林孝浩社長オンセミ日本法人代表取締役社長兼本社バイスプレジデント(日本地区セールス担当)インタビュー
オンセミ日本法人の林孝浩社長は6月下旬、当メディアなどと個別インタビューし、2022―27年の5か年の中期目標で車載用製品の急拡大を目指すと表明した。電気自動車(EV)本格普及の兆しが出てきたのを踏まえ、高効率デバイスのSiC(シリコンカーバイト)パワー半導体などが伸びをけん引すると予想しているためだ。( 佃モビリティ総研・松下次男 )
本体の米オンセミ(本社・アリゾナ州スコッツデール)を中心にしたグローバルでみると、自動車分野の売上比率は50%(2023年第1四半期)に達し、すでに市場セグメント別でオートモーティブ領域が最も高い。
さらに2022―27年の5か年の中期目標でも自動車分野の成長が最も著しいと予想。売上全体では年率10~12%の成長を予測しているが、オートモーティブ向けは19%の伸びを見込む。
このほか、EV用急速充電器などを含むインダストリー向けも10%の成長を予測。一方で、その他の分野はマイナス成長の見通し。
林社長は日本法人の事業展望でもほぼ同様の推移になるだろうと言及した。ただ、わが国は自動車産業の比率が高いことからオートモーティブ向けの比重がグローバルより大きくなるとの判断も示す。
自動車向けが急成長すると予想する背景が電動化の進展だ。EV市場が普及期に入る兆しが出てきたことで、EVに不可欠なコンパクトで高効率の電子デバイスのSiCの採用が急速に進むと判断。オンセミの特色を生かし、シェア拡大を目指す。
実際、オンセミはSiCを素材から最終製品まで一貫生産しており、多様なニーズに応えられるという。
あわせて、自動車分野ではカメラ用のイメージセンサーも有望製品。同社は自動車用イメージセンサーでは世界トップであり、ADAS(先進運転支援システム)用では68%(2022年)のシェアを持つ。
同分野も今後、ADAS・自動運転の進化に合わせて採用が広がるとみている。
林孝浩オンセミ日本法人代表取締役社長兼本社バイスプレジデント(日本地区セールス担当)の発言要旨は次のとおり。
――日本法人社長に就任して1年になりますが。
「オンセミはインテリジェントパワー、インテリジェントセンシングというサステナブル・エコシステムのテクノロジーを使い、ユーザーが必要としている課題解決に貢献し、社会課題に応えるという取り組みに変わりはありません。トピックでは、今年3月に本社が移転し、モダンなオフィスとなりました」
――事業活動はどのように推移しているのでしょうか。
「事業規模でいえば、2022年は83億ドルの売上げを達成しました。前年実績に比べ約24%の伸びです。従業員の44%が女性で、マイノリティの社員を採用するなど多様化にも力を入れています。
2023年第1四半期(1~3月)も19億6千万ドルの売上げとなり、前年同期比38%の伸びとなりました。とくに自動車分野が好調で、全体の売上の50%をオートモーティブが占めています。次に、インダストリー向けが29%を占め、この2つのセグメントで79%占めています」
――自動車分野ではどのような製品が伸びているのでしょう。
「EVや環境関連製品向けですね。我々は大きな流れとして6つのセグメント領域にフォーカスしていくことを考えております。自動車領域ではEV、ADAS、それから5Gクラウドパワーのインフラフレーム、インダストリーでいえばEV用充電器、ファクトリーオートメーション、エネルギー関連のインフラ領域などです」
――これらが成長領域ということでしょうか。
「2022年から2027年の5年間でいいますと、非常に大きな伸びを期待しています。例えば、EVでいいますと、我々の強みであるパワー半導体のほか、EV社会を実現するためにチャージング、エネルギーインフラなども不可欠で、エコシステムの観点からEVの領域にフォーカスしたいと考えております」
――特にパワー半導体が成長の柱に。
「パワーSiC、Si(シリコン)の現状でいいますと、我々のグローバルのポジションはナンバー2であり、マーケットシェアは9%を占めています。これらの領域はこれまでパソコンやスマートフォン、それにデーターセンター向けなどを契機に急速に発展してきましたが、これからは我々が狙っているエリアが拡大し、これからの5年間で年率38%の伸びを見込んでいます。EVや周辺分野の急速充電器、インフラ向けなどです」
――EVでは、どのような部分にSiCが使われるのでしょうか。
「EVを見ますと、航続距離を伸ばすことが課題となっており、航続距離を伸ばすためには効率を高めなければなりません。そこで効率を高めるのにSiCが有効となります。
SiCを使えば、スイッチングのスピードを速められ、製品を小型化し、信頼性も高くなります。この結果、EVシステムの最適化が可能になるほか、ADAS分野にも有効です。我々の製品は競合製品と比べて30%以上、効率性などが優れていると判断しています」
――EVの動きをみますと、eアクスルなどのように多くの部品を一つにパッケージングする取り組みが進んでいます。このため単に製品を供給するだけでなく、設計段階から他企業との協業、連携も求められるのでは。
「確かに、EVになりますと、これまでエンジンで差別化できていたものができなくなる可能性があります。そのため、差別化要素として様々な取り組みが行われることになるでしょう。この中で、我々は供給面で長期契約を結ぶとともに、OEMのほか、ティア1企業、ティア2企業とも接点をもっています」
――車載カメラ用のイメージセンサーについての取り組みは。
「我々にとって事業の両輪となるイメージセンサー領域をみますと、オートモーティブ及びインダストリー分野ではナンバーワンのシェアです。オート分野では46%(2022年)のシェアで、ADAS用のカメラに限ればさらに68%の高いシェアを確保しています。
なぜ、これだけ高い実績を残しているかと言えば、45年間積み重ね来た実績と時代時代で常に最先端のテクノロジーを開発してきたからです。代表的なテクノロジーでいえば、ダイナミックレンジに我々は注力しており、人が見えない暗いところでもカメラで捉えられるような技術です。サイバーセキュリティの技術も同様ですが、近い将来の自動運転技術では重要な要素となります」
――日本事業の規模はどのような比率になっているのでしょうか。
「2023年第1四半期でみると、地域別の売上比率はアジアが51%、ヨーロッパ21%、北米20%、日本8%です。アジアが売上の半分を超えていますが、これはあくまでも出荷ベースの比率です。
例えば、日本で成約しても、アジアの工場で生産し、日本企業の海外拠点含む、現地で供給するものはアジアに含まれます。そういう意味で、商談ベースを含めた日本事業の比率はもう少し大きくなるでしょう」