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2025年2月10日【事業資源】

JLR、塗装工場のサステナブル設備に6,500万ポンドを投資

坂上 賢治

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タタ・サンズ傘下でタタ・モーターズ・リミテッドの100%子会社であるJLR(ジャガー・ランドローバー)は2月10日(1月27日・英国ゲイドン発)、パーソナライズされたラグジュアリーモデルに対する需要の高まりに対応するため、6,500万ポンドを投資し最も二酸化炭素を排出する製造工程のCO2排出量を低減させ、特殊塗装施設を持続的に拡大させていく技術を新たに積み上げた。

 

今日、自動車産業領域では「RANGE ROVER」および「RANGE ROVER SPORT」全体で、数百種類もあるビスポークカラーやパーソナライズされたカラーの需要が、2022年度以降2倍以上になった。また更に最上位グレードの「RANGE ROVER SV」に対する需要も、今年度は2倍に増加した。

 

現在、英国最大のラグジュアリーカーメーカーを自負するJLRは、ウェストミッドランズのキャッスルブロムウィッチとスロバキアのニトラに新たな塗装施設を開設し、特注カラーとラグジュアリーなプレミアムパレットの生産能力を2倍以上に増強する。これにより、年間17,000件以上の追加注文に対応できるようになり、最高級のペイントカラーを他のブランドでも利用できるようにする。

 

 

例えば英国のキャッスルブロムウィッチにある新たなSVO(スペシャル・ビークル・オペレーションズ)施設には、4,100万ポンドのうちの2,600万ポンドを投資し、2025年中に既存の塗装ブースをすべて最新鋭の効率的な塗装ブースに置き換える。

 

新しい塗装ブースは、最新のエネルギー効率の高い技術と濾過技術を採用しており、エネルギーと水の使用量を大幅に削減できる。また、完全自動のスプレーロボットを使用することで、手作業による塗装に比べて塗料の無駄を30%削減し、環境への影響を低減すると共に、比類のない一貫性と精度を兼ね備えた高品質な仕上げも実現する。

 

結果、今回の拡張策を実施・拡大させていくことにより、SV ビスポークカラーのマッチングサービスを利用するお客様の需要の高まりに応えていく。なお同サービスでは、「RANGE ROVER SV」を希望する色に塗装することができるため、究極のパーソナライゼーションが実現できるようになる。

 

例えば、プライベートジェットやヨットの色と合わせることもできる。但しSVビスポークカラーには、「RANGE ROVER SV」の平均車両本体価格20万2000ポンドに加えて、平均7万ポンドの追加費用が発生する。

 

一方、DEFENDERとDISCOVERYを製造しているスロバキア・ニトラでは、1000万ポンドを投じた新しいユニバーサル塗装ラインの建設を今年開始し、オール電動の塗装ブースと新しい電動オーブンが追加になる予定。

 

この電動オーブンへの投資によりJLRは、年間約500トンのCO2eを削減することが可能になり、施設の電力供給をガスからより低炭素で再生可能なエネルギー源へと移行するという、長期的な目標に向けた最初のステップを踏むことになる。

 

 

こうした最先端のユニバーサル塗装ラインは、スロバキアとJLRにとって初めての導入となった。無限のカラーバリエーションを提供することで完全なビスポークプレミアムパレットの塗装仕上げを実現し、車両のパーソナライゼーションに対する需要の高まりに対応。これにより、この地域では新たに120名の雇用が生まれ、2026年には最初の車両が新しいラインから出荷される予定となっている。

 

また、既存の業務を最適化するために、新しいスマート・オーブンコントロール・システムも導入した。このシステムは、非アクティブな状態を検知すると自動的にシャットダウンする。

 

加えて塗装工場の煙道ガスから熱を回収し、冷暖房用の水に利用する新しい熱交換器を導入することでシステムの効率が向上し、年間約2,250トンのCO2eが削減される。これは、2,200バレルの石油の使用量に相当するもので、この熱交換器により、JLRは年間約75万ポンドのコスト削減も実現する。

 

こうした取り組みと、その成果を踏まえてJLRでチーフ・サステナビリティ・オフィサーを務めるアンドレア・デベイン氏は、「JLRでは、車両のカスタマイズを希望するお客様が大幅に増加しています。そのため、施設を拡張し、ブランド全体で数千種類もの塗装オプションを提供できるよう取り組んでいますが、可能な限り最もサステナブルで効率の良い方法でそれを実施したいと考えています。

 

塗装工場はエネルギーを大量に消費するものであり、当社の事業活動による排出量の約80%を占めているため、最も改善の余地がある分野であると言えます。当社には長い歴史があり、施設によって課題が異なります。新しい施設もあれば、かなり古い施設もあります。そのため、できるかぎり最適化すると同時に長期的な投資も行い、10年後、15年後、20年後にネットゼロの目標を達成できるよう努めています」と説明した。

 

 

加えてスペシャル・ビークル・オペレーションズ(SVO)担当ディレクターのジャマル・ハミディ氏は、「SVOは、比類なきパフォーマンス、ラグジュアリー、走破能力をお客様に提供することに全力を注いでいます。 そのなかには、エクスクルーシブかつ高品質なカラー仕上げも含まれています。

 

RANGE ROVERのお客様は、よりラグジュアリーなビスポークカラーやプレミアムパレットで車両をカスタマイズされる傾向が強まっています。 生産能力を増強することで、RANGE ROVERのお客様からの需要増加に対応できるだけでなく、他のブランドのお客様にもこのサービスを拡大することができます。

 

最高品質と耐久性を実現するには、複雑でエネルギーを大量に消費する加熱・乾燥プロセスが必要です。そのため、塗装工場は自動車製造における排出ガスの最大の発生源となっており、世界的に見ると、事業活動による排出量の約80%を占めています」と結んでいる。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。