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2025年3月3日【企業・経営】

日産、EVと動物の交通事故を防ぐアニマラートプロジェクト

坂上 賢治

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日産自動車は3月3日の「世界野生生物の日」にちなみ、動物が認識する周波数発生装置をEVに導入することで、クルマと野生生物の接触事故(ロードキル)ゼロを目指す「NISSAN ANIMALERT PROJECT(日産アニマラートプロジェクト/アニマルとアラートから作られた造語)」を開始した。

 

プロジェクトの第1弾では、日産自動車、奄美市、環境省、岡山理科大学、T.M.WORKSら7団体が連携。産官学一丸となって鹿児島県奄美大島と徳之島にのみ生息する日本固有種で、絶滅危惧ⅠB類(近い将来に絶滅の危険性が高い種)に指定されているアマミノクロウサギの保護を目指す。

 

またアマミノクロウサギの保護目的の実証実験に伴い、プロジェクトムービーとインタビュームービーを日産自動車公式YouTubeチャンネルおよび公式SNS上で公開した。

 

 

 

2021年7月に世界自然遺産に登録された奄美大島では、クルマと動物の接触事故「ロードキル」が深刻な課題となっている。環境省の調査によると、アマミノクロウサギのロードキル件数は7年連続で増加し、2023年には過去最多の147件を記録したという。

 

これまで日産自動車は、クルマに乗る前にボンネットなどを叩いて、エンジンルームやタイヤの隙間などに潜む猫を保護する「#猫バンバン」や、獣医師会と協力し、災害時・停電が発生した際に「日産リーフ」を動物病院に無償で提供する取り組みなど、動物愛護に関する活動を積極的に行ってきた。

 

今回のプロジェクトは、歩行者にクルマの接近を知らせる《接近通報音》技術に着目し、野生生物にもクルマの接近を知らせ、事故の防止に繋げることを目指して立ち上げられた。

 

日産は2010年12月、世界初のEV量産車「日産リーフ」に接近通報音を標準装備し、その後の国際規則制定にも貢献してきた。その技術を生かし、今回は動物を保護する音にも取り組めないかと考え、今回のプロジェクトを開始した。

 

このプロジェクトを通じて、増加するアマミノクロウサギのロードキル件数の抑制を目指し、将来的には全国各地で発生している野生生物のロードキル問題の解決にも貢献していきたいと考えている。

 

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「NISSAN ANIMALERT」プロジェクト化に向けたこれまでの動きは以下の通り

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・全国で起きているロードキルの実態把握
国土交通省によると2022年度には直轄国道で7万件、高速道路では5.1万件のロードキルが発生。イヌ、ネコ、タヌキ、鳥類、シカなど、さまざまな種類の動物がロードキルに遭う状況が続いています。国土の約7割を森林が占める日本において、各地域に生息する野生生物とクルマとの共存は重要なテーマのひとつとなっている。

 

 

・日産テクニカルセンターでの高周波音特性の分析、奄美現地での設置型実験
奄美大島現地での走行実験に先駆けて、高周波音の特性分析を日産テクニカルセンターで実施。日産EVにテストデバイス*4を装着した状態で、必要な周波数特性や音圧レベルを満たすか等の事前分析を実施した。また、アマミノクロウサギの出現が確認されているスポットにテストデバイスの設置を行い、複数の周波数パターンから有効なものを絞り込む設置型実験も実施した。

 

 

・実証実験車(日産サクラ)による、奄美大島での走行実験
2024年12月より、テストデバイスを搭載した日産サクラによる走行実験を奄美大島にてスタートした。

 

森林地域内の市道スタル俣(利用規制道路)にて、アマミノクロウサギの出現する夜間に時速10kmで走行を行い、高周波音の有無での挙動データを収集。実証実験段階ではあるが、高周波音のスイッチを入れた途端にアマミノクロウサギが逃げ出すという動作が確認できている。

 

実験より得られたデータをもとに、通常速度での走行実験をはじめ今後プロジェクトの活動をさらに深めていく予定。※当該実証実験は、野生動物およびロードキル対策の専門家の監修・立ち会いのもと、周辺環境への適切な配慮を行いながら実施していく。

 

 

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プロジェクト参加・協力団体との役割は以下の通り

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・日産自動車:プロジェクト企画、実験車両提供、高周波音特性の共同分析、公道走行時の保安基準に適合したデバイス設置位置検証、実験計画策定/実施サポート 等

 

・鹿児島県 奄美市役所:実証実験場所の提供/交渉/許認可調整、車両管理、実証実験実施サポート 等

 

・岡山理科大学、T.M WORKS:テストデバイス提供、実験計画策定、実証実験マネジメント、データ解析 等

 

・日本大学、帯広畜産大学:データ解析支援 等

 

・環境省 奄美群島国立公園管理事務所:アマミノクロウサギ及びそのロードキル実態に関する知見提供、実験計画への助言/実施サポート、森林地域内の道路を利用する上での手続き等のサポート 等

 

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以下はプロジェクト関係者コメントとなる

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<日産自動車 ブランド&メディア戦略部 地元 亜由子氏>
「ANIMALERT(アニマラート)」というのは、「アニマル」と「アラート」を組み合わせた造語です。日産自動車はこれまで、電気自動車の接近通報音の技術を開発してきました。その経験を活かし、人を守る音だけではなく、動物を守る音にも取り組もうというのが今回のコンセプトです。

 

ロードキルは奄美だけの問題ではなく、日本全国で発生しています。事故に遭えば動物だけでなく、ドライバーにも心身ともに大きなダメージを与える可能性があります。日産自動車は全社ビジョンとして「ゼロエミッション(排気ガスゼロ)」と「ゼロフェイタリティ(死亡事故ゼロ)」を掲げています。人間の事故防止だけではなくて、野生生物の交通事故ゼロも目指したいと考えています。

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<日産自動車 音振性能実験グループ 古宮 亜友美氏>
これまで私たち音振開発グループでは、車両スピーカーから音を発してクルマの存在を歩行者に知らせる技術開発に取り組んできました。今回のプロジェクトでは、アマミノクロウサギへの効果と最適な周波数を特定するため、実証実験を専門の先生方と取り組むことになりました。

 

最も苦労したのは、デバイスの取り付け位置の特定です。普段は私たちが扱う人間の可聴域と異なり、動物は非常に高い周波数の音を聞き取ります。そのため、高周波数域の直進性であるとか、回折性、減衰特性を理解することに大変苦労しました。今後、実験で効果が確認できれば、より実用的で効果の高い技術へと発展させていけると考えています。

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<鹿児島県奄美市役所 市民環境部世界自然遺産課 自然環境係 星野 蒼一郎氏>

今まで市としてロードキルの対策を行ってきましたが、それは人に対して行うものでした。今回の「NISSAN ANIMALERT」プロジェクトは動物に対して啓発をする、そもそもロードキルが起こらないようにするという、全く新しい視点での取り組みだと思います。

 

電気自動車に音波装置を付けるということですが、実際に林道で走行してみるとほとんど音が聞こえない、そうした環境に配慮した取り組みですので、私たちも非常に期待しているところです。プロジェクトの成功に向けて動き出すことは、2050年度までに市内の二酸化炭素排出量を実質ゼロにする「ゼロカーボンシティ」を宣言した奄美市にとって、とても有意義な一歩になると思っております。

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<岡山理科大学 研究社会連携機構 特担教授 辻 維周氏>

(既に開始している実証実験について) 設置型実験を行った場所は、アマミノクロウサギのフンが多数あるところだったのですが、設置した後にはアマミノクロウサギの姿が照射範囲内ではカメラに映らなくなりました。ということは、彼らの出現を抑止できている、というふうに考えています。また車載実験のテストでも、スイッチを入れた途端にアマミノクロウサギが逃げ出すという動作がありました。これはうまくいくのではないかと思っています。プロジェクトの目標として、アマミノクロウサギのロードキルを限りなく0に減らしていきたいと思っています。

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<環境省 奄美群島国立公園管理事務所 希少種保護増殖等専門員 鈴木 真理子氏>

アマミノクロウサギは大体、奄美大島で2万頭ぐらいいると推定されています。生息地も徐々に回復し、今まで出てこなかった場所や集落の近くにも現れるようになってきていて、これまで意識していなかった場所でも出てくるために事故が増えているのだと思います。
 島の人だけではなく、島外に住まわれている方がこの野生生物の交通事故に興味関心を持っているということが島の人にとってもすごく大きなインパクトがあると感じています。島に来られる観光客の方への普及啓発にもなると考えていますので、そういった意識を変えるという意味でも期待をしています。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。