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2024年6月20日【CASE】

ボッシュ、ソフトウェア事業がもたらす自動車の未来を語る

坂上 賢治

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写真、向かって左からロバート・ボッシュGmbH取締役会会長のシュテファン・ハルトゥング氏、右側はロバート・ボッシュGmbH取締役会メンバー兼モビリティ事業セクター会長のマルクス・ハイン氏

 

ボッシュのソフトウエアは〝Invented for life〟であり続ける

 

現在のロバート・ボッシュGmbHにとって、最も注力すべき事業領域はプログラミングであり、事実グローバル規模で同社はソフトウェアサービスを介して事業拡大を図っている。またボッシュは2030年までにソフトウェアによって数十億ユーロ規模の売上高の達成を目指している。( 坂上 賢治 )

 

先のBosch Tech Day 2024( 開催地:バーデン=ヴュルテンベルク州レニンゲン、開催日時:6月19日 )の壇上で同社取締役会会長のシュテファン・ハルトゥング氏は、「今日のボッシュはソフトウェア分野に精力的に取り組むテック企業でありますが、それ以前からもソフトウエア分野には注力してきました。そんな私たちが手掛けるソフトウェア製品は常に、人々の生活を向上させる〝Invented for life( 生活のための発明 )〟であり続けています。

 

ロバート・ボッシュGmbH取締役会会長のシュテファン・ハルトゥング氏

 

現在、我々が開発・提供するソフトウェアは、既に様々な大手企業の生産ライン、多くの車両修理工場、医療機器など多方面で活用されています。

 

その一例では、ドライバーに逆走車にの接近を警告する逆走警報システム、貴重な資産や商業ビル向けのシステム管理技術、更には宇宙空間上の国際宇宙ステーションでも活躍しています。

 

 

目下、当社では約48,000人の従業員がソフトウェアのプログラミング業務に携わっており、そのうち42,000人はモビリティセクターに属しています。この事実が示す通り、おそらく今後ソフトウェア技術は、自動車業界全体を抜本的に変革する存在になります。

 

ちなみに当社は、モビリティ、製造、ビルディングテクノロジーなどの幅広い分野で、ソフトウエアビジネスに係る専門技術を有しており、そうした背景が多くのIT企業とのパートナー関係の源泉となっています。

 

しかし今後、IT企業やAI企業との協業を進展させるには、彼らとの対等なパートナーシップ関係が欠かせません。その理由は、世界広しと言えどもソフトウエアとハードウエアを一括管理できる企業は一部を除き(後に後述)殆ど存在しないからです。

 

 

このような状況下に於いて、企業の垣根を越えて専門知識を共有し、コストを削減し、標準化されたソリューションを生み出すために最も有益なツールは、〝オープンソースソフトウェア〟が鍵となります。

 

また併せて政策や事業に於ける指針の立案者も、個々のプロジェクト進展に重要な役割を担います。というのは、ソフトウェア開発に於いてAI技術が重要になっていくなかでも企業活動に欠かせない大切な要素があるからで、それは計画の確実性です。

 

 

これは欧州連合で最近可決されたAI法にも当てはまります。EUでは現在、AI法に基づく規格や規制などを迅速に策定する必要性が生じています。

 

一方で、そうした規制がテクノロジーの進化の歩みを不必要に鈍化させたり、変革を妨げたりしてはなりません。それゆえ政策や事業策定に係るブレない一貫性は、どのようなプロジェクト進行にあたっても、プロジェクトの安定化のための骨子となるからです」と述べた。

 

SDMがもたらすボッシュとモビリティビジネスの未来像

 

ロバート・ボッシュGmbH取締役会メンバー兼モビリティ事業セクター会長のマルクス・ハイン氏

 

このハルトゥング会長の主張を受けて、ロバート・ボッシュGmbH取締役会メンバー兼モビリティ事業セクター会長のマルクス・ハイン氏は、「未来のクルマはデジタル領域とシームレスに統合されることになるでしょう。

 

その結果、トラック、二輪車、eBikeを含む全てのモビリティは、自らの通信能力を活かしたOTA( Over-the-Air )機能により自らの性能を逐次アップデートできるようになります。そうなれば車両故障の度に修理工場を訪れる必要は無くなります。つまりボッシュのソフトウエア技術は、車両の経年劣化を遅らせることができるようになるのです。

 

実際、我々は2021年末に〝eBike Flowアプリ〟を発表して以来、eBike向けのスマートシステムを通じて、警告音、トラッキング機能、新しい走行モードなど、約70もの新機能や改良を通信環境を介して導入してきました。つまり、もはや現代の事業の柱となっているのはソフトウェアを介したデジタルサービスであり、これらは産業の垣根を越えたイノベーションの原動力となっています。

 

 

今日、こうした領域に於ける自動車産業界の新しいトレンドを包括して、〝ソフトウェア・ディファインド・ビークル( SDM )〟と称されています。ソフトウェアは、新しい車両モデルの設計と開発の出発点として益々脚光を浴びています。

 

最近のマッキンゼーの調査報告書では、自動車用ソフトウェアとエレクトロニクスの世界市場は、2030年までに4,620億ドルに達すると予測されています。2023年以降、車両に占めるソフトウェアの割合は3倍になる見込みです。

 

ボッシュはこの成長市場に加わり、世界中の自動車メーカーにとって信頼性の高いパートナーであり続けたいと考えています。

 

というのは、そもそもボッシュにとって、このトレンドは追い風となります。なぜなら、ボッシュはハードウェアとソフトウェアの両方に精通しているからです。私たちは自動車エレクトロニクスとクラウドの相互作用に完全に精通する数少ない企業のひとつなのです。

 

 

例えばVehicle Health( ビークル・ヘルス / 車両全体の状態を透明化させるための技術 )のようなソフトウェアとサービスソリューションの組み合わせにより、当社はフリート運用に於ける車両の故障回避、並びに効率向上を支援できます。

 

 

また物流会社に対しては、デジタルプラットフォームのBosch L.OS( Bosch Logistics Operating System )があります。このBosch L.OSとは、様々な物流領域で既存および新規のデジタル サービスとソリューションの水平統合に重点を置いたデジタル サービス プラットフォームです。

 

そのBosch L.OSの基盤となっているものは、個々のシステムやサービスに依存することなく、物流と車両管理のプロセスを当社独自のユーザー エクスペリエンスで実現するものです。そんなBosch L.OSにより物流のデジタル化を促進し、次第にオペレーションチェーン全体を簡素化していきます。

 

統合される車両制御技術で車両運行はよりスムーズになる

 

これに併せて当社は、プロのドライバーが運転するかのように、緊急停止を含む制動動作を、ほとんど揺れのない非常にスムーズにする特別なソフトウェアの「eBrake to Zero」を開発しました。

 

このeBrake to Zeroによる機能で、停止と発進を繰り返す運転時のブレーキ操作が快適でリラックスできるものになるだけでなく、プロのドライバーと同じ位スムーズにブレーキを掛けるソフトウェアにより、揺れのない停止と発進が実現し、同乗者の乗り物酔いの防止にも繋がります。

 

 

ソフトウェア・ディファインド・モビリティは、車両アーキテクチャの変化とも密接に関係しています。従来のドメイン固有ITとエレクトロニクスアーキテクチャから、少数の非常に強力なコンピューターとセンサーを用いて集中化されたクロスドメインのアーキテクチャに移行しつつあるのです。

 

現在、1台の車両には、複数メーカーのコントロールユニットが約100台搭載されています。しかし将来のソフトウェア・ディファインド・ビークルでは、十数台の車両コンピューターによって機能を統合制御されるようになるでしょう。

 

これを実現するには、最新の車両コンピューターにドメイン固有機能を組み合わせる必要があります。こうした状況を踏まえ、今年初めにボッシュとQualcomm( クワルコム )は共同で新しい車両コンピューターを発表。このコンピューターシステムを介して、インフォテインメントと運転支援機能が初めて統合されました。

 

 

これは、自動車メーカーにとっては設置スペース、ケーブル数、重量の削減のみならず、コスト自体の大幅な削減にも繋がります。インフォテインメントと運転支援の統合により、コントロールユニットだけでも最大30%のコスト削減が可能になるです。

 

このような高度な車両コンピューター全般の制御に於いて、既にボッシュは成功への道を歩みつつあります。こうした分野で我々は、過去3年間で40億ユーロ近い売上高を達成しています。

 

但し、ソフトウェア・ディファインド・ビークルに紐付いた車両の多様なコンピューターとソフトウェアパッケージは、その統括車両が10台でも100台であっても、車両ブランドの垣根を越えて通信できるように相互にネットワーク化する必要があります。

 

 

当社子会社イータス( ETAS GmbH )は、そのためのミドルウェア(車両の物理的なコンポーネントとアプリケーション ソフトウェア間の変換ソフトウェア)を提供しています。

 

これにより、異なるサプライヤー製の製品でも連動が可能になります。それゆえ現在、欧州に於いてボッシュの部品を搭載していない車両が殆ど存在しないように、将来的には、あらゆる車両にボッシュのソフトウェアが搭載されることになるでしょう」とBosch Tech Day 2024に於いて自車のビジネスの未来像について説明していた。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。