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2023年5月10日【企業・経営】

パナソニックHD、IRA補助金の効果で最高益の見通し

山田清志

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梅田博和副社長執行役員

 

パナソニックホールディングス(HD)が5月10日に発表した2022年度連結決算は、売上高が前期比13.4%増の8兆3789億円、調整後営業利益が同12.1%減の3141億円、営業利益が同19.3%減の2886億円、当期純利益が同4.0%増の2655億円だった。従来予想の純利益は同18%減の2100億円だったが、米国のインフレ抑制法(IRA)関連の税優遇効果により一転して増益となった。今期もIRA関連の補助金があり、純利益は3500億円と5年ぶりに最高益を更新する見通しだ。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

オートモーティブが大幅な増収増益に

 

「2022年度実績について、売上高はくらし事業、オートモーティブ、コネクトなどの販売増に加え、為替換算により増収となった。

 

2022年度連結業績

 

調整後営業利益はオートモーティブ、コネクトが増益となったが、インダストリー、エナジーの減益幅が大きく、減益となった」とグループCFOである梅田博和副社長執行役員は2022年度を振り返った。

 

ただ調整後営業利益については、上期が539億円の減益であったのに対し、下期は103億円の増益だった。第4四半期も増益で、売上高、利益、EPS、ROE、EBITDAについても2月2日の公表値を上回る着地になったという。

 

営業利益の増減要因は次の通りだ。まず売上成長による増販益が402億円、固定費はくらし事業やエナジーにおける成長に向けた投資などにより848億円の増加。

 

原材料・物流費高騰のマイナス影響が2243億円、これに対して価格改定や合理化等の効果が2246億円と相殺する格好になっている。為替については、インダストリーやエナジーではプラスの影響だったが、くらし事業などでマイナスの影響となり、合計での為替影響はゼロとなった。

 

2022年度セグメント別業績

 

それではセグメント別の業績を見てみよう。くらし事業は売上高が前期比10%増の3兆4833億円、調整後営業利益が91億円減の1224億円、営業利益が51億円減の1031億円だった。

 

国内家電事業における上海ロックダウン影響や下期以降の需要減に伴う減販影響があったが、重点事業の欧州空調、国内・海外電材、北米ショーケースが堅調に推移して増収。しかし、国内家電が価格改定などの効果があったものの、減販影響をカバーしきれずに減益となってしまった。

 

オートモーティブは売上高が前期比22%増の1兆2975億円、調整後営業利益が118億円増の142億円、営業利益が148億円増の162億円だった。

 

顧客である自動車生産が回復して増収、半導体などの部材高騰影響や増産対応などの固定費増加があったが、コストダウンや第2四半期からの増販益に加え、下期に部材高騰や為替影響に対する価格改定が進んで増益となった。

 

コネクトは売上高が前期比22%増の1兆1257億円、調整後営業利益が125億円増の282億円、営業利益が319億円減の209億円だった。PCやスマートフォン投資の減速でプロセスオートメーションの販売減があったが、航空市場の回復でアビオニクスが上向き、海外向け堅牢モバイル端末の伸長や、ブルーヨンダーの連結化・販売成長により増収となった。

 

インダストリーは売上高が2%増の1兆1499億円、調整後営業利益が234億円減の633億円、営業利益が164億円減の668億円だった。

 

EVリレーや産業用リレー、環境車用コンデンサーなどの増販があったが、半導体事業譲渡に伴う商流変更による減販や、下期からの市況悪化により減収、さらに原材料の高騰もあり減益となった。

 

エナジーは売上高が26%増の9718億円、調整後営業利益が312億円減の396億円、営業利益が336億円減の332億円だった。

 

産業・民生は市況悪化によりICT・民生機器向けリチウムイオン電池、BtoB向けリチウム一次電池を中心に減販したが、車載はEV需要拡大により北米中心に生産・販売が拡大、そのうえ価格改定も寄与して増収。しかし、将来に向けた開発費など固定費増により減益となった。

 

2023年度連結業績見通し

 

車載電池はEV需要拡大で好調に推移

 

2023年度の連結業績見通しは、売上高が前期比1.4%増の8兆5000億円、調整後営業利益が同36.8%増の4300億円、営業利益が同49.0%増の4300億円、当期純利益が同31.8%増の3500億円を見込む。

 

「インダストリー以外の4セグメントは、おおむね市況の改善を前提としており、いずれも増収増益の見通しである。減収減益の見通しであるインダストリーは、特にICT端末向けの需要が前年を下回る想定で、下期から回復基調に転じると見ている。

 

また、過去2年、大きな影響を受けていた原材料価格の高騰や半導体・部材不足によるマイナス影響は、今年度におおむね解消すると見ている」と梅田副社長は説明する。

 

2023年度セグメント別業績見通し

 

セグメント別の業績見通しについて、くらし事業は売上高が前期比3%増の3兆5800億円、調整後営業利益が376億円増の1600億円、営業利益が479億円増の1510億円を見込む。欧州の空調、国内外の電材事業の伸長に加え、国内家電のマーケティング強化や価格改定、中国家電の需要回復などにより増収増益を計画する。

 

オートモーティブは売上高が前期比6%増の1兆3700億円、調整後営業利益が38億円増の180億円、営業利益が18億円増の180億円を見込む。

 

自動車生産の回復や、環境車向けインダストリーセグメント商材の販売増で増収。固定費の増加に加え、車載向け半導体逼迫の継続による部材高騰影響は残るが、増販益やコストダウン、価格改定などで増益を計画する。

 

コネクトは売上高が前期比1%増の1兆1400億円、調整後営業利益が118億円増の400億円、営業利益が151億円増の360億円を見込む。アビオニクスやブルーヨンダーの伸長により増収。利益ではブルーヨンダーが成長に向けた戦略投資の影響で減益となるが、アビオニクスなどの増販益、調達課題解消に伴う原価改善で増益となる。

 

インダストリーは売上高が前期比5%減の1兆900億円、調整後営業利益が33億円減の600億円、営業利益が83億円減の585億円とした。リレー、コンデンサーなどの増販益に加え、原材料高騰を合理化や価格改定でカバーするが、為替影響により減収減益を見込む。

 

エナジーは売上高が前期比5%増の1兆300億円、調整後営業利益が954億円増の1350億円、営業利益が998億円増の1330億円を計画する。車載向けは、EV需要の拡大継続や生産性改善により好調に推移し、産業・民生向けは足元では市況悪化による減販が続くが、第2四半期後半から販売が回復すると見ており、年間では増販となる。

 

「将来の成長に向けた固定費の増加はあるが、原材料価格と売価反映の期ズレによる影響改善や、車載向け、産業・民生向けともに増産・増販益が寄与し、IRA補助金による業績影響800億円を除いても増益を見込んでいる」と梅田副社長は話す。

 

いずれにしても、パナソニックHDの2023年度の営業利益率は5.1%で、ソニーグループの10.2%、日立製作所の7.7%と比べて低く、稼ぐ力をどのようにつけていくのかが課題となっている。5月18日に楠見雄規社長がグループ戦略説明会を行うが、そのあたりについて具体的な方針が示されることを期待したい。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。