企業体質の改善、新たな執行体制などを3カ月かけてまとめ再発防止策を実行へ
日野自動車は8月2日、記者会見を開き、エンジン認証申請に係る新たな不正が見つかったことを公表した。外部有識者による特別調査委員会がまとめた報告書で、不正は2003年までさかのぼり、不正機種は26機種に拡大することが分かった。(佃モビリティ総研・松下次男)
こうした不正発覚に対し、小木曽聡社長は「すべてのステークホルダーにご迷惑をおかけしたことをお詫びします」と述べた上で、品質マネジメント構築体制、企業風土の改善、新たな執行体制などの再発防止策を3カ月間でまとめ、実行すると表明した。
記者会見は2部構成で実施。第1部に特別調査委員会による調査報告を行ったあと、小木曾社長が再発防止策について会見した。
特別調査委員会の榊原一夫委員長(弁護士、元大阪高検検事長)は、不正行為について大きく分けて「3点ある」と話した。
一つは、排出ガスに関する不正行為、次いで燃費に関する不正行為。これに加えて、2016年5月国交省から認証取得時の排出ガス・燃費試験における不適切な事案の有無について報告を求められた件、いわゆる「2016年問題」で不正だ。
排出ガスの不正行為は、オンロードエンジンのE6規制(2003年適用開始、新短期規制)の劣化耐久試験などで確認。不正は、測定点とは異なる時点で社移出ガスの測定を行う、測定結果を書き換える、後処理装置の一部である第2マフラーを交換したことが分かった。
建設産業用機械向けのオフロードエンジンついても3・5次規制(2011年適用開始)の劣化耐久試験から不正が行われるようになったとした。
燃費に関する不正については、オフロードエンジンでは不正行為が確認されず、オンロードのみ確認。不正は、2006年4月に、パワートレーン実験部の担当者らが、燃費流量校正値を燃費に有利になる操作などを行った。
この燃費については、2006年度から目標を達成した車両について自動車取得税の軽減措置が講じられるようになっていた。
2016年問題は、三菱自動車の燃費データ偽装問題に端を発し、同様の不正が他の自動車メーカーへも広がった問題で、国交省から一斉に不適切な事案がないかの報告が求められていた。
これに対し、特別調査委員会の報告では、E8(ポスト新長期規制)規制対応時の認証試験のデータの一部の存在が確認できなかったことやデータから得られる結果と認証申請値が齟齬するなどしていたため、パワートレーン実験部の担当者が認証試験値に合わせて試験データを作出したり、データを書き換えるなどしていたことが明らかにされた。
排出ガス、燃費関連などの対象車両台数は最大56万7000台に上る可能性
こうした不正が続いていたことに対し、榊原委員長は「みんなでクルマをつくっていない」「世の中の変化に取り残されている」「業務をマネジメントする仕組みが軽視されていた」ことが問題の真因と指摘した。
実際に、聞き取りやアンケート調査から「セクショナリズムが強く、組織が縦割りで、部分最適の発想に囚われて全体最適を追求できていない」「能力やリソースに関し、現場と経営陣の認識に断絶がある」「上位下達の気風が強すぎ、“上に物が言えない”“できないことをできないと言えない”という風通しの悪い組織となっていた」などと述べた。
認証不正問題は米国で排出ガス認証に関する問題が生じたことで、日本でも同様の問題がないかの総点検の実施したことから拡大したものだ。
最初は、2016年秋以降のエンジン4機種に不正があったことを確認し、これを2022年3月国交省に報告するとともに、再発防止などについて外部の有識者に調査を委嘱した。
そこで不正が20年以上に渡って続いていたことが明らかになり、組織風土、マネジメント面などについても瑕疵や不備が認められると指摘された。
今回、明らかになった不正行為に対して役員を含めた上層部が認識していたかどうかについて榊原委員長は「認識していたという証拠は得られなかった」と直接の関与を否定したものの、「上にものが言えなかったなど、経営体質、組織の風土を放置してきた責任は重い」と厳しい言葉を投げかけた。
後半の社長会見で、問題があったエンジンを搭載する車両の総数は3月公表の約11万5500台から最大で約56万7000台に増えたことを明らかにした。この結果、業績への影響もさらに大きくなるものとみられる。
小木曾社長はこうした不正行為が続いていたことに対し、業務マネジメントの意識や仕組み、人材育成などが不十分だったことを掲げ、「今後、このような問題を二度と繰り返さない良い再発防止を徹底することが重要」と話した。
このため、「風土改革に終わりはない」としながらも、今回発覚した不正行為を止血するチェック体制、組織づくりを早急に行う必要があるとして、3カ月をめどに対応策をまとめ、実行する方針を示した。
責任問題については「まず次に向かう執行体制をつくることが大切。そのあとで、私自身を含めて、責任を明確にしたい」と述べた。