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2022年5月10日【企業・経営】

川崎重工が黒字転換、モーターサイクルが最高益で貢献

山田清志

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川崎重工業は5月10日、2021年度連結決算を発表した。それによると、売上高が1兆5008億円(前年度比0.8%増)、営業利益が458億円(前年度は53億円の赤字)、当期純利益が218億円(同193億円の赤字)と業績が大きく回復し、黒字転換を果たした。モーターサイクル事業が大幅に増収増益となり、懸案だった車両事業も赤字から脱却した。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

2021年度決算実績

 

車両事業が5年ぶりに黒字化を果たす

 

「2021年度は昨年10月1日付でモーターサイクル、鉄道車両事業の新会社、カワサキモータース、川崎車両がそれぞれスタート。モーターサイクルでは、物流混乱や部品不足といった問題が生じたものの、アジャイルな意志決定の基づく的確な対策、また旺盛な需要の波にも乗り、史上最高益となった。車両についても、分社化を通じて経営改善が進んだこともあり、5年ぶりの黒字化を果たすことができた。そして、将来、当社の中軸を担う水素関連についても、さまざまな進捗が見られた」と橋本康彦社長は2021年度を振り返った。

 

セグメント別に見ると、航空宇宙システム事業は売上高が前年度に比べ21.0%減の2982億円だった。防衛省向けや民間航空機向け分担製造品が減少したことに加え、収益認識会計基準等の適用による民間航空エンジン分担製造品の減少が響いた。営業損益は、減収はあったものの、民間航空機向け分担製造品や民間航空エンジン分担製造品における収益性の改善などにより、219億円改善して97億円の赤字だった。

 

2022年度見通しについては、民間機向け航空エンジンおよび防衛省向けの増加により、売上高が21年度比17.3%増の3500億円、営業損益は増収および運行時間の回復に伴う民間機向け航空エンジンの採算改善により、112億円の増益と15億円の黒字を見込む。黒字になるのは19年度以来3期ぶりだ。引き続き固定費構造の見直しや生産革新活動による棚卸資産圧縮を促進するなど財務基盤の強化を図っていく計画だ。

 

車両事業は売上高が米国向け車両の増加はあったものの、その他地域向け車両が減少したことにより前年度比4.9%減の1266億円だった。営業損益は減収だったものの、コロナ影響の縮小などによる海外案件の採算性が上がり、78億円改善して32億円の黒字となった。5期ぶりの黒字でようやくトンネルを抜けたといった感じだ。

 

2021年度セグメント別決算実績

 

22年度の見通しは売上高が前年度比10.5%増の1400億円、営業利益は3億円増とほぼ横ばいの35億円を見込む。前年度に引き続いて北米向け車両の増加が牽引する。具体的な取り組みとして、顧客に信頼される品質レベルの達成と、部品・サービスの拡販や保守分野の事業拡大を目指す。

 

日豪水素サプライチェーンの実証試験で往復航海に成功

 

エネルギーソリューション&マリン事業は、売上高が7.0%(222億円)減収の1973億円、営業利益が89.3%(91億円)減の11億円だった。2月時点の公表値が10億円の赤字予想だったので、何とか赤字を免れたわけだ。船舶海洋事業における防衛省向け潜水艦工事量の減少や、エネルギー事業におけるガスタービンコンバインドサイクル発電プラントの減収が響き、おまけに原材料価格の上昇などで減益となった。

 

22年度の見通しは、売上高が前年度比10.9%増の3300億円、営業利益が約2.3倍の25億円。エネルギー事業の増加や船舶海洋事業の工事量増加などにより増収となり、採算性も改善して増益となる予想だ。特に同事業では、水素エネルギー普及を見据えた技術開発に力を入れている。

 

「現在手がけている日豪水素サプライチェーンの実証試験で、当社が建造した液化水素運搬船『すいそふろんてぃあ』が液化水素を積載して日豪間の往復航海に成功した。さらに商用化実証に向けて、NEDOのグリーンイノベーション基金から総額2600億円の補助金が採択された」と橋本社長は話す。

 

2022年度業績予想

 

精密機械・ロボット事業は、売上高が4.9%増の2526億円、営業利益が18.5%増の166億円だった。半導体製造装置向けをはじめとする各種ロボットが増加し、為替が円安で推移したことで増収増益を果たした。

 

22年度の見通しは、売上高が6.8%増の2700億円、営業利益が20.4%増の200億円。一般産機向けロボットの増加および先進国建機市場向け油圧機器の増加により、増収増益を見込む。具体的な取り組みとして、建設機械の電動化・自動化に向けた技術開発を進めていくほか、燃料電池車用高圧水素ガスバルブ・水素供給システム・油圧式水素圧縮機の開発も推進する。

 

22年度もモーターサイクルとロボットが牽引役に

 

モーターサイクル&エンジン事業は、売上高が北米向け二輪車、汎用エンジンの増加に加え、欧州向けや東南アジア向け二輪車も増加して前年度に比べて33.0%増の4479億円。営業利益は、原材料や部品の価格上昇があったものの、増収と為替の円安により約3.2倍の373億円と大幅な増益となった。

 

22年度の見通しについては、売上高が11.6%増の5000億円、営業利益が20.6%増の450億円。北米向けオフロード四輪車や汎用エンジンの増加などにより増収増益を見込む。今年度の具体的な取り組みとして、市場の要求に最大限応えるために生産計画達成に向け総力を挙げる。

 

2022年度セグメント別業績予想

 

ただ、半導体不足などを背景とするサプライヤーの供給不足や物流混乱により計画通りに生産できない場合は、入手可能部品に応じて生産・販売計画の変更を迅速に行うそうだ。また、脱炭素・電動化に対応するため、ハイブリッドモデルの開発や、ヤマハ発動機と水素エンジンの共同研究について検討を開始する。

 

このようなセグメント状況を踏まえ、会社全体の22年度通期業績見通しは売上高が1兆6800億円(前年度比11.9%増)、営業利益が610億円(同33.1%増)、当期利益が290億円(同33.0%増)を見込む。

 

「売り上げ利益ともに2021年度より増収増益、配当も50円を見込んでいる。収益の中心はグループビジョン2030で計画したとおり、モーターサイクルや精密機械・ロボットといった量産系事業が占めることになるが、受注事業も航空需要の回復により航空宇宙が黒字転換を見込むなど、緩やかに採算性が回復する」と橋本社長は説明していた。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。