パナソニック空質空調社の道浦正治社長
新型コロナウイルスの感染拡大以降、空気質や空調への関心が高まり、世界的に空調機器などの市場が拡大している。2025年には20年よりも4兆円も増え、15兆円超の市場になると見られているほど。そんななか、パナソニックは1月31日、社内カンパニー、空質空調社の事業戦略を発表した。これは21年10月の新体制発足を受けたもので、25年度に21年度比4割増の1兆円の売上高を目指すという。(経済ジャーナリスト・山田清志)
2つの事業統合で独自の価値提供を
「これまで空質事業と空調事業は分かれて運営してきたが、これらに関するすべての機能を集結した。開製版の方向性を一つにすることで、これまで以上にお客さまとの接点を強化でき、お客さまへのお役立ちをさらに高めていけるようになる。昨今はお客さまが上質な空気を求められており、その要望に応え、新たな価値を提供するには2つの事業が融合することが重要だと判断した」とパナソニック空質空調社の道浦正治社長は話す。
パナソニックの強みのコア技術
2つに分かれていたのは、両事業の歴史によるところが大きい。空調事業は1969年に滋賀県の草津拠点で発足した。その後、製造開発拠点をマレーシアや中国へ展開し、グローバルに空調事業を専鋭化してきた。一方、空質事業は松下電器よりも歴史が古く、1909年創業の川北電気企業社が母体。1956年に松下グループ傘下になり、62年に社名を松下精工に変更し、さらに2003年に松下エコシステムズに変更した。
また、主力製品も空調事業がエアコンやヒートポンプ、エコキュートなどに対し、空質事業は換気扇、レンジフード、空気清浄器、扇風機、トンネル換気浄化システムなどだった。それが21年10月、空気という切り口で融合したわけだ。その裏には、別々に事業を行っていたのではグローバル競争に勝てないということがあったと言っていいだろう。
空質空調社の目指す3つの価値
「空質空調社の事業領域は今までにない広い事業領域をカバーする。換気送風機器から環境エンジニアリング事業、そして電気・ガスの空調機器から温水システムに至るまで空気と水に纏わる領域だ。コア技術も空質空調の全領域の基盤技術に加え、水浄化など数多くの技術を保有している」と道浦社長。
例えば、アクティブ型の浄化技術であるナノイーとジアイーノだ。成分が機器から飛び出して空間を浄化するもので、空間を浮遊する菌だけでなく、壁などに付着した菌にまで効果があり、空間全体の浄化が可能だという。そのほか、温度制御と衛生面で圧倒的な強みを持つ遠心破砕加湿技術、コンプレッサーやモーターなどの高い省エネを実現するデバイス技術、そして独自のセンシング技術だ。空質空調社では、これらの強みを生かしながら革新と融合を進め、独自の価値を提供していく方針だ。
その価値とは3つだ。まず独自のクリーンテクノロジーとセンシング技術で、菌やウイルス、アレルギー物質などさまざまな有害物質を抑制し、気持ちよく呼吸できる暮らしを実現する。2つ目が一人ひとりの暮らしや仕事に合わせたストレスを軽減する空気で、人と社会に活力を提供する。3つ目が省エネやCO2削減により、地球温暖化防止に貢献する。
業務用空質空調連携システム
最大52%エネルギー削減した空質空調システムを発売
ユーザーターゲットも、B2Cである一般ユーザーをはじめ、不動産オーナーや施工業者、設計事務所、デベロッパーなどB2Bも見据える。特にB2Bのお客には入居者へのより良い空気環境とそれによる不動産価値の向上をアピールしていくそうだ。
「今後はお客さまと深くつながった循環型ビジネスの構築を目指していく。機器購入前には現場図面を短時間でデジタル化するなど省力化の支援をし、契約から施行に向けてはサブスクの試算や現場確認など手間のかかるポイントへの支援を行っていく。機器導入後には使用状況データを分析し、空気質の状況を見える化と空気質改善などの提案などをしていく」と道浦社長は新たなビジネスモデルについて説明する。
事業目標
また、同日に新たな価値提案を行っていく技術として、業務用空質空調連携システムを発売する発表した。同システムは、空調機の温度調節機能、熱交換気扇による換気機能、独自技術の次亜塩素酸と新「ナノイーX」による除菌、脱臭、加湿機能を連携させたもの。天井埋込型ジアイーノで、空気中を浮遊する菌・ニオイを吸引し、本体内部で生成する次亜塩素酸の力で除菌・脱臭。きれいになった空気とともに、気体状の次亜塩素酸を放出する。業界トップクラスの省エネ空調機と換気機器で、最大52%のエネルギー削減を実現したという。
「事業成長向け積極的に投資を行い、主要市場、主要拠点において研究、開発、製造力強化を進めていく。市場にできる限り近いところに投資をしていくことで、新たな商品・システムの研究開発のスピードアップを図ると同時に、リードタイム短縮による供給力強化も実現していく」と道浦社長は話し、2025年までに1000億円規模の投資をすることを明らかにした。そして、2025年には売上高1兆円の事業規模を実現し、グローバルトップクラスの仲間入りを果たすそうだ。
しかし、世界の空調市場の競争は激しく、世界最大手のダイキンは3年間で生産能力拡大などに8000億円を投資する方針だ。三菱電機も製造設備の増強などに1800億円を投じ、2025年度の事業売上高を20年度比50%増の1兆2600億円にする目標を掲げている。そんなライバルに対し、パナソニックはどのように統合の相乗効果を生かし、強みを発揮していくのか要注目だ。