不正行為は生産終了のものを含め64車種・3エンジン、174件に
ダイハツ工業は12月20日、車両認証試験に関する新たな不正が行われていたとの第三者委員会の調査報告を受け、全車両の出荷を一旦停止すると発表した。不正行為はすでに生産終了したものを含め64車種・3エンジン、174件にのぼり、一部車種では安全性能が法規に適合していない可能性も判明した。
貝阿彌誠弁護士を委員長にした第三者委員会は4月28日の側面衝突試験の不正行為公表を機に、ダイハツが5月15日に設置していたもの。この委員会による調査報告がまとまり、同日内容を公表するとともに、記者会見を開いた。
これに続き、ダイハツと親会社のトヨタ自動車が今後の対応などについて共同記者会見を行った。
調査報告によると、不正行為は4月のドアトリム不正(海外市場向け4車種)、5月のポール側面衝突試験不正から大幅に増え、新たに25の試験項目、174件(不正加工・調整類型28件、虚偽記載類型143件、元データ不正操作類型3件)の不正行為がわかった。
また、こうした検証を行う中、キャスト/ビクシスジョイの側面衝突試験で「乗員救出性に関する安全性能(ドアロック解除)」が法規に適合していない可能性も判明した。
総じて実務や現場に精通しておらず「現地現物」の発想が欠けていた
対象車種はダイハツブランドに加え、トヨタ、マツダ、スバルへのOEM(相手先分ラドによる生産)供給車両も含まれており、生産・開発中の車種は国内28車種・3エンジン、海外16車種にのぼる。生産終了車種は20車種・3エンジン。不正行為は1989年から認められ、全体として2014年以降から増加傾向という。
新たに見つかった不正行為の一部は、衝突時のエアバッグの作動試験をECUで作動(自動着火)させずに、タイマーで着火させたケースや歩行者頭部及び脚部保護試験で衝突速度が法規の基準を超えていた試験速度の改ざん。タイヤ空気圧の虚偽記載、助手席加速度データの差し替えなどだ。
第三者委員会はこうした問題が発生した原因について「過度にタイトで硬直的な開発スケジュールによる極度のプレッシャー」「現場任せで管理職が関与しない態勢」「ブラックボックス化した職場環境」「法規の不十分な理解」「コンプライアンス意識の希薄化」などと分析。
不正事案の多くは基準値不適合を適合させようとしたものでなく、適合いかんに関わらず「早く試験を通過させる」「不合格は許されない」ことに主眼が置かれ、業務を行った結果との見方を示した。
貝阿彌委員長はこうした事態に陥った要因について記者会見で「不正対応の措置を講ずることなく短期開発を推進した経営の問題」や企業風土を指摘した。管理職も実務や現場に精通しておらず「現地現物」の発想が欠けていたと話す。
奥平総一郎社長は「すべては経営陣に責任がある」と謝罪
これを踏まえ、「経営幹部から従業員に対する反省と出直しの決意表明」や「硬直的な“短期開発”の開発・認証プロセス見直しなどの再発防止を求めた。
これに続いて行われたダイハツとトヨタの共同記者会見では、まずダイハツの奥平総一郎社長が「すべては経営陣に責任がある」と謝罪したうえで、再発防止に向け企業風土、組織改革に取り組む考えを示した。
経営刷新については、「まず再発防止の方向性を示す」ことが現経営陣の役割として明言を避けた。
トヨタの中嶋祐樹副社長も「実態を見抜けなかった」と反省するとともに、トヨタグループで相次ぐ不正事案に改めて「コンプライアンスを徹底したい」と述べた。
トヨタ中嶋副社長は共同開発中も軽商用BEV発売への影響を示唆
不正事案と実際に法規に適合しているかどうかの判断については、ドアロック解除を除き「安全に乗り続けられることを最重点に再チェックし、社内検査ではあるが乗り続けて問題のある事象はなかった」と述べ、市販済み車両についても継続使用に問題はないとの見方を奥平社長は示した。
中嶋副社長もトヨタでも別途、独自に検査し「問題は見つからなかった」とした。ドアロック解除案件については改めて検査を行うとともに、国土交通省の判断などを踏まえて対応を検討する方針。
出荷再開の時期や業績への影響は現状、「全く不透明」と述べた。海外向け車両についても出荷を止めており、再開は各国で法規基準が異なることから「当局と相談しながら、個々に検討をすすめていくことになる」との見方を示した。
トヨタの小型車事業や共同開発車の影響については「まずは安心安全にクルマにお乗りいただくよう再発防止に全力で取り組む」ことが先決としながらも、中嶋副社長はトヨタ、スズキ、ダイハツの3社で共同開発する軽商用BEV(バッテリー電気自動車)発売の「日程に影響はでるだろう」との可能性を示唆した。同BEVは今年度中の発売を計画していた。