孫正義会長兼社長
ソフトバンクグループ(SBG)が8月10日に発表した2021年度第1四半期(4~6月)連結決算は、売上高が前年同期比15.6%増の1兆4791億円、当期純利益が39.4%減の7615億円だった。減益になったのは前年同期に一時的な利益があり、その反動が出た。ただ、7月以降、中国のIT企業規制を受け、投資先の評価額は軒並み下げていて、今後中国リスクが業績の重荷になる恐れが出ている。(経済ジャーナリスト・山田清志)
SVFで累計で約7兆7000億円の利益
「新型コロナウイルスの感染拡大で、世界中が100年ぶりくらいの経験をしている。しかし、われわれの『AI(人工知能)革命』という分野にとっては、人々が直接会えない中でむしろオンラインの仕事やエンターテインメントがより加速した。新型コロナの感染拡大直後は厳しい状況だったが、この1年を振り返れば、われわれの業界では進化が加速するという点では意味のある1年だった」
時価純資産
決算説明会の冒頭、こう話した孫正義会長兼社長によると、2021年度第1半期の純利益は大幅な減益となったが、20年度第1四半期にSBG参加だった米通信大手スプリントと同業のTモバイルUSの合併に伴う一時的な利益が約1兆1000億円あったためで、「これを差し引けば21年第1四半期はそれなりの成績だった」という。
しかし、孫会長兼社長は「SBGは事業会社でないので、純利益に意味はない」と改めて強調。重要なのは保有株式の価値から純有利子負債を引いたNAV(時価純資産)で、その額は6月末時点で26兆5000億円になった。また、投資ファンドのソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)は累計で約6兆7000億円の利益を出していて、もしそのビジョン・ファンドをやっていなければSBGの成長はなかったという。
「われわれは自身を投資家ではなく『AI革命の資本家』と6月の株主総会で発表した。お金をつくるのではなく未来をつくる。ビジョン・ファンド開始から4年で、2017年以降の未上場のAI企業の資本調達の1割をわれわれが提供した。間違いなく世界最大だ。最近は世界ナンバーワンの日本企業が減ってきたが、われわれはこういう特徴を持っている」と孫会長兼社長は説明する。
さらに「AI革命はこれから10、20年のうち、100%必ず大きくなると信じている」とAI関連企業への投資を一層強化する姿勢を示した。そして、「SVF2共同出資プログラム」を新たに進めることを明らかにした。
ビジョンファンド事業の投資損益
これはSVFの2号ファンドに、SBGだけでなく経営陣も共同出資することで、自らリスクを取ることにより収益拡大につなげていこうというものだ。実はこのプロジェクトは1号ファンドでも実行直前まで行ったそうだ。ところが、「実行直前で株価が下がって私も貧乏になり、経営陣も『リスクを取れない』と全員降りて棚上げになった」(孫会長兼社長)という。そして今、業績が良くなったことで、2号ファンドで改めて実施することにした。
「私は100%のリスクを会社に対してコミットする。将来的には後継者の経営陣のみなさんも『リスクを取って共同出資することでリターンを得る』という仕組みを経営の文化として残していきたい」と孫会長兼社長はその狙いを説明する。
中国企業への新規投資の割合は11%に減少するが……
しかし、そのリスクについて、中国企業を中心に懸念が広がり始めている。というのも、6月末に中国配車アプリ大手の滴滴出行(ディディ)が米国の証券市場に上場してから、中国政府が同社に対して審査を開始、その結果、同社の株価が急落したからだ。現時点で6月末に比べて3割ほど安くなっている。しかも、それにつられてSBGが出資している中国IT企業の株価も下げている。
滴滴以前にも、中国政府はアリババ集団傘下の金融会社アント・グループへの監督を強めて上場が延期になったことがあった。さらにアリババが独占禁止法違反で巨額の罰金を科せられた。アリババはSBGの主要投資先で、この一件でSBG株は下落した。
さらに、中国当局は教育関連企業も規制する方針で、SVF投資先の中国オンライン教育企業に影響が出る懸念が浮上している。中国IT企業の上場への審査も強化しているため、新規株式公開を通じた投資回収が思うように進まないリスクも出ているのだ。
投資先の時価
「中国の株式市場はハイテク株にとって受難の時。ただ、業績は伸び続けているので、長い目で見ればいつか株価も持ち直すと私は信じている」と孫会長兼社長は話すが、「さまざまな規制が始まっており、もう少し様子を見たい」と中国での投資に慎重な姿勢を示し始めた。
事実、今年度に入って、中国企業への新規投資は減っている。これまで投資したSVFとラテンアメリカ・ファンド(LatAm)の企業のうち、時価ベースで米国が34%、韓国やインドなど中国以外のアジアが25%、中国が23%となっており、今年4月以降の新規投資のうち、中国企業は11%に過ぎないそうだ。ただ、SBGの保有株の時価約31兆6000億円(6月末)のうち、約12兆円がアリババ集団で、滴滴など他の中国企業への投資先を含めると約5割に及んでいる。
「AIは全ての産業を革新する」と今後もAI企業への投資を積極的に行う姿勢を示す孫会長兼社長だが、これからしばらくの間、中国リスクに悩まされる日々が続くことになりそうだ。