全固体電池パイロットライン 建屋外観
本田技研工業(ホンダ)は11月21日、量産化に向けて独自に研究開発を進めている全固体電池のパイロットラインを、栃木県さくら市の本田技術研究所(栃木Sakura)の敷地内に建設した。
今後、このパイロットラインで量産プロセスの確立に向けた技術検証を行いながら、並行してバッテリーセルの基本仕様を決定し、2020年代後半に投入する電動モデルへの搭載を目指すとしている。
正極塗工設備
パイロットラインの延床面積は約27,400㎡で、電極材の秤量・混練から、塗工、ロールプレス、セルの組み立て、化成、モジュールの組み立てまでの各工程の検証が可能な設備を備えている。
2024年春に建屋を竣工し、現時点で検証に必要な主要設備の搬入をほぼ完了させている。このパイロットラインは、2025年1月の稼働開始を予定しており、バッテリーセルの仕様開発と並行しながら、各工程の量産技術や量産コストなどの検証を行う。
同社は、従来の液体リチウムイオン電池の製造プロセスをベースにしながら、全固体電池特有の工程となる固体電解質層の緻密化に寄与し連続加工が可能なロールプレス方式を採用。
正極塗工乾燥炉設備
これにより電極界面との密着性を高めると共に生産性の向上を目指している。また正極と負極の一体化を含む一連の組み立てプロセスを集約させて高速化することによって、1セルあたりの製造時間の大幅な短縮を視野に据えている。
加えて作業の安全性や電池性能の確保に必要な低露点環境を最小化する生産管理技術を構築するなど、使用電力をはじめとした間接コスト低減にも取り組む構え。なお同パイロットラインは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)グリーンイノベーション基金による助成事業の成果を一部活用して設けられた。
正極真空乾燥炉
ホンダでは、「こうした高効率な生産プロセスによってコスト競争力を高めるとともに、四輪車に限らず二輪車や航空機などHondaならではのさまざまなモビリティに適用を広げることで、スケールメリットを生かしたさらなるコストの低減を目指します。
これにより、全固体電池の革新技術がもたらす新たな価値をより多くのお客様にお届けし、移動の喜びを広げていきます。
ロールtoロール設備全体
もとより当社には、太陽電池や燃料電池など、新たな技術を量産につなげてきた豊富なものづくりの知見と実績があります。全固体電池においても2020年代後半の量産開始を目指して、材料仕様と製法の両軸からスピーディーな研究開発に取り組んでいます。
電池の材料や仕様の決定以前の段階から生産技術部門が開発に参画し、車両搭載に適した構造や材料、製造方法などを定めることで、早期にパイロットラインの立ち上げを実現できたほか、材料の選定などを効率的に進めています。
ロールプレス工程
当社は、2050年までに全ての製品と企業活動を通じてカーボンニュートラルの実現を目指しており、2040年までにEV・FCEVの販売比率をグローバルで100%にする目標を掲げています。
全固体電池は、エネルギー密度が高く高温に強いという特長を持っており、EVの航続距離や価格、充電時間などの課題を解決する次世代の電池として期待されています。
ホンダは、独自の材料設計による高いエネルギー密度と耐久性に加え、耐熱性の高さを生かした冷却構造の簡素化や高効率な生産プロセスによる低コスト化を実現することで、EVの大幅な性能進化と新たな価値創造を目指していきます」とパイロットラインについて説明している。
全固体電池セル(サンプル)
更に本田技術研究所で代表取締役社長を務める大津 啓司氏は、「全固体電池は、EV時代におけるゲームチェンジャーとなる革新的な技術です。これまでクルマの進化を支えてきたエンジンに代わり、電動化のキーファクターとなるのがバッテリーであり、その進化こそがHondaの変革のドライバーになると考えています。
全固体電池パイロットラインの稼働にめどがついたことは、日本およびHondaにとって重要なマイルストーンであると言えます。Hondaは、全固体電池を搭載したモビリティを早期に世に出し新たな価値をお客様に提供するべく、引き続きチャレンジを続けていきます」と述べている。
全固体電池パイロットライン概要
所在地:栃木県さくら市下河戸1220-32
敷地面積:約12,900平方メートル
延床面積:約27,400平方メートル
投資額:約430億円