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2022年2月8日【企業・経営】

ソフトバンクG、2021年4~12月期の純利益が2.6兆円減

山田清志

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ソフトバンクグループ(SBG)が2月8日に発表した2021年度第3四半期累計(4~12月)は純利益が3926億円だった。前年同期が3兆551億円だったから何と2兆6625億円(87.1%)も減った。第3四半期(10~12月)の純利益を見ても、前年同期比98%減の290億円と大幅な減益となった。これは傘下のビジョン・ファンドが投資した大半の企業の株価が下落し、投資収益が低調だったためだ。ただ、この日の決算会見は傘下の英半導体設計子会社アームに関する話題が独占した。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

 

ビジョン・ファンドは累計6兆円の利益

 

「業績は前回の決算発表で、冬の嵐の真っ只中にいると言ったが。嵐はまだ終わっていない。嵐が強まっているというような状況だ。米国をはじめ各国の政府が、コロナの災いのピークが過ぎたということで金融緩和を抑えて長期金利が上がっている状況で、特にわれわれが投資している高成長企業の株価がやられている。昨年度の決算が良すぎたのかもしれないが、その反動を含めて大幅な減益となった」と孫正義会長兼社長は総括した。

 

SBGが重視するNAV(時価純資産)も21年9月末の20.9兆円から12月末には19.3兆円に減少した。その減少の最大の原因はアリババを含む中国株で、NAVに占める中国株の割合も36%から32%に下がった。ただ、中国銘柄でビジョン・ファンドの利益は減っているものの、損を出しているわけではないという。

 

「3カ月ごとの上がった下がったも大事だが、全体を俯瞰して累計で利益が出ているか出ていないかが大事だ」と孫会長はビジョン・ファンドについて述べ、ビジョン・ファンド1号については「(米シェアオフィス大手の)ウィーワーク問題でマイナスに突入したが、もう一度利益を積み上げ、累計で6兆円の利益を出している」と強調した。

 

 

ビジョン・ファンド2号については「この9カ月間で4.4兆円を投資し、うち3.8兆円はビジョン・ファンドなどが売却した株式から調達し、売りながら投資するというエコシステムが回り始めている」と孫会長は話し、ビジョン・ファンド全体で2021年度はすでに239社に出資したことを明らかにした。一方、新規上場を果たした企業はこの1月までの10カ月間で25社にのぼるそうだ。

 

仕込んだ卵は続々と育っているとのことだが、ハイテク銘柄の株価が厳しい状況になっているので、ビジョン・ファンドの株式価値にマイナスの影響を与えているという。「冬の嵐はソフトバンクの決算上は終わっていない。ただ必ず春は来ると思っている」と孫会長は前向きだ。

 

アームで半導体業界史上、最高の上場を狙う

 

そんな孫会長が今回の決算で最も時間を割いて説明したのがアームに関してである。SBGは2016年にアームを320億ドルで買収した。そして、20年9月に米半導体大手エヌビディアに400億ドルで売却することに合意した。3分の1を現金で、3分の2をエヌビディアの株と交換する契約だった。

 

 

「エヌビディアとくっつけば、チップの世界では世界最高の会社になる。そこの筆頭株主になるという願いで、アームをエヌビディアに売却することを決めて契約を結んで発表した。しかし、GAFAに代表されるような主要なIT業界の企業がこぞって猛反対。さらに米国政府や英国政府、EUの国々の政府も猛反対という状況になった」と孫会長。

 

エヌビディアも解決策としていくつか提案したが、まったく相手にされない状況が2~3カ月続いたそうだ。そこで、エヌビディア側から「これ以上は厳しい」という話が出て、2月8日に契約解消に合意した。

 

これに対して、孫会長はまったく残念がる様子を見せない。「買収当社から公言していた再上場するプランに戻るだけ」と話し、「エヌビディアのティールは成功してほしかったが、こちらも悪くない。むしろいいかもしれない」と付け加える。というのも、これからアームの黄金期がくると見ているからだ。

 

 

なにしろアームのアーキテクチャに基づいて設計されたチップは、スマートフォン市場を席巻し、ゲーム機やデジカメ、テレビといった家電のほか、無線LANなどのネットワーク機器にも採用されている。「今後、クラウドや電気自動車(EV)、メタバース、IoTといったさまざまなものにアームが使われるようになる」と孫会長。すでに、米アマゾンや米マイクロソフトがクラウドをアームに切り替えているという。

 

その理由は、アームのチップが圧倒的に低電力消費だからだ。クラウドの分野では電力が4~6割も少なくて済むとのことだ。クラウドの電力需要は2010年を1とすると、40年には365倍になるとの試算があり、低電力消費のチップが必須になるというわけだ。それは、EVやメタバースの世界も同様だ。

 

「これまで先行投資をしてエンジニアを増やした結果、アームの利益はどんどん減ってしまったが、新たに仕込んでいた製品が21年度から続々と出始めている。いよいよ利益が爆発的に出ることになる」と孫会長は話し、2022年度中に米ナスダック市場へ「半導体業界史上、最大の上場を目指す」として正式に準備を進めることを表明した。

 

SBGはアームの株式上場をきっかけに、再び利益を豆腐のように2兆、3兆、4兆、5兆と数える時が来るかも知れない。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。