アストンマーティンとワークスチームのHeart of Racing Team(ハート・オブ・レーシング・チーム)は6月14日(フランス発)、来季2025年に2台のハイパーカーのValkyrie(ヴァルキリー)AMR-LMHで、ル・マン24時間レースのトップクラスに復帰することを明らかにした。英国のウルトラ・ラグジュアリー・スポーツカー・ブランドは、同有レースで1959年以来となる総合優勝を狙う。
このヴァルキリーは、フォーミュラ1 レッドブル・レーシングとの共同プロジェクトとして開発された超高級スポーツカー(ハイパーカー)。ヴァルキリーとは北欧神話に登場する戦死した英雄の魂を導く半神「ワルキューレ(Walküre)」の英語表記で、アストンマーティンの特別なモデルとして受け継がれてきた”V”のイニシャルが与えられたマシンとなる。
アストンマーティンは、ル・マン24時間レースへのエントリーが受理されることを条件に、2025年のWEC(FIA世界耐久選手権)の全ラウンドに、このヴァルキリーをベースとした2台のヴァルキリーAMR-LMH仕様車を投入する。
これは、ル・マンのイベント主催者であるACO(オートモビル・クラブ・ド・ルエスト)と、モータースポーツの統括機関であるFIA(国際自動車連盟)によるレギュレーション変更に従うもの。
というのは2025年以降、ル・マン24時間に参戦する全てのメーカーは、ハイパーカー・クラスに少なくとも2台のマシンを投入しなければならないとされているからだ。この新ルールは、今朝、今年のル・マン24時間レースに先立って行われた公式記者会見で発表された。
このレギュレーション変更を受けたアストンマーティンとそのワークスパートナーであるハート・オブ・レーシング・チームは、「モータースポーツ環境の改善に寄与するために協力し合い、今回のレギュレーション変更を喜んで支持します。アストンマーティンは今後もヴァルキリーAMR-LMHプログラムの元で、ACOとFIAと緊密に協力していきます」とWECへの参戦の意志を表明した。
加えてアストンマーティンの耐久モータースポーツ責任者のアダム・カーター氏は、「アストンマーティンは、ブランドの草創期から耐久レースに挑戦してきました。実際、初めてル・マンに参戦したのは95年以上も前のことで、これは他の公道走行可能なハイパーカーのメーカーには類をみないことです。
私たちはこの素晴らしいイベントとの関係を大変誇りに思っており、そのことを踏まえると、WECの掲げるハイパーカーのコンセプトに真剣に取り組み、誰もが知るアストンマーティンの翼を備えたマシン を、ル・マン24時間レースを含む国際的なスポーツカーレースの最前線に復活させることは当然のことです。
2025年には、ワークスチームのハート・オブ・レーシング・チームと共に、アストンマーティン製ハイパーカーのヴァルキリーAMR-LMHの2台を投入し、世界最高レベルのスポーツカー・メーカーの豪華ラインアップと競い合う予定です。そして、その最前線での戦いに備え、全力で準備を整えています。
ヴァルキリーAMR-LMHプログラムは順調に進んでおり、今夏後半のサーキットデビューに向けた大規模な開発が行わる最中にある。その後、秋に予定されているホモロゲーション取得に先立ち、集中的なテスト期間を設けて走行距離を重ね、可能な限りのことを理解する予定だという。
元々ベースモデルとなったヴァルキリーのシャシーは、レース用に最適化されたカーボンファイバー製であり、搭載されたパワーユニットもロードカーのヴァルキリー用に製造されたコスワース製自然吸気6.5リッターV12エンジンであり、ヴァルキリーAMR-LMHでもこの改良版を搭載した。
このエンジンは、標準仕様で11,000rpmの最高回転数にまで上り詰め、1,000bhpを超えるパワーを発揮する。これを基にハイパーカー・クラスに適したパワーバランスに仕立てるため強化され、トップレベルの長距離レースの過酷な条件に耐えるように開発された。
但し当初サーキット専用車両としてヴァルキリーAMR Proと同様、よりコンペティティブなレース専用車ヴァルキリーAMR-LMHには、公道仕様車には搭載されているバッテリー+電気ハイブリッドシステムは搭載されない。
目下、ヴァルキリーAMR-LMHの開発は順調に進行しており、最近ではアストンマーティンのシルバーストーンのテスト施設とポルトガルのポルティマオ・サーキットで、インテグラルシステムの走行試験が行われた。
また、ハート・オブ・レーシング・チームは最近、WECプログラムのため英国にチーム本部を設立した。そしてシルバーストーンを拠点にアストンマーティン・パフォーマンス・テクノロジーズの協力を得つつ、ヴァルキリーAMR-LMHが開発・製造される。
アストンマーティンはハート・オブ・レーシング・チームと共に、米国の耐久レース・シリーズであるIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権のGTPクラスへの参戦も計画中。このプログラムは、ハート・オブ・レーシング・チームが北米に置くフェニックス本部を拠点に消化していく予定となっている。
ハート・オブ・レーシング・チームのチーム代表を務めるイアン・ジェームズ氏は、「WECが導入した新ルールに基づく方針により、WECハイパーカー・クラスに複数の車両を投入する計画を前倒しする必要に迫られました。
この変更により、明らかに当初想定していたオリジナル計画に基づくプロセスが短縮されることにはなりましたが、2台のマシンが参戦すること自体は大変嬉しく思います。
このクラスはここ数年間で急成長を遂げ、レース内容は素晴らしく、ファンとの交流の格好の機会を提供しており、その一員となることを誇りに思います。これから計り知れない挑戦が待ち受けていると思いますが、その過程も今から楽しみにしています」と述べている。
最後にかつてアストンマーティンは、ル・マンらに於いて過去95年間(第一回大会の実施時から)に亘って、延べ240人以上のドライバー達が、27タイプのシャシーとエンジンの組み合わせで脈々とアストンマーティンを走らせてきた。
そんなアストンマーティンが今日に於いて、これほどの成功をもたらし、アストンマーティンのDNAが競争の本質から生み出されたものであることを証明できる夢の舞台は、ル・マン24時間レースをおいて他にはない。
加えてアストンマーティンが、来季からハイパーカー・クラスに参戦することにより、同ブランドは、ジェントルマン・レーサーからスポーツカーレースの頂点に至る耐久レースをー舞台に孤高の存在感を示すことになる。
実際、2025年以降、アストンマーティンはスポーツカー及びGTレースの全レベル(ハイパーカーからGT4まで)、のみならずFIAフォーミュラ1世界選手権にも参戦する唯一の英国籍のウルトラ・ラグジュアリー・スポーツカー・メーカーとなる。