日産自動車は12月10日に取締役会を実施。翌11日に2025年1月1日付けの役員人事を発表した。同社では、その目的を〝より効率的で、強靭な事業構造への変革を目指すターンアラウンドに向けた取り組みを推進させる〟としているが、詰まるところ、経営陣の意思決定の遅れによる業績不振が深刻化していることを踏まえ、経営再建を進める姿勢を広くステークホルダーに対して明確に示すことが今人事の本来の目的と考えられる。
より具体的な同方策は、CFO( チーフ・パフォーマンス・オフィサー / 最高財務責任者 )などの一部の担当分野を入れ替えたり、海外子会社のトップを交代させる。併せて、経営風土の見直しにも取り組む。なお、来たる2025年4月には経営体制の更なる変更を行い、ビジネス環境の変化に柔軟・機敏に対応できるスリムでフラットな経営体制の構築を目指すともしている。
さて今回、その筆頭に挙がったのはスティーブン・マーCFOの移動で、マー氏は中国事業の統括責任者( 中国マネジメントコミッティ議長に就任 )に異動する。その理由としては、同氏の中国に係る豊富な経験と知見。グローバルなリーダーシップの資質を活かし、中国の将来戦略の策定、並びにオペレーションの強化に重点的に取り組んで貰うとしている。
マー氏が抜けた後の後任のCFOには、アメリカズマネジメントコミッティ議長のジェレミー・パパン北米日産社長が就く。同氏は、日産及びアライアンス領域で財務、戦略、事業開発畑で長期に経験を積んできた。また、グローバルな自動車業界に重点を置いた投資銀行業務でも10年以上の経歴を有していることから移動を決めたとしている。
パパン氏が抜けた後のアメリカズマネジメントコミッティ議長には、日産OBで欧州自動車大手ステランティスの幹部( ジープのCEOとステランティスのエグゼクティブ・コミッティのメンバー )を務めてきたクリスチャン・ムニエ氏を起用する。
そもそも同氏は、かつて日産時代に米国、カナダ、ブラジル、そしてインフィニティをリードする役割を担ってきたことから、そうした豊富なマーケティングと販売の経験を以て日産に戻る形となる。
なお現在、中国マネジメントコミッティ議長を務めてきた山﨑庄平氏は、日本 ‐ アセアンマネジメントコミッティ議長に就任する。同氏は、競争の激しい中国市場での知見を活かし、日本 ‐ アセアン地域の日産のプレゼンス強化に務めるとしている。
チーフブランド&カスタマーオフィサー( CBCO )兼 日本 ‐ アセアンマネジメントコミッティ議長の星野朝子氏は、日本 ‐ アセアン地域の担当を離れる一方で、引き続きCBCOとしてブランドと顧客体験の向上に重点的に取り組む。
最後に、CEO就任( 2019年12月1日 )5年を数える内田誠氏は、「今回の役員体制の変更は、会社を再び軌道に戻すための取り組みに必要とされる経験や緊急性を鑑みて行いました。日産は今後も将来の成長に焦点を当て、持続可能な収益を確保するために、これらのターンアラウンドの取り組みを着実に実行していきます」と述べている。
ちなみに先の11月2日産が発表した2024年4 – 9月期の連結決算は、純利益が前年同期比93.5%減の192億円となり、世界規模で生産能力を2割、人員を9000人削減するリストラ策。加えて当初は2025年1月と4月に段階的な経営体制の刷新を示すとしていた。
そうしたなかで今人事は、見た目の刷新感が薄いことと、見方を誤ると業績低迷の責任を負うべき対象がマーCFOの中国担当への異動となったようにも見え、責任の所在が明確になったとは見え難いようにも映る。
また現段階で少なくとも日産に係る大きな課題のひとつは〝稼げるクルマが少ない〟現状であり、主戦場のひとつの米国市場で、在庫解消のための販売奨励金が膨らんでいることも気掛かりだ。当面は、ハードウエアとしての商品力の強化だけではなく、サービス戦略も含めて短期間で、日産ブランドの実質的な競争力をどう強化していけるかに期待したい。