ソフトバンクは12月5日、アイルランドでコネクティッドカー向けシステムを提供しているキュービックテレコムを買収すると発表した。買収金額は約4億7300万ユーロ(約747億円)で、同社株式の51.0%を取得する。両社は今後、キュービックテレコムが提供中のグローバルIoTプラットフォームをさらに成長させ、コネクティッドカーやSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)、IoTモビリティの領域においてグローバル規模で主導していこうと目論んでいる。(経済ジャーナリスト・山田清志)
すでに1700万台以上の車両が利用
キュービックテレコムは、自動車や交通車両、農業機器向けIoTプラットフォームの世界的なリーディングカンパニーで、2016年にコネクティッドカー向けプラットフォームの提供を開始して以来、急速な成長を遂げている。
90以上の移動体通信事業者との契約を通して、現在190カ国・地域以上で累計1700万台以上の車両で同社のプラットフォームが利用されている。しかも、車両数は毎月45万台ずつ増えているという。
「今回の発表は、キュービックテレコムのチームとステークホルダーにとって非常に重要なマイルストーンだ。ソフトバンクと協力することで、SDVの未来を切り開くことを大変うれしく思う。ハードウェアのみならずソフトウェアにより注力することで、メーカーは安全性や快適性、性能を向上させる新機能の追加やOTAの活用ができ、自動車やデバイスの価値を高めることができる。これにより、AIがもたらす機会とともに、新たなコラボレーションやビジネスモデルの道が開かれる」
キュービックテレコムのバリー・ネーピアCEOはこう話している。同CEOは引き続き経営を牽引し、取締役には現任のフォルクスワーゲングループのカリアド社やクアルコム社などの既存株主からの3人に加えて、ソフトバンクから野崎大地常務執行役員を含む3人が新たに就任する予定だ。
ソフトバンクは現在、「デジタル化社会の発展に不可欠な次世代インフラを提供する企業へ」という長期的なビジョンを掲げ、その実現に向けて邁進を続けている。中期的な目標としては、純利益をV字回復させ、2025年度に最高益(5350億円)とすることを目指している。
これに向けて、通信事業の持続的成長を図りながら、通信キャリアの枠を超え、「DXソリューション」「ファイナンス」「メディア・EC」「新領域」などの分野で積極的な事業展開を目指す戦略「Beyond Carrier」を進めている。その新領域で有望と考えているのがモビリティ関連だ。なかでもコネクティッドカーに注目している。
2030年には新車の95%がコネクティッドカー
なにしろ、ある調査によると、2030年までに世界で販売される新車の95%がコネクティッドカーになり、エコシステム全体に年間2500億~4000億米ドル(約37.5兆円~60兆円)の価値の増加をもたらすと予測されているからだ。
そのため、ソフトバンクは新たな体験や価値を提供するサービス・ソリューションの研究開発に取り組んでいる。例えば、MaaS事業の検討や5Gなどの最先端通信を活用したコネクティッドカーの実証実験などがそうだ。
2019年には、SUBARU(スバル)と自動運転社会の実現に向けて、5Gを活用したユースケースの共同研究を開始した。また、2020年には、米国でパシフィックコンサルタンツとオリエンタルコンサルタンツグローバルの2社と、コネクティッドカーを利用した道路インフラメンテナンス事業を展開するための合弁会社を設立している。
そして今回、コネクティッドカー向けIoT業界のリーダーであるキュービックテレコムとの新たな戦略的パートナーシップを締結することで、急成長するコネクティッドカーおよびSDV市場向けのグローバルIoT事業へ本格参入し、新たな収益機会の創出を図っていく。
「ソフトバンクは『Beyond Japan』の事業方針の下、キュービックテレコムと提携し、急成長する大容量IoT通信領域のグローバル市場に本格参入できることは大変うれしく思う。業界のグローバルリーダーであるキュービックテレコムは、ソフトバンクの最適なパートナーであると確信している。次世代社会インフラの構築に向け、グローバルIoTプラットフォームの構築にともに取り組むことを楽しみにしている」とソフトバンクの宮川潤一社長兼CEOは話している。
ソフトバンクとキュービックテレコムの両社は、新たなサービスの開発とイノベーションを加速させ、コネクティッドカーおよびSDV向けIoT領域のグローバルリーダーを目指していくという大きな野望を抱いている。