドメインのアーキテクチャに移行しつつあるのです。
現在、1台の車両には、複数メーカーのコントロールユニットが約100台搭載されています。しかし将来のソフトウェア・ディファインド・ビークルでは、十数台の車両コンピューターによって機能を統合制御されるようになるでしょう。
これを実現するには、最新の車両コンピューターにドメイン固有機能を組み合わせる必要があります。こうした状況を踏まえ、今年初めにボッシュとQualcomm( クワルコム )は共同で新しい車両コンピューターを発表。このコンピューターシステムを介して、インフォテインメントと運転支援機能が初めて統合されました。
これは、自動車メーカーにとっては設置スペース、ケーブル数、重量の削減のみならず、コスト自体の大幅な削減にも繋がります。インフォテインメントと運転支援の統合により、コントロールユニットだけでも最大30%のコスト削減が可能になるです。
このような高度な車両コンピューター全般の制御に於いて、既にボッシュは成功への道を歩みつつあります。こうした分野で我々は、過去3年間で40億ユーロ近い売上高を達成しています。
但し、ソフトウェア・ディファインド・ビークルに紐付いた車両の多様なコンピューターとソフトウェアパッケージは、その統括車両が10台でも100台であっても、車両ブランドの垣根を越えて通信できるように相互にネットワーク化する必要があります。
当社子会社イータス( ETAS GmbH )は、そのためのミドルウェア(車両の物理的なコンポーネントとアプリケーション ソフトウェア間の変換ソフトウェア)を提供しています。
これにより、異なるサプライヤー製の製品でも連動が可能になります。それゆえ現在、欧州に於いてボッシュの部品を搭載していない車両が殆ど存在しないように、将来的には、あらゆる車両にボッシュのソフトウェアが搭載されることになるでしょう」とBosch Tech Day 2024に於いて自車のビジネスの未来像について説明していた。