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2023年9月29日【オピニオン】

BASF、自動車カラートレンド予測2023〜24を公開

坂上 賢治

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一部のカラーのデザインに初めてAIを活用したとする塗色も披露

 

自動車・二輪車向け塗料を扱う独・BASF・SE(本社:Ludwigshafen、CEO:Martin Brudermüller)は9月28日、傘下のBASFジャパン(本社:東京都中央区、代表取締役社長:石田博基)の開発拠点(横浜市)に報道陣を募り〝自動車のカラートレンド2023-2024〟を発表。この会見でアジア・パシフィックエリアの自動車塗料事業を担う同日本法人は、今年のコレクションテーマがON VOLUDE(漸進)であることを明らかにした。(坂上 賢治)

 

それによると今後、数年間に亘って、世界各国の自動車メーカーからは、既存の塗色とは全く異なるボディーカラーを纏った新型車が、相次いで生産・販売されていくだろうとした。

 

ちなみにそんな同社が、今年のテーマに据えた〝漸進〟とは、本来〝水に浸した生地などへ水分がゆっくりと浸潤する様子〟を例えた比喩でもあり、会見に登壇した松原 千春氏(アジアパシフィック チーフカラーデザイナー)は、「これまで自動車で伝統的に使われてきた色彩が持てはやされた時代から、新たな世代の価値観と融合しつつ次第に刷新される時期がゆっくりと近づいているように思います」とそのテーマについて語った。

 

 

また今年のコレクションテーマ〝漸進〟について松原氏は、「私たちは近年〝バーチャルと現実〟〝人間とAI〟など、多様な価値観が融合していく将来像を見据えています。

 

その結果、自動車向けとしては伝統的ではない新しい色彩が生まれ、私たちは日々、進化していく未来を肌感覚で察知していることから、今年は、ON VOLUDE(漸進)をテーマに、これまで以上にサステナビリティと機能性の組み合わせを重視したカラー表現をコレクションとして加えました。

 

なかでも特に明るい色合いと表現豊かな色域に着目しました。そんな私たちの今年コレクションは、お客様である自動車デザイナーが、将来の最新モデルの自動車カラーをデザインする際に活用される流れにあるため、今後3年から5年の間の新たな方向性を、いずれ目にされることになるでしょう」と述べた。

 

ちなみにBASFでは毎年、米州、アジア太平洋、EMEA(欧州・中東・アフリカ)で3拠点を個々にウオッチし続けるアナリストたちが、広く自動車産業向けに最新のカラートレンドを発信している。

 

 

それを前提に、先のON VOLUDE(漸進)として打ち出した同社のキーワードは、時代の流れを捉え、塗色面の表面や質感などカラーデザイナーならではの独自技術を駆使することを介して、個々地域毎のカラートレンドとキーカラーで示したものだ。

 

それらはいずれも、端的な言語表現で綴られており、例えば今年の米州のカラートレンドは〝機能性に於いて進化するカラー〟、アジア太平洋は〝持続可能なコンセプトへの現実的なアプローチ〟、欧州・中東・アフリカ(EMEA)は〝カラーホジョンを遙かに超えた機能を追求〟となっている。加えて今年は、一部のカラーのデザインに初めて人工知能(AI)を活用したとする塗色も披露した。

 

米州地域のキーカラーは、見慣れた色彩表現に新しい付加価値を与えた

 

では当記事では、以降に於いて各拠点のキーカラーを順に紹介していく。まず米州のキーカラーは、同社が〝ZENOMENON(ゼノメノン)〟と呼び・表現するブルー系が提案されている。

 

具体的な色彩表現としては、車体外板の絞りやラインの入れ方などにより、表面にあたる光の角度によって、透明感を持つブルーの外板色が流れるようにさりげなくイエロー系やグリーン系の色域に変化して見えるというもの。但し色彩表現の基調はあくまでもブルーだ。

 

 

この米州のカラートレンドについて松原氏は、「見る人を惹きつける、ありふれて見慣れた色彩で表現されているように見えるけれども、実際は、新しい価値を付与することで彩られたカラー表現です。それはブルー系の一色で表現されているように見えても角度によって見え方が違うのです。

 

米国では。これまで自動車に、赤色寄りのパステルカラーや中間色が採用されてきました。けれども最近は、再生と回復を示唆する黄色や緑色の採用が増加しています。

 

 

但し、それは以前にあった奇抜さだけを訴求するカメレオンカラーとは異なり、目を凝らして見ると、微妙な光り方をする透明感を持つ多層的なレイヤーを重ねた色彩表現になっています。

 

つまりソリッド調から、僅かな光の干渉に反映するようテクチャーの機能を活用して光が乱反射することで、多彩な色彩を表す構造色が、微妙かつ幅広い色彩表現を実現させたということです」と説明した。

 

ちなみにそうした米州セクションからの訴求は、他の同地域のカラー表現でも同じであるようだ。例えば黒を基調とした塗色でも、スモーキーな色層に下に、蝶の羽や昆の外骨格で光があたると変化するような構造的なレイヤー層が重ねられている。

 

それはプリズムを介して多層的な色が出る仕組みを活かしているとした。つまり子供のシャボン玉遊びで、空中を舞う虹色のシャボン玉自体は、実際には全く色を持たないものだが、シャボン玉は、外界からの光の入射角度によって見る人に多彩な色彩感覚を与えることが出来ている。

 

同社が提案するカラートレンドは、そうした構造色的な機能を持つ着色顔料を利用したカラー表現であるという。

 

アジア太平洋地域のキーカラーは、浮遊感のある蛍光色が特徴

 

続いてアジア太平洋地域のキーカラーは、ELECTRONIC CITRUS(エレクトロニックシトラス)と呼ぶ明るいグリーン系カラーが提案されている。色彩表現としては、ライトグリーンの蛍光色に浮遊感のあるブルーハイライトを加えたものだ。

先の松原氏によると、「アジア太平洋地域のキーカラーは、困難な時代であっても前向きな姿勢と成長を示す今を表現するため、典型的なパステル調のライトグリーンを使い、デジタルイメージとリアルなイメージの融合を象徴的に表したような色として開発しました。

 

 

パステル調の淡い色調は、今、コンピューターゲームでも頻繁に使われるようになり、Z世代にも馴染みのあるカラーです。そこに現実のレイヤー感を重ねた表現となっています。

 

今日、社会でAR(拡張現実)が日常生活で身近なものになるにつれて、現実世界の視点が多層化している現実を、浮遊感ある発光色を重ねることで表現したものです。

 

 

今回の色彩表現に於いては、具体的にはスリーコート塗色を使い、ソリッドタイプのグリーンにイエローのシェードが重ねられています。更にハイライトにグリーンパールを掛けているのでレイヤーの層が深みを与え、奥行き感の強い表現が出来ています。

 

また実は、アジア太平洋のカラートレンドに係る取り組みでは、これまで伝統的に使われてきた既存の自動車のボディカラーを出発点に、未来のクルマに対してどう表現していくかに取り組みました。

 

例えば、ホワイトパールをテーマとしたものでも最新技術を投入して、なるべく綺麗なハイライトが出るように配光性をコントロールするなど、例えソリッドカラーであっても多角的・多層的に美しく見せることに拘りました。

 

つまりこのアジア太平洋に於けるカラーパレットは、色彩とテクスチャーによる加工処理の組み合わせによって、未来的でモダンかつ、遊び心のあるカラーハーモニーを生み出すことが出来るようになっています」と説明した。

 

EMEAのキーカラーは、伝える・声を上げる等の人の意志を反映させた

 

最後にEMEA(欧州、中東、アフリカ)のキーカラーは、PREDICTOR(プレディクター)と呼ぶ明るいベージュが提案されている。

 

このカラーは、技術進化に対してオープンさを求める人のニーズを表現しているとされ、その色相はこれまでの〝固い金属鋼鈑に塗色するカラー表現〟とは、少し掛け離れている視覚表現となっているようだ。

 

 

実際、当該同社のリリースによると〝表現豊かなカラーは、伝える、声を上げるという私たちの意志を反映しています。

 

自動車では使われなかった色を取り入れることで会話が広がり、新しくエキサイティングな色域が生まれます〟としており、筆者の印象では、服飾や食品パッケージにも使えるような色彩表見になっているように映る。

 

 

このEMEAのカラートレンドに関して松原氏によると、「欧州では、人気の高いマットカラーの先を行く、ビジュアル的にも、目で見た的にも、新しく感じる印象や感触・視覚表現を織り込み・融合させて作り込んだ新しい色彩表現を提案しています。

 

今日、パステルは自動車の塗色として重要な役割を果たし、これまで自動車には使われてこなかった興味深いカラーポジションを自動車デザインにもたらしています。

 

そうした中で、未来はこんな世の中になって欲しい、多様な表現や発言が出来る社会になって欲しい、そうした未来への希望を反映した色として存在感があって、かつ伝統的な色とは違う色彩表現というところでEMEAのカラートレンドは、コンセプトワークされたものです。

 

そんな欧州のキーカラーは、人の肌のようなベージュ系の色彩に、未来的かつ人工的なテクスチャーを掛け合わせたものとなっています。

 

 

ON VOLUDE(漸進)とした今年のコレクション全体に見られるように、EMEAのカラーは、色域を遙かに超えた特徴を探求しています。

 

総じて、これまで自動車では使われなかった色を取り入れることで会話が広がり、結果、それが未来に於ける塗色の重要性を示すものとなっています」と松原氏は、今年のカラートレンドに係る説明を結んた。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。