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2024年8月1日【ESG】

⽇産、ホンダ・三菱⾃、 戦略的パートナーシップで覚書を締結

坂上 賢治

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各社の強みを生かしたパートナーシップの姿を検討へ

 

先の3月15日、日産⾃動⾞と本田技研工業で締結した「⾃動⾞の知能化・電動化に向けた戦略的パートナーシップの検討開始に関する覚書」は、100日を大きく超える協議を重ねた後の8月1日に三菱⾃動⾞工業が同枠組みに新規参画。今後は、三社による更なる協議を進めることで改めて覚書を締結した。( 坂上 賢治 )

 

 

今後、日産⾃動⾞と本田技研工業は、カーボンニュートラルの実現と交通事故ゼロ社会の実現に向けて、環境対応技術・電動化技術・ソフトウェア開発などの領域での協業を視野に幅広いスコープでの検討・協議を進めていくという。

 

なお、これまでの検討を、より以上に加速度的に進めていくにあたって、三菱自動車工業が加わった各社が、これまで培ってきた技術や知識を集約することで生まれる新たな価値創出や、事業の効率化が不可⽋なことだとしている。

 

そうした意味で、日産⾃動⾞と本田技研工業が検討・協議する協業候補領域に、三菱⾃動⾞が新たなに参画することで異なる視点と知⾒が加わり、三社でしか生み出すことのできないシナジー効果と新たな事業機会が得られるとしている。

 

 

但し三社の戦略的パートナーシップの詳細は明らかにされず

 

けれども現段階の会見内容では、三社の戦略的パートナーシップの細かな建て付けについて、どの経営トップも揃って口を固く結んで未だ明らかになっていない。

 

但し、会見の壇上で、ふたりの社長が示してくれた取り組むべきテーマは、「次世代SDV(ソフトウェアデファインドビークル)プラットフォームに係る、基礎技術の共同研究」であるとしている。

 

さて、これ以降は筆者の勝手な解釈かもしれないが、その語り口を細かく掻い摘んでみると、取り組むべきテーマはふたつあるようだ。そのひとつは、「知能化・電動化・通信機能を包括するソフトウエアの基礎開発( 車載OSの研究 )」である。

 

また、ふたつめは、次世代SDVのハードウエアにあたる「バッテリ技術の相互補完・e-Axleの共有化・プラットフォームのE&Eアーキテクチャ(構成・設計思想・設計方法)」のようだ。

 

更にこれに「国内エネルギーサービス・資源循環領域での協業(エネルギーインフラの整備と使用済み車両のリサイクル循環)」が加わる。しかしこれでは、何やら総花的な事業戦略に聞こえてしまい、煙に巻かれた気分だ。

 

 

モビリティビジネスの優勝劣敗が決する分水嶺は2030年代に

 

おそらく日産とホンダは、3月15日以降の4ヶ月余りの時間を掛けて、互いの自動車メーカーとしての未来戦略を深く探り合ってみたところ、少なくとも2030年代に向かうなかで両社が目指すクルマづくりの方向性に違いが無いことを確信。

 

そこで両社は、今後数年の企業戦略の進め方に関しては、各々のやり方で比較的自由に加速させていき、来たるべき2030年代へ向かう突入段階に於いて、共に歩調を合わせていくことで合意したというなのだろう。

 

そうして合意に至った結果、三社が共に最も重要な時期と考えている2030年代に於いて、車両製造のコストを圧縮させる分、未来の真の差別化要素となるモビリティ利用で生じる「新たなサービス収益の獲得」を目指すのではないか。

 

 

ここで異なる話を持ち出して恐縮だが、今となって昭和の時代を振り返ると、高性能なTVを大量生産して利益を得ることは、当時は当たり前のビジネスモデルだった。しかし今となってはTV自体は偉くなくなり、顧客(消費者)がどんな状況で、どんなTVコンテンツを見ているかが重要になった。

 

しかも21世紀を迎えた今日、コンテンツを見るためのTVなどの装置は不要になった訳ではなかった。今やコンテンツを見るためのデバイス数は、昭和時代のTV台数など比較にならないほど増殖している。

 

おそらく今後モビリティビジネスは、メーカーが主導するプロダクトアウト型ではなく、需要側に大きく選択肢が傾く時代になる。仮にそうであるなら、何かとコストが嵩む製造に係るコストは、できる限り圧縮させ、その分、新たなサービス提供のための原資づくりにコストを掛けていく品質を高めるべきという判断であるのだろう。

 

戦略的パートナーシップ深化に係る主な協業領域

 

(1). 次世代SDVプラットフォームに関する基礎的要素技術の共同研究契約
知能化領域の要となる次世代SDVプラットフォームについて、基礎的要素技術の共同研究を行うことで合意し、研究をスタートした。まず1年をめどに基礎研究を終えることを目指し、成果が出ればその後量産開発の可能性を含めて検討していく。

 

(2).バッテリー領域
EVのキーコンポーネントとなるバッテリーについて、両社間での仕様の共通化、相互供給など、短期および中長期的な観点での協業範囲を検討していく。

 

両社のバッテリー技術やアセットを持ち寄ることで、個社の投資負担やリスクの分散や、ボリュームメリットによるコストダウン効果のみならず、高出力型から廉価型まで、幅広いバッテリーの選択肢を持つことが可能とる。

 

両社がそれぞれ供給を計画しているバッテリーが、どちらの車にも搭載できるようにすることを目指し、両社のEV向けバッテリーセル・モジュールの仕様について、中長期視野で共通化を図ることに基本合意した。

 

両社は、HondaとLGエナジーソリューションとの合弁会社、L-H Battery Company, Inc.で生産されたEV用リチウムイオンバッテリーについて、2028年以降北米でバッテリーを日産自動車へ供給することを検討していく。

 

(3).e-Axle領域
両社の次世代EVに搭載を予定しているe-Axleについて、中長期的に仕様の共通化を目指していくことに基本合意。その第一ステップとして、e-Axleの基幹領域となるモーター、インバーターを共用していくことで合意した。

 

(4).車両の相互補完
両社がグローバルでそれぞれ販売するモデルについて、短期から中長期的な視野で車両の相互補完を検討。短期的な対応として、相互補完の対象とするモデル・地域に基本合意すると共に、両社合同での商品検討体制などのアウトラインに合意した。相互補完のモデルは、ガソリン車やEVなどを検討していく。

 

(5).国内のエネルギーサービス、資源循環領域
充電、エネルギー機器や、バッテリーを活用したエネルギーサービス、充電サービスなど、国内におけるエネルギーサービス、資源循環領域についても、協業の可能性を検討していくことに合意した。

 

 

 

三社体制となったパートナーシップ、トップの想いは

 

今回、日産自動車の内田誠 代表執行役社長 兼 最高経営責任者は、「本田技研工業と日産自動車との戦略的パートナーシップに、新たな仲間を迎え⼊れることを⼤変嬉しく思います。

三菱⾃動⾞工業は、独⾃の技術や知⾒を有し、これまでも日産のパートナーとして協業を進めてきましたが、改めて三社が協業することで当該パートナーシップを、より⼤きな価値を生み出すものへと進化させ、お客さまの多様なニーズにお応えしていける独自性や商品の多様性が期待されます」と述べた。

 

 

また本田技研工業の三部敏宏 取締役 代表執行役社長は、「100年に⼀度と⾔われる⾃動⾞業界の変⾰期に於いて、日産と本田技研工業がこれまで培ってきた技術や知⾒を撚り合わせたことで得られる相乗効果に加え、三菱⾃動⾞工業の強みと経験が加わることで、電動化と知能化に係る課題が、よりスピード感を持って解決され、三社が世界のトップランナーとして社会変⾰をリードしていけるものと考えています」と語った。

 

更に三菱自動車工業の加藤 隆雄 取締役 代表執行役社長 兼 最高経営責任者は、 「今回の戦略パートナーシップは、日産・本田技研工業の間で検討が進められてきましたが、今回、当社もこの検討の枠組みに参画することとしました。

電動化と知能化といった技術⾰新によって、当該産業領域の変化が激しい今日の⾃動⾞業界に於いてパートナーとの協業は不可⽋です。今回の三社間での検討による協業を通じ、様々な分野に於いて新たな可能性を⾒出せるものと信じています」と話している。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。