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2023年5月9日【ESG】

独アウディ環境財団、泥炭地保護プロジェクトを支援

坂上 賢治

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独・アウディ環境財団やLEADER(EUの補助金プログラム)などが資金提供するフィジビリティスタディ〝CO2-regio〟は、今の排水に頼る農業形態から持続可能な泥炭地保護への可能性を探ること。つまり、土地活用の転換をどのように導けるか否かを本プロジェクトの主要テーマに据えている。( 坂上 賢治 )

 

そもそも泥炭地は環境ベースの考え方から捉えると、効率的で長期的な炭素貯蔵庫と見立てられる。というのは泥炭層は、膨大な量の炭素を蓄えることで大気中のCO2削減に役立つとされているからだ。

 

 

そこで同研究では、バイエルン州最大の湿地である旧バイエルン ドナウモース(湿地帯)での再湿潤(水を入れて泥炭地に戻す)対策を、地元の農家とどのように協調して実施するかについてプロジェクトを進めている。

 

より具体的には、ヴァイエンシュテファン-トリースドルフ応用科学大学(HSWT)の科学者達が。インゴルシュタットとアウグスブルクに横たわる地域の湿地の可能性。森林、腐植土の温室効果ガス相殺能力の実力を究明するべく同研究に2年間の歳月を費やして来た。

 

 

対して地元の農家は、これまで農地だった土地をどのように代替的に活用し、それに対する補償を受け取ることが出来るかについて、同研究に対して別角度からの洞察のためのヒントを提供した。

 

そんな双方が据える目的の1つは〝気候認証〟を発行することにある。しかし証明書の価値(受け取ることのできる対価)は実施する保護対策によって異なる。

 

こうしたプロジェクトに係る複数要素について〝CO2-regio〟プロジェクトマネージャーのジョナス ガルディアス氏は、「私たちの目標は、気候保護対策を実施し、温室効果ガス認証を発行し、気候保護に貢献したい人々が、その対価を得ることが出来る循環サイクルを確立することにあります。

 

 

またそのために農場を土壌の価値を維持出来る湿地に戻す対策を、素早く実施できるようにすることでもあります」と話す。

 

そこで当該研究に携わるHSWTの科学者達は、腐植土の形成、再植林、アグロフォレストリー(同じ土地で植林や農業、畜産を行う農林業)、バイオ炭の生産、泥炭地保護などの諸対策の可能性を検討した上で、温室効果ガス認証を発行し、農家に経済的な支援行うための実行可能性を評価した。

 

これらの評価プロセスについて同プロジェクトの研究リーダーで植生生態学者のDr. マティアス ドレスラー氏は、「個々の対策に係る効果には、それぞれの実現時期で隔たりがあるものの、腐植土の形成は、1ヘクタールあたり年間最大2トン(炭素当量)の温室効果ガス抑制を可能にすることは確かです。

 

 

それが再植林の場合、当該数値は5~19トンになります。そうした複数の対策の中でも、泥炭地の保護は明らかに最善の対策であり、年間10~50トンの温室効果ガス抑制効果があります」と説明した。

 

またこの研究では、もう1つの重要な側面がある。それはどのように土地活用すれば、泥炭地の再湿潤による生態学的および経済的な価値が得られるかであり、同研究はそうした可能性についての答えも示している。

 

例えば仮に対象地域を再び湿地に戻すと、これまで行われていた従来の農業は行えなくなる。しかし一定の環境条件を整備することで、太陽光発電システムの設置、湿式農業および畜産、パルディカルチャー(湿地植物の栽培)などの代替手段が実現する。

 

 

先のジョナス ガルディアス氏は、「調査地域で成長しているバイオマスは、バイオ炭の生産に利用することも出来ます。つまりバイオ炭の生産は、石炭火力発電の行程を逆転させることが出来ることを意味しているのです。

 

つまり、何百万年もの間、地球に炭素を貯蔵してきた石炭を燃やす代わりに、植物を炭化させることにより、長期的な温室効果ガスの貯蔵庫に変えることが出来る訳です。

 

例えば建材(クライメイトポジティブコンクリート)に組み込まれたバイオ炭は、恒久的な炭素吸収源として機能し、都市樹木の土壌として利用することが出来、同研究によるとドナウモースでバイオ炭を生産する熱分解プラントは、気候認証の発行に加えて、約5年から10年で採算が取れるようになることが示されています」と語った。

 

これらを踏まえ、この5月には〝CO2-regio〟気候保護団体が本格的な活動を開始。ノイブルク アン デア ドナウに拠点を置く非営利団体は、ドナウモースの約4ヘクタールの土地所有者に助言し、農業を支援し、HSWT泥炭地科学センターによって検証された気候保護プロジェクトを実施する。なお同プロジェクトによる収益は、参加している農場に配分される。

 

アウディ環境財団ディレクターのリュディガー レクナゲル氏は、「私たちは、泥炭地の保護は価値ある取り組みで、将来的に私たちの地域の気候フットプリントの改善に重要な貢献をすると確信しています。

 

この非営利の気候保護団体は、2026年から自己資金で運営される予定です。また同湿地は部分的に再湿潤化され、ドイツのCO2排出量抑制に重要な貢献をすることになります」と結んでいる。

 

フィジビリティスタディの概要
– 調査期間:
2021年5月~2023年4月

 

– プロジェクトスポンサー:
一般社団法人「Energie Effizient Einsetzen(エネルギー効率利用)」協会

 

– 資金提供:
LEADER(EU補助金プログラム)、アウディ環境財団、地方自治体/市/郡の協会

 

– パートナー:
ヴァイエンシュテファン-トリースドルフ応用科学大学(HSWT)およびProlignis

 

長期的な炭素貯留層としての泥炭地:フィジビリティスタディ「CO2-regio」の開始 (英語のみ)

 

「CO2-regio」と炭素証明書の実現可能性調査についての詳細 (英語のみ)

 

アウディ環境財団の活動についての詳細 (英語のみ)

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。