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2024年3月25日【事業資源】

日産自動車、新経営計画「The Arc」を発表

坂上 賢治

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日産自動車は3月25日、自社の価値と競争力を向上させる新経営計画「The Arc( ジ・アーク )」を発表した。同社は〝新型車の投入〟、〝電動化の推進〟、〝開発・生産方式の革新〟、〝新技術の採用や戦略的パートナーシップ〟などで構成されるThe Arc計画により販売台数の増加と収益性の向上を目指す。

 

そんな同計画は、2020年度から2023年度に掛けて実行中の事業構造改革「Nissan NEXT」と長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」の架け橋となるもので、その中身は2024年度から2026年度までの中期の取り組みと、2030年までの中長期の取り組みで構成されている。

 

 

The Arcとは:日産経営計画 ~長期ビジョンへの架け橋

 

日産の内田誠社長兼CEOは、「The Arcは、日産が未来へと向かう道筋を示しています。そして日産が常に前進し、変化し続ける市場環境に対応する力を象徴しています。

 

この計画の事項を以て、日産は価値と競争力を更に向上させていきます。市場の激しい変化に直面する中、日産は持続的な成長と収益性を確保するための果断な取り組みを実行していきます」と語った。

 

日産はまず、地域毎に最適化した戦略を通じて販売台数を拡大し、電動車両とICE車のバランスの取れたポートフォリオ、主要市場での販売増、財務規律の徹底などを通じてEV移行を加速するための準備を進める。

 

そして上記を踏まえて、2026年度末までに年間販売台数を100万台増加させ、営業利益率を6%以上に引き上げることを目指すという。

 

次にスマートパートナーシップ、EVの競争力向上、イノベーションによる差別化、新たな売上の機会などを通じて、自動車産業界のEVへの移行と、長期的な収益が伴う成長を介して、2030年度までに新規ビジネスを最大2.5兆円へまで拡大させていくとした。

 

また商品ポートフォリオ面では、今後3年間で30車種の新型車を投入する。そのうち16車種を電動車両に。14車種をICE車として、バランスの取れたポートフォリオを組み立てて、市場毎に異なる電動化の成長ペースに合わせてフレキシブルに対応させていく。

 

2024年度から2030年度の間では、計34車種の電動車両を投入して全てのセグメントをカバー。グローバルな電動車両のモデルミックス面では、2026年度に40%、2030年度には60%になる見込であるとした。

 

 

日産自動車の新経営計画

 

市場毎に最適化していく2026年度までの戦略は以下の通り

 

アメリカズ:

  • 地域全体の販売台数を2023年度比で33万台増加させ、米国では統合型カスタマーエクスペリエンスに2億米ドルを投資。
  • 米国とカナダで、7車種の新型車を投入。
  • 米国で乗用車モデルラインアップの78%を刷新し( 日産ブランド )、e-POWERとプラグインハイブリッドを搭載したモデルを投入。

 

中国:

  • 日産ブランド車のラインナップの73%を刷新し、新エネルギー車( NEV )8車種を投入( 4車種の日産ブランド車を含む )。
  • 販売台数を20万台増加し、2026年に年間販売台数100万台を目指す。
  • 2025年から輸出を開始。第一段階として10万台レベルを目指す。
  • 継続して合弁パートナーと生産能力を最適化。

 

日本:

  • 乗用車モデルラインアップの80%を刷新し、5車種の新型車を投入。
  • 電動車のモデルミックスを70%へ向上( 乗用車 )。
  • 販売台数を2023年度比で9万台増加させ、2026年度に年間60万台の販売を目指す。

 

アフリカ、中東、インド、欧州、オセアニア:

  • 地域全体で販売台数を2023年度比で30万台増加。
  • 欧州:6車種の新型車を投入。EVの販売構成比を40%へ向上( 乗用車 )。
  • 中東:5車種の新型SUVを投入。
  • インド:3車種の新型車を投入。10万台レベルの輸出を目指す。
  • オセアニア:1トンピックアップとCセグメントクロスオーバーEVを投入。
  • アフリカ:2車種の新型SUVを投入。AセグメントのICE車を拡大。

 

EVの競争力
これらの新型車を投入していくため、日産は新たなアプローチで手頃な価格付けを介して収益性の高いEVを実現していくとした。また複数のEVのファミリー開発、パワートレインの一体化、次世代モジュラー生産、グループソーシング、バッテリーの革新などにより次世代EVのコストを30%削減( 現行アリア比 )。2030年度までにEVでICE車と同等のコストを実現することを目指す。

 

車両の係るファミリー開発では、メインモデルをベースに開発する後続モデルの開発費を50%、トリム部品のバリエーションを70%削減。開発期間を4ヶ月間短縮させる。この際、次世代モジュラー生産方式を採用することらよって、車両生産ラインも短縮。台当たりの生産時間も20%短縮していく。

 

その他の生産面では、ニッサン インテリジェントファクトリーを国内外の工場に拡大。2026年度から2030年度に掛けて日本の追浜工場と日産九州、英国のサンダーランド工場、米国のキャントン工場とスマーナ工場で導入を開始する。

 

EV36Zeroについては、英国のサンダーランド工場から米国のキャントン工場、デカード工場、スマーナ工場、日本の栃木工場、日産九州では2025年度から2028年度に掛けて採用していく。

 

新技術
同計画では知能化技術も進化させ、高速道路から一般道、敷地内、最終目的地までドアツードアの自動運転技術を実現する次世代プロパイロットを投入する予定だ。

 

バッテリー開発では、様々な顧客ニーズに対応する多様なEVを提供するため、NCMリチウムイオンバッテリーを進化させた上で、LFPバッテリーと全固体電池を投入し、多様なバッテリーをラインナップしていく。NCMリチウムイオンバッテリーでは、アリア比で急速充電時間を50%削減し、エネルギー密度は50%向上させる。

 

国内で開発、生産するLFPバッテリーは、サクラ比でコストを30%削減させる。これらの進化したNCMリチウムイオンバッテリー、LFPバッテリー、全固体電池を搭載したEVは、2028年度に投入する予定とした。

 

戦略的パートナーシップ
日産は競争力を維持し、グローバルな商品ポートフォリオや技術を提供するために、戦略的にパートナーシップを活用していく。

 

欧州、ラテンアメリカ、ASEAN、インドでは、ルノーと三菱自動車とのアライアンスを引き続き活用する。中国の現地資産については、今後もフルに活用し、中国とその他の国々のニーズを満たしていく。日本と米国では新たなパートナーシップを模索していく。バッテリーはパートナーと共に開発・調達し、グローバルで135 GWhの生産能力を確保する。

 

財務規律の徹底:レジリエントで収益性の高い業績を実現
日産は財務規律を徹底しながら、研究開発費と設備投資額を総売上高の7%から8%の範囲に維持し、バッテリー設備へは4,000億円以上を投資することを計画している。電動化への投資は段階的に増加し、2026年度までに全体の70%以上を占めるようになる。

 

これらの投資を適切に管理することで、日産は全てのステークホルダーに価値を提供していく。電動化への投資を行った後も、M&A実行前フリーキャッシュフローはポジティブを維持し、株主総還元率を30%以上確保することを目指す。またネットキャッシュは1兆円レベルと健全な水準を維持することを目指す。

 

最後に内田誠社長兼CEOは、「The Arcは、日産の競争力を強化し、持続可能な収益性を実現するための包括的な計画です。日産にはこの計画を実行するために必要なものが備わっています。そして同計画を通じて、Nissan Ambition 2030を実現するために必要な確固たる基盤を構築していきます」と締め括った。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。