日立製作所が4月28日、2022年3月期連結決算と2025年3月期を最終年度とする中期経営計画を発表した。前期の業績は増収増益で、当期利益は過去最高だった。中期経営計画では3年間の研究開発費を1兆1000億円と、前の3年の中期計画から2000億円増額。電力の送配電や電気自動車など環境分野で5000億円超をつぎ込む。また、日立物流の売却も発表し、日立グループの構造改革も一段落した。(経済ジャーナリスト・山田清志)
期待のルマーダ事業が堅調に推移
「半導体不足、部材価格高騰、COVIT-19再拡大など厳しい事業環境の中、2021年度は連結合計で過去最高の当期利益を達成できた。2021年中期経営計画期間において、コスト構造の見直し、収益力強化、事業ポートフォリオ改革を実行し、安定した経営基盤を構築できた」
執行役副社長の河村芳彦CFOはまず2021年度をこう総括し、日立エナジーや日立ハイテクを中心に受注が好調で、Lumada(ルマーダ)事業や買収したグローバルロジックも堅調に推移したことを強調した。
その結果、2021年度の業績は売上高に当たる売上収益が前年度比17.6%増の10兆2646億円、調整後営業利益が同49.1%増の7382億円、当期利益が同29.4%増の6708億円だった。
詳しくセグメント別に見ると、ITは売上収益が前年度比5%増の2兆1536億円、調整後営業利益が13億円減の2681億円だった。セグメント全体では、ルマーダ事業やグローバルロジックが増収だったが、半導体不足の影響やグローバルロジック買収に伴う無形資産等の償却費、統合に向けた一時的費用などの関連費用により減益となった。
エネルギーは売上収益が31%増の1兆4479億円、調整後営業利益が658億円増加し181億円の黒字に転換した。原子力BU(ビジネスユニット)は作業高減少により減収だったが、エネルギーBUにおける一部案件の対策強化の終了に加え、原価低減や固定費圧縮等により大幅な増益となった。
インダストリーは売上収益が9%増の9007億円、調整後営業利益が367億円増の822億円だった。産業・流通BUは市場回復に伴う売上増加に加え、固定費削減により増収増益。水・環境BUとインダストリアルプロダクツ事業も同様の理由で増収増益となった。
2022年度は実質増収増益の見込み
モビリティは売上収益が19%増の1兆4257億円、調整後営業利益が126億円増の874億円だった。ビルシステムBUは部材価格高騰の影響が発生したが、中国事業の拡大や為替影響などにより増収増益。鉄道システムBUはCOVIT-19の影響が発生するも、作業高増加および為替影響により増収増益を達成した。
ライフは売上収益が18%減の1兆294億円、調整後営業利益が1億円減の792億円だった。減収の理由は画像診断関連事業の売却によるところが大きかった。そのうえ、生活・エコシステム事業もルマーダ事業が拡大したものの、海外家電事業の売却影響で減収、調整後営業利益も減少してしまった。
自動車関連子会社の日立アステモは、売上収益が62%増の1兆5977億円、調整後営業利益が240億円増の587億円だった。半導体不足の影響による自動車メーカーの減産、部材価格の高騰、ロックダウン影響により部品供給減少などの影響があったが、ホンダ系部品会社3社との統合影響により増収増益となった。
2022年度の通期業績見通しは、売上収益が前年度比7.4%減の9兆5000億円、調整後営業利益が同5.2減の7000億円、当期利益が同2.8%増の6000億円を見込む。そして、今年度から新たな経営指標としてAdjusted EBITA(調整後営業利益-買収に伴う無形資産などの償却費+持分法損益)を導入、合わせて事業を5セクターから3セクターに変更した。
日立の事業はこれまでIT、エネルギー、インダストリー、モビリティ、ライフの5セクターに分かれていたが、それをIT中心の「デジタルシステム&サービス」、エネルギーとモビリティの鉄道BUからなる「グリーンエナジー&モビリティ」、インダストリーとライフにモビリティのビルシステムBUを統合した「コネクティブインダストリーズ」の3セクターにしたのだ。
「上場後会社の再編により連結合計では減収になるが、3セクターと日立アステモの合計は5%増収の見通しで、Adjusted EBITAについても連結合計では353億円減益の見通しだが、3セクターと日立アステモの合計は514億円増益の見通しだ」と河村CFOは強調した。
大きな構造改革は終わるも改革の手は緩めない
その決算説明のあと、小島啓二社長が「2024中期経営計画」について説明。これまで保有していた日立物流の株式を売却し、持分法対象から外すことを明らかにし、「これまでの中計で社会イノベーション事業に適した事業構造をつくる中で、日立物流株式の売却により、過去10年の構造改革は一区切りがついた。これを受けて、2024中計のテーマは成長へのモードシフトになる」と話す。
日立は2008年度にリーマンショックの影響で、業界で過去最大となった7873億円の最終赤字を計上した。その責任を取って当時の社長である古川一夫氏が辞任した。その古川氏は2006年の社長就任以降、赤字に陥っていたハードドライブ、薄型テレビ、液晶などの事業に取り組んだ。しかし、情報通信出身という傍流の古川氏では、なかなかセクショナリズムの強かった日立の構造改革を進めることができなかった。特に、本流の重電部門が大きな壁となったという。
「会社がピンチの時になぜ一丸となって構造改革に取り組もうとしないのか。危機意識の薄い人が多すぎる」と古川氏は親しい人にこぼしていたそうだ。それが7873億円の最終赤字によって、「このままでは会社が危ない」と社内の雰囲気が大きく変わり、構造改革をしやすくなった。
そして、川村隆氏、中西宏明氏、東原敏明氏と歴代3社長のもとで、ITを軸とした事業の入れ替えを進めていき、日立化成や日立金属といった「御三家」と呼ばれた上場子会社の株式売却を決定。最後に日立物流の株式を米投資ファンドのKKRに売却することになったのだ。
「Adjusted EBITA率で10%に届かないと判断した場合には事業を入れ替える、大きな構造改革は終わったが、改革の手は緩めない」と小島社長。中期経営計画の最終年度には、売上収益が21年度に比べて1.7兆円増の10兆円、Adjusted EBITAが5000億円増の1兆2000億円を見込む。
デジタル人材を3万1000人増やす
その達成に向け、小島社長が中核になると位置づけているのがデジタルソリューションビジネスであるルマーダ事業だ。2021年度時点で、ルマーダ事業の売上収益は1兆4000億円、Adjusted EBITAが2000億円だが、それを24年度には売上収益が2兆7000億円、Adjusted EBITAが倍の4000億円を目指す。「ルマーダ事業で全社利益の3分の1を占めるようになる」と期待を寄せる。
また、3セクター別の目標については、デジタルシステム&サービスが売上収益で21年度の2兆2000億円から24年度に2兆6000億円の達成を目指す。このセクターは先進デジタル技術の供給源として、日立全社の成長を牽引する役割を果たす。特に21年7月に買収したグローバルロジックが、売上収益で21年の1280億円から24年度に2250億円、他事業とのシナジーやM&A分を含めると2820億円まで伸ばす計画だ。
グリーンエナジー&モビリティは世界的なカーボンニュートラル需要を取り込んで成長を果たす計画で、売上収益で21年度の2兆1000億円から24年度に2兆6000億円を目指す。うちスイスABBからパワーグリッド事業を買収した日立エナジーが9571億円から1兆1000億円まで伸ばす計画となっている。
コネクティブインダストリーズは、売上収益で21年度の2兆8000億円から24年度に3兆2000億円を目指す。特に期待しているのが北米事業で、JRオートメーションによるロボティクスSI事業の拡大やプロダクトのコネクテッド化、そしてリカーリング型事業の成長を見込んでいる。
研究開発投資についても、前の中期経営計画から2000億円増額の1兆1000億円を計画。グリーンエナジー&モビリティに2000億円、日立アステモに3000億円を投資するほか、人工光合成や量子コンピュータなど先端研究投資に1000億円を投じる。さらに別枠でM&Aなど成長投資に1兆6000億円を計画する。また、デジタル人材の募集を積極的に行い、3万1000人増やして24年度には9万8000人にする計画も明らかにした。日立は環境とデジタルを軸にした成長を目指すために大きく舵を切り始めた。