ソフトバンクグループ(SBG)が2月8日に発表した2021年度第3四半期累計(4~12月)は純利益が3926億円だった。前年同期が3兆551億円だったから何と2兆6625億円(87.1%)も減った。第3四半期(10~12月)の純利益を見ても、前年同期比98%減の290億円と大幅な減益となった。これは傘下のビジョン・ファンドが投資した大半の企業の株価が下落し、投資収益が低調だったためだ。ただ、この日の決算会見は傘下の英半導体設計子会社アームに関する話題が独占した。(経済ジャーナリスト・山田清志)
ビジョン・ファンドは累計6兆円の利益
「業績は前回の決算発表で、冬の嵐の真っ只中にいると言ったが。嵐はまだ終わっていない。嵐が強まっているというような状況だ。米国をはじめ各国の政府が、コロナの災いのピークが過ぎたということで金融緩和を抑えて長期金利が上がっている状況で、特にわれわれが投資している高成長企業の株価がやられている。昨年度の決算が良すぎたのかもしれないが、その反動を含めて大幅な減益となった」と孫正義会長兼社長は総括した。
SBGが重視するNAV(時価純資産)も21年9月末の20.9兆円から12月末には19.3兆円に減少した。その減少の最大の原因はアリババを含む中国株で、NAVに占める中国株の割合も36%から32%に下がった。ただ、中国銘柄でビジョン・ファンドの利益は減っているものの、損を出しているわけではないという。
「3カ月ごとの上がった下がったも大事だが、全体を俯瞰して累計で利益が出ているか出ていないかが大事だ」と孫会長はビジョン・ファンドについて述べ、ビジョン・ファンド1号については「(米シェアオフィス大手の)ウィーワーク問題でマイナスに突入したが、もう一度利益を積み上げ、累計で6兆円の利益を出している」と強調した。
ビジョン・ファンド2号については「この9カ月間で4.4兆円を投資し、うち3.8兆円はビジョン・ファンドなどが売却した株式から調達し、売りながら投資するというエコシステムが回り始めている」と孫会長は話し、ビジョン・ファンド全体で2021年度はすでに239社に出資したことを明らかにした。一方、新規上場を果たした企業はこの1月までの10カ月間で25社にのぼるそうだ。
仕込んだ卵は続々と育っているとのことだが、ハイテク銘柄の株価が厳しい状況になっているので、ビジョン・ファンドの株式価値にマイナスの影響を与えているという。「冬の嵐はソフトバンクの決算上は終わっていない。ただ必ず春は来ると思っている」と孫会長は前向きだ。
アームで半導体業界史上、最高の上場を狙う
そんな孫会長が今回の決算で最も時間を割いて説明したのがアームに関してである。SBGは2016年にアームを320億ドルで買収した。そして、20年9月に米半導体大手エヌビディアに400億ドルで売却することに合意した。3分の1を現金で、3分の2をエヌビディアの株と交換する契約だった。
「エヌビディアとくっつけば、チップの世界では世界最高の会社になる。そこの筆頭株主になるという願いで、アームをエヌビディアに売却することを決めて契約を結んで発表した。しかし、GAFAに代表されるような主要なIT業界の企業がこぞって猛反対。さらに米国政府や英国政府、EUの国々の政府も猛反対という状況になった」と孫会長。
エヌビディアも解決策としていくつか提案したが、まったく相手にされない状況が2~3カ月続いたそうだ。そこで、エヌビディア側から「これ以上は厳しい」という話が出て、2月8日に契約解消に合意した。
これに対して、孫会長はまったく残念がる様子を見せない。「買収当社から公言していた再上場するプランに戻るだけ」と話し、「エヌビディアのティールは成功してほしかったが、こちらも悪くない。むしろいいかもしれない」と付け加える。というのも、これからアームの黄金期がくると見ているからだ。
なにしろアームのアーキテクチャに基づいて設計されたチップは、スマートフォン市場を席巻し、ゲーム機やデジカメ、テレビといった家電のほか、無線LANなどのネットワーク機器にも採用されている。「今後、クラウドや電気自動車(EV)、メタバース、IoTといったさまざまなものにアームが使われるようになる」と孫会長。すでに、米アマゾンや米マイクロソフトがクラウドをアームに切り替えているという。
その理由は、アームのチップが圧倒的に低電力消費だからだ。クラウドの分野では電力が4~6割も少なくて済むとのことだ。クラウドの電力需要は2010年を1とすると、40年には365倍になるとの試算があり、低電力消費のチップが必須になるというわけだ。それは、EVやメタバースの世界も同様だ。
「これまで先行投資をしてエンジニアを増やした結果、アームの利益はどんどん減ってしまったが、新たに仕込んでいた製品が21年度から続々と出始めている。いよいよ利益が爆発的に出ることになる」と孫会長は話し、2022年度中に米ナスダック市場へ「半導体業界史上、最大の上場を目指す」として正式に準備を進めることを表明した。
SBGはアームの株式上場をきっかけに、再び利益を豆腐のように2兆、3兆、4兆、5兆と数える時が来るかも知れない。