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2022年11月10日【企業・経営】

川崎重工、二輪車の好調と円安効果で大幅な増益、増配へ

山田清志

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川崎重工業が11月10日に発表した2022年度上期(4~9月期)の連結決算は、売上収益が前年同期比11.6%増の7597億円、事業利益が同74.8%増の308億円、純利益が同3.3倍の237億円と増収、大幅な増益だった。この好業績を踏まえ、通期業績予想を上方修正し、配当についても20円増配すると発表した。(経済ジャーナリスト 山田清志)

 

2022年度2Q決算実績

 

航空宇宙事業は通期で105億円の黒字転換へ

 

「モーターサイクル&エンジン事業において旺盛なアウトドア需要が継続したことや、ロボット事業での売上拡大、またコストアップに対して価格転嫁が順調に進捗し、さらに円安の追い風もあり、事業利益は前年同期比で大きく進捗した。また、純利益も2000年以降、2015年度に次いで過去2番目の高水準で着地した」と山本克也副社長は上期決算を振り返った。

 

前年同期と比較した事業損益の増減益要因は、為替変動が258億円の増益、売上変動が17億円の増益、売上構成変動等が85億円の減益、持分法による投資損益が80億円の増益、販管費増減が139億円の減益だった。原材料価格の高騰などによるコストアップを円安メリットや固定費の削減などで相殺した。

 

それではセグメント別の業績を見てみよう。航空宇宙システム事業は受注高が前年同期比284億円増の1256億円、売上収益が116億円増の1450億円、事業損益は46億円増えたが30億円の赤字だった。民間航空エンジン分担製造品が増加したことのより増収となったが、民間航空機向け分担製造品が減少し、赤字を解消するまでには至らなかった。

 

2022年度2Q決算実績ーセグメント別

 

ただ、航空宇宙システム事業を取り巻く環境は大きく改善しているそうだ。防衛省向けが抜本的な防衛力強化という方針のもと、今後の需要増が期待できるうえ、民間航空機向けについても、新型コロナウイルス感染拡大により低迷していた航空旅客需要が、欧米をはじめ活動再開を優先する国々の増加に伴って回復基調が鮮明になっているからだ。

 

その状況を踏まえ、通期の業績見通しを修正。受注高を前回公表値から200億円増の3000億円、売上収益を100億円増の3600億円、事業損益を45億円増の105億円にそれぞれ上方修正した。山本副社長によると、ボーイング既存機や民間航空機用エンジンの収益確保に向け、引き続きコストダウンを進めていくそうだ。また、新型ヘリコプターが上期に9機受注するなど好調で、前年度の12機を上回る勢いだ。特にドクターヘリとしての人気が高く、同分野では国内シェアの約40%を占めるという。

 

車両事業は受注高が大幅に増加の見通し

 

車両事業は、受注高が国内向け新型通勤電車などの大口案件を受注したことにより、前年同期比161億円増の393億円。売上収益はアジア向け車両が増加したことなどにより9億円増収の585億円。事業損益は米国ロングアイランド鉄道向け車両案件の工程遅れによる影響で、13億円悪化して0億円となった。

 

通期の業績見通しは、受注高が前回公表値より2200億円増の3000億円。売上収益は据え置きの1400億円。事業損益は20億円減の10億円。国内では新型コロナウイルスの影響で鉄道関連投資計画の見直しが一部の事業者から出ており、海外では工程遅延や新規案件の入札の延期などがあったものの、感染者数の落ち着きに伴い、徐々に正常化してきているという。また、ニューヨーク市交通局向けに地下鉄車両640両の追加受注が内定した。

 

2022年度業績予想ーセグメント別

 

エネルギーソリューション&マリン事業は、受注高が前年同期比741億円増の2384億円。発電設備やLPG/アンモニア運搬船の受注増加、国内向けゴミ処理施設整備・運営事業などの大口案件の受注で大きく増えた。売上収益はエネルギー事業や防衛省向け潜水艦の工事量増加などにより、35億円増収の1345億円となった。事業損益は持分法損益の改善などで87億円改善して31億円の黒字転換を果たした。

 

通期の業績見通しは、受注高が前回公表値から300億円増の3900億円。エネルギー事業における国内外での案件増加や、船舶海洋事業におけるLPG/アンモニア運搬船の増加などにより、受注見通しを引き上げた。売上収益はエネルギー事業案件期ずれにより、100億円引き下げて3200億円に下方修正。事業損益は持分法による投資利益の増加などで、30億円増の55億円に上方修正した。

 

精密機械・ロボット事業は、受注高が前年同期に比べ114億円増加の1395億円だった。ロックダウンによる中国建設機械市場向け油圧機器への影響が緩和したことに加え、半導体製造装置向けをはじめとする各種ロボットが増加したことが大きかった。ただ、売上収益は6億円減の1176億円、事業利益は23億円減の55億円と減収減益だった。

 

通期の業績見通しは、受注高と売上収益がそれぞれ2700億円、2600億円と前回公表値を据え置いた。事業利益については、15億円増の160億円に上方修正した。ロボット分野では、半導体メーカーの高水準の設備投資が継続する中で、半導体製造装置向けロボットが好調に推移し、汎用ロボットも自動化投資の高い需要が続いているという。

 

2022年度業績予想

 

オフロード四輪の生産を増強して市場拡大を狙う

 

モーターサイクル&エンジン事業は、売上収益が前年同期に比べ584億円増収の2651億円だった。製品供給不足による欧州向け二輪車の減少や、中国ロックダウンによる一過性の影響はあったものの、北米向け、東南アジア向け二輪車や北米向けオフロード四輪車が増加したことに加え、為替レートが円安に推移したことで大幅な増収となった。事業利益は原材料費や物流費の高騰があったが、価格転嫁と為替の影響により、89億円増益の280億円となった。

 

通期の業績見通しは、売上収益が前回公表値から300億円増の5500億円、事業利益を110億円増の560億円に上方修正した。前年度に続き、史上最高益を更新する見込みだ。半導体不足などを背景とするサプライヤーの供給不足や物流混乱で計画通り生産できない場合は、入手可能部品に応じて生産。販売計画の変更を迅速に実施していくそうだ。

 

「オフロード四輪市場は中長期的にも拡大すると考えており、現在生産能力の増強に取り組んでいる。また、市場としては従来北米が中心だったが、国内でもオフロード四輪の発売を開始した。その他の国でもこのようなレジャー向け四輪の潜在需要は大きいと考えており、販売先の拡大に努めていく」と山本副社長は話す。

 

このようなセグメント別の業績を反映して、会社全体の2022年度通期業績見通しを前回公表値から修正した。受注高が3000億円増の1兆9000億円(前年度比18.5%増)、売上収益が300億円増の1兆7200億円(同14.6%増)、事業利益が200億円増の760億円(同150.3%増)、当期純利益が130億円増の450億円(同256.1%増)と上方修正した。また、年間配当も70億円と従来計画から20円引き上げた。

 

川崎重工はグループビジョン2030において、注力するフィールドを「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」とし、より成長できる事業体制への変革を目指し、手術支援ロボットや配送ロボット、無人輸送ヘリコプターの開発、水素関連プロジェクトの推進など、新事業への展開を急いでいる。しかし、「コングロマリット・ディスカウント」と指摘されている川崎重工がそれを実現するには、部門間の壁をなくし、もっとシナジーを発揮する必要がありそうだ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。