三菱自動車工業が最重要市場と位置づけているアセアン市場で苦戦している。2月1日発表した2023年4~12月期の連結決算は、売上高が前年同期比14.3%増の2兆638億円、営業利益が4.2%増の1601億円と増収増益だったが、アセアン地域の販売台数は8%減の18万1000台だった。特に主力のタイ市場で中国勢の電気自動車(バッテリーEV)攻勢よりシェアも下げた。当期純利益については、中国での生産撤退に伴う関連損失が響いて21.4%減の1027億円だった。(経済ジャーナリスト・山田清志)
松岡健太郎 代表執行役副社長(CFO)
ちなみに日本と北米以外市場での販売減は、一部地域での輸送能力不足による納車遅れ、総需要の低下といった影響を受けたもの。業績面については、半導体や船腹不足等による車両の供給不足は解消に向かっているが、一部地域で総需要が期待より下まわる結果で推移した。一方で販売の質向上や、手取り改善活動が下支えしたことで、堅調な業績を達成することができていると事業全体を包括した決算概略については松岡健太郎副社長(CFO)が説明した。
三菱自動車2023年度第3四半期累計業績
主力のタイ市場で販売台数が大幅に減少
「アセアンについては、タイにしろ、インドネシアにしろ、ベトナムにしろ、われわれのコアマーケットの全需が落ち込んでいる状況だ。特にインドネシアとタイにおいては、月を追うごとに悪くなっていて、われわれも苦労している。
タイでは中国とのFTA締結によって、中国から安いバッテリーEVが無関税で輸入でき、さらに昨年には10万バーツ(役60万円)の恩典がつくということで、かなり市場が荒れた状態になっている」と中村達夫副社長は話し、フィリピン以外は前年同月を下回った。
タイ市場といえば、ながいこと日本車が約9割のシェアを占めて独壇場だったが、2023年はシェアが8割を切り、78%まで落ち込んだ。代わりに大きく伸ばしたのがBYDなどの中国メーカーで、22年比で2.2倍もシェアを伸ばし、11%を記録した。特にバッテリーEVの市場が急成長しているという。
そのあおりを大きく受けたのが三菱自動車で、同国での販売台数を35%も減らしてしまった。4~12月期を見ても、前年同期の3万6000台から2万2000台と38%も減少した。そこで、同社では3つの戦略を進めることにした。
中村達夫 代表執行役副社長(営業担当)
1つ目は中国のバッテリーEVメーカーが手がけていないピックアップに力を入れていく。ピックアップは販売店の収益の柱にもなっており、その市場をしっかりと守っていく。2つ目が三菱車を購入すると安心であるという顧客への訴求を強化する。
タイでは50年以上の歴史があり、全国津々浦々まで販売店、サービスショップ、部品の供給網があるので、中国製のEVに修理などのアフターサービスで不安を持つ顧客に三菱車を買うメリットを訴える。3つ目がハイブリッド車(HEV)を投入すること。2月1日にクロスオーバーMPV「エクスパンダー」と「エクスパンダー クロス」のHEVモデルをタイで世界初披露し、販売を開始した。
「今、バッテリーEVが需要の11%ぐらいまで成長してきているが、アーリーアダプターが一巡しつつあり、伸びるペースが少し落ちてきている。販売金融会社もこれまではどんどん販金をつけていたけれども、だんだんと不払いが増えてきたので、少し慎重な姿勢に変わってきている」と中村副社長は説明する。
三菱自動車2023年度第3四半期累計販売台数実績
米国ではアウトランダーの販売が大きく伸長
一方、米国や豪州は販売が非常に好調で、販売店から早くクルマを持ってきてくれと引っ付かれているそうだ。特に米国に関しては、これまで「ミラージュ」や「RVR」などでインセンティブを積んで安さを武器に販売していたが、現在は「アウトランダー」と「アウトランダーPHEV」の投入によって、値引き販売ではなく、価値を訴求する販売が進んでいるという。しかも、そのアウトランダーは前年同期の3万8800台から5万6800台と販売台数を大きく伸ばしている。その結果、インセンティブも業界平均以下の水準だ。
長岡宏 代表執行役副社長(開発・商品戦略・TCS・デザイン担当)
しかし、中期経営計画「チャレンジ2025」で先進技術推進地域として位置づけている北米について、中長期的には三菱自動車単独でやっていくのは難しいと考えていて、アライアンスを組んで商品を補完しながら北米攻略をしていく計画だ。「今後、電動化とかいろいろなクルマが必要になっていく中で、どのような協業が一番望ましいのか、今まさに議論しているところだ」と長岡宏副社長は話す。
その中期経営計画では、アセアン、オセアニア地域を成長ドライバーと位置づけ、事業中核地として経営資源を集中し、台数シェア収益すべての拡大を目指すとしている。25年度の販売台数目標は50万台超えだ。ちなみに23年度は35万9000台が目標で、2年間で15万台以上伸ばす必要がある。果たして今の調子で達成できるのだろうか。
ただ、グローバルの販売目標が110万台となっており、アウトランダーが好調な北米、軽自動車が好調な日本で、アセアンでの苦戦分をカバーしようという戦略を打ってくるかもしれない。
三菱自動車「エクスパンダー」
25年度の財務目標である営業利益2200億円、営業利益率7%については問題なくクリアできそうだ。なにしろ23年度の業績予想で、営業利益が前期比5.0%増の2000億円、営業利益率が7.0%となっているからだ。価格訴求から価値訴求への戦略が一応成功し、あとは目標台数をどのように達成するか注目される。