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2023年3月14日【企業・経営】

独ポルシェAG、IPOの成果と更なるブランド強化を語る

坂上 賢治

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ポルシェは記録的な業績を達成、Road to 20プログラムも始動

 

ポルシェAGは3月13日、オンライン環境を介したアニュアル・カンファレンスを開催。その際、公表された同社のアニュアル&サステナビリティレポートよると、同社は2022年度の会計を4つの新記録で締め括った。

 

まず同年のグループ売上高は376億ユーロ/13.6パーセント増( 2021年は331億ユーロ )に。

 

同営業利益は68億ユーロとなって、前年値を15億ユーロ上回った( 27.4パーセント増 )。また納入実績と自動車のネットキャッシュフローも過去最高値を記録。売上高利益率は16.0パーセントから18.0パーセントに上昇した。

 

加えて同社は、今年からモダン&ラグジュアリーの戦略を推し進めるべく、長期的にグループ営業利益率を20パーセント超以上としていく新事業指針「Road to 20( ロード トゥ20 )」の始動を掲げている。

 

 

素晴らしいチームワークによってポルシェ史上最高の業績を達成

 

同社執行委員会のオリバーブルーメ会長は、「ポルシェAGは〝ウクライナ戦争の影響〟〝コロナ禍によるパンデミックに係る課題〟〝世界的なサプライチェーンの混乱〟などの影響を受けつつも、過去からの歴史上で最も高い成績を達成した。

 

また併せて2022年に於いても、顧客へ向けてエキサイティングな新製品を提供する事が出来た。これらは素晴らしいチームパフォーマンスの結果であると誇らしく思っている」と語り、自社ステークホルダーへの感謝と労いの言葉を投げ掛けた。

 

実際、世界がサプライ チェーンの混乱に陥っているにも関わらず、ポルシェAGは既に充分以上の受注量を抱えており、そうした中で2022年は309,884台の新車を国際市場へ送り届けた。

 

ブルーメ会長は、「これは2021年の301,915台と比較して、およそ2.6パーセント増に値する。この結果、2022年度の純キャッシュフローは37億ユーロから39億ユーロに増加した」と昨年来から続く拡大傾向の背景を説明した。

 

 

自動車の総販売台数も、ネットキャッシュフローも過去最高を更新

 

このような拡大傾向を受けて登壇した財務・IT担当理事会メンバーのルッツ・メシュケ副会長は、「当社の成功要因は、価格ポジショニングの改善、強力な製品構成、車両販売の増加、為替レートの影響。及び厳格なコスト規律にある。

 

しかしこの成績は、今年から始動するRoad to 20によって、より一段と高い段階へと引き上がる事になる」と述べた。

「そのためにも製品の範囲、価格設定からコスト構造に至るまで、全てを新たに見直す。具体的には製品の貢献利益の質を高め、魅力的なものづくりを達成させたい」と語った。

 

加えてメシュケ副会長は、「昨年9月29日に我々は、ヨーロッパ最大のIPO( 時価総額 )を達成し、ポルシェに新時代が到来した事を伝える事が出来た。

 

このIPOの成功以来、ポルシェの株価はプラスに推移。株式市場に参入してからわずか81日後にはドイツ国内のDAX株式市場指数に組み込まれた。

 

株価の推移は、オファー価格の82.50ユーロから114ユーロに上昇した ( 2023年2月28日現在 ) 。これは1,080億ユーロの時価総額に相当する。

 

 

理事会は、優先株式1株あたり1.01ユーロの配当を提案

 

資本市場は、パフォーマンス重視の独立した高級ブランドとしての当社の地位を認めている。同時にフォルクスワーゲングループとの相乗効果を選択的に活用する事もでき、これらが株主に利益をもたらす事になる。

 

2022年度の普通株あたりの利益は5.43ユーロ、優先株あたりの利益は5.44 ユーロ。2022会計年度について理事会は、年次総会に9億1,100万ユーロの配当支払いを提案している。

 

これに優先株に対する500万ユーロの追加配当を加えると、総額は9億1,600万ユーロになる。これは普通株1株あたり1.00ユーロ、優先株1株あたり1.01ユーロに相当する。

 

なお今後の中長期的な目標に関して、経済的に困難な状況がより大幅に悪化しない限り、2023会計年度のグループの売上高利益率は17 ~19パーセントになる。

 

これは約400億から420億ユーロの範囲のグループ売上高に基づいたもの。また長期的には、先の通りで20パーセント以上のグループ営業利益率を目指している」と畳み掛けた。

 

 

オールエレクトリック・カイエンを筆頭に野心的な電動化戦略

 

こうした数値上の成績説明を引き継いだオリバーブルーメ会長は、自社ブランドの普遍性と価値に触れ、「ポルシェは世界で最も価値のある高級ブランドだ。そこで我々はモダンラグジュアリー戦略に焦点を当て、Sonderwunschプログラムの拡大を目指す。

 

それはスポーツカーの新しい製品ポートフォリオを拡大を意味するもので、既存のプロダクトに加えて限定版製品づくりにも注力。これまで以上に顧客の要望やライフスタイルに応える特別仕様車の提供に腐心し、当社ブランドへの期待を何度も上回りたいと考えている。

 

併せて野心的な電動化戦略についても引き続き注力していく。その第一弾となる完全電動のマカンは2024年に発売する予定だ。

 

完全電動の718は2020年代半ばに予定。それに続くのはオールエレクトリックのカイエンとなる。第4世代のSUVは2030年までに新車の80パーセント以上を完全電動車にするというポルシェの目標を明確に示したものだ。

 

製品ポートフォリオを、より上方に拡大する計画も示唆

 

加えてカイエンの上に位置するオールエレクトリックSUVも投入して、製品ポートフォリオを、より上方に拡大する事も計画している。

 

この新しい車両は、車内での全く新しい体験の提供と共に強力なパフォーマンスと、最先端の自動運転機能が提供出来るように設計される。

 

これによりスポーティかつラグジュアリーなポルシェのポジショニングを強化。特に中国と米国での市場拡大を視野に据えている」と中期的目標の一端を披露した。

 

一方、より短期的な戦略についてブルーメ会長は、「2023年中にカイエンは包括的なアップグレードを受ける事になる。

 

この第3世代のアップデートには、航続距離の拡大を視野に3つのプラグインハイブリッドが含まれる。いずれも新しいシャーシを導入し、オンロード性能のみならず、オフロード性能も高めていく。

 

またポルシェは2022年にチリのパートナーと共に立ちあげたe-fuelsパイロットプランを経てバイオ燃料が大量生産出来る可能性も実証した」と、未来に向けた動力エネルギーの多様化についての可能性についても触れた。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。