日本電産は10月24日、2022年度第2四半期(4月~9月期)の連結決算を発表した。それによると、売上高が前年同期比24.2%増の1兆1307億円、営業利益が同8.1%増の963億円、純利益が同30.1%増の866億円だった。第2四半期決算としては、売上高、営業利益、純利益とも過去最高を更新した。7~9月期についても同様で、いずれも四半期で過去最高を更新。関潤前社長の退任の一因となった車載事業についても、54億円の黒字となり、2四半期連続の営業赤字から脱却し、2023年度には黒字化を果たせるという。(経済ジャーナリスト 山田清志)
連結決算業績
2022年度通期の業績見通しは据え置き
日本電産の決算会見は、佐藤彰宣常務執行役員兼CFOのこんな言葉から始まった。
「決算概要の説明に先立って、去る10月7日および本日、東洋経済オンラインが配信した当社の自社株取得がインサイダー取引の疑いがあるという報道があったが、これは全く事実無根である」
さらに「当社の名誉を著しく毀損すると同時に、株式市場に対して虚偽の情報を流すことによって混乱させたということで、当社としては到底容認することができない」と述べ、東洋経済新報社と記者などの関係者に対して謝罪広告などを求める民事訴訟を起こし、所轄警察署に被害報告をしたうえで名誉毀損罪の告訴状を提出したという。
東洋経済オンラインの記事が配信された以降、日本電産の株価は下落。10月7日の終値8426円に対し、週明けの11日には終値が7639円へと大きく下がり、2020年7月以来の7000円台をつけた。株価を重視する永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)としては許すことができなかったのであろう。「雑誌に書かれている情報は全部嘘です。どういう意図があって内部から情報を流しているのかについては、現在われわれも調査していて、厳然たる対処をしていく」とコメントした。
では、決算についての説明に入ろう。売上高については、精密小型モーターがハードディスクの需要縮小の影響を受けて減収となったが、それ以外の車載、家電・商業・産業用、機器装置、電子・光学すべてのセグメントで増収となった。さらに、為替変動による増収が1396億円あった。
世界の電動化車両の状況
営業利益については、各セグメントとも材料費の高騰やロシア・ウクライナ問題、中国ゼロコロナ政策の影響が収益を圧迫したものの、重点分野の売り上げ拡大、固定費適正化などのコスト改善、さらには工作機械関係への進出などの対策を強力に推進した結果、過去最高を更新した。
しかし、2022年度通期の業績見通しは、売上高が前期比9.5%増の2兆1000億円、営業利益が同23.3%増の2100億円、当期純利益が同21.5%増の1650億円と、期初の予想を据え置いた。
日本は完全にガラパゴス状態
今回の決算会見では、懸案の車載事業について、担当の早船常務執行役員が丁寧に説明を行った。電気自動車(EV)向けのモーターとインバーター、減速機を一体化した製品であるトラクションモーターの「イーアクスル」が好調な受注を背景に売り上げが急激に伸びているとのことだ。それはイーアクスルの生産台数を見れば明らかで、なにしろ21年度の23万台から22年度は55万台と倍以上に増えるのだ。しかも23年度については、すでに確定受注が約120万台もあるという。
「中国と欧州の電動化の進捗は日本とは全く違う。日本は完全にガラパゴスになっている。中国の今年9月のNEV(New Energy Vehicle)、これはEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)の合計でその販売比率が30%を超えている。中国国内では3台に1台の新車がNEVになっている。欧州も足元で20%を超えているので、5台に1台がEVあるいはPHEVとなっている。一方、日本は最新の統計でも1~2%で、EV化が非常に遅れている」と早船常務執行役員は説明する。
イーアクスルの見通しと開発計画
このような電動化の急進展で、5年前に立てたイーアクスルの売り上げ目標を3年前倒しで達成できそうだという。今年の9月にはステランティスとの合弁会社NPE(Nidec PSA emotors)がイーアクスルの量産を開始。また、第2世代のイーアクスル(100kW)の量産が始まり、23年5月にはさらに大容量の150kWの量産も開始する。
「この2つが大きな牽引力となって収益力が劇的に変わっている」と早船常務執行役員は話し、23年度の黒字は可能であると自信を見せた。さらに、第3世代、第4世代のイーアクスルの研究開発も設備の増強とともに進めており、第3世代製品については25年度中に投入する計画だ。「顧客の要求はコスト、効率、静かなモーターであることで、第3世代は効率向上を強烈に追い求める」そうだ。
内部はガタついていない
しかし、日本電産には懸念事項も少なくない。その最大のものは、後継者問題を含めたガバナンス(企業統治)であろう。なにしろ、外部からヘッドハンティングした社長などの経営幹部が次々に会社を去っているのだ。
前社長の関氏は日産自動車で副COOをつとめたのち2020年1月に日本電産に入社し、21年6月に永守会長からCEOを引き継いだが、株価低迷などを理由に2年4月COOに降格、9月には退任してしまった。
中期戦略目標「Vision2025」
関氏の前の社長を務めた日産出身の吉本浩之氏も退社。さらには13年にカルソニックカンセイ(現マレリ)元社長の呉文精氏が副社長に就いたものの15年に退社した。14年には元シャープ社長の片山幹雄氏が入社し、最高技術責任者(CTO)や副社長を務めたが、21年に退社している。そんなことで、日本電産の先行きを不安視する声が少なくなかったのだ。
「ガバナンスに問題があるとは思っていない。外部から社長を迎え、企業文化が大きく変わった。これまで内部情報が外部に漏れることはなかったが、この2年間漏れていることがある。後継者について、10年遅れたことは私の最大のミスだ。今は内部の人材を育て、来年4月までには新しい経営体制をつくる。混乱した企業文化をまず立て直して、もう一度社風の原点に戻る」と永守会長は力説し、こう付け加えた。
「ここ2年間はつらかった。50年間で確立してきた基本ポリシー学んでくれなかった。2年間で1000億円の利益を失った。すべての責任は私にある。小部博志社長を中心に体制を組んでいるので、この会社がガタガタすることはない。内部はガタついていない。企業文化はすぐに若い人が元に戻してくれる」
23年4月に内部から副社長を5人選び、24年4月にその中から社長を決める方針だ。日本電産は現在、21年7月に発表した中期戦略目標「Vision2025」を進めており、25年度に売上高4兆円の達成をめざしている。そして30年度には売上高10兆円という壮大な目標を掲げている。果たして、今回のゴタゴタをバネにその計画が達成できるか、日本電産の経営には目が離せない。