ソニーグループは5月18日、2023年度の経営方針説明会を開催した。その中で、十時裕樹社長兼CFOは完全子会社のソニーフィナンシャルグループを上場させて、独自での資金調達で成長を目指すことを明らかにした。一方、ゲームや音楽などのエンタメ事業や、CMOSセンサーの半導体事業は足元のリスクマネジメントに重点を置いた事業運営を進めていくという。(経済ジャーナリスト・山田清志)
エンタメ事業が売上、利益の50%超を占める
「ソニーの事業は音を起源として広がってきた。テープレコーダーやトランジスタラジオ、ウィークマンなどの音の製品からエレクトロニクス事業を広げてきた。エンタテインメントの起源も音で、1968年のCBSソニーレコードの発足が起源だった。
そして、1989年のコロンビアピクチャーズの買収を契機に映像に広がり、1994年のプレイステーションの発売でゲームに広がった。20世紀に仕込まれたこれら3つのエンタテインメント事業は、2012年度以降成長が加速し、昨年度では売上高、営業利益ともにグループ連結の50%を超えている」
吉田憲一郎会長兼CEOは経営方針説明会の冒頭、ソニーのこれまでの歩みを振り返り、「感動」をキーワードに、グループアーキテクチャーの再編とクリエイティブの強化、感動空間の拡張に取り組んできたことを強調した。
例えば、CMOSイメージセンサーは「感動を生み出すクリエイション半導体」と定義し、審判判定支援サービスで知られるホークアイも「スポーツの感動を生み出すエンタテインメントテクノロジーサービス」と位置づける。
昨年カタールで開催された「ワールドカップ2022」で「三苫の1mm」が話題になったが、「それを捉えたのがソニーのフルサイズミラーレス一眼カメラ『α1』で、一瞬を切り取るという大きな目標を持って開発したイメージセンサーがまさに勝敗を分けた瞬間を撮ることに貢献した」と吉田会長。日本チームがスペインを破って1次リーグを突破できたのも、ソニーのおかげと言えるかもしれない。
さらに吉田会長は「感動の場を、現実空間から仮想空間、移動空間に広げるという長期視点でのチャレンジも行っている」と話し、「イメージング・センシング技術、エンタテインメント、5Gを含む通信・ネットワークといった領域でモビリティの進化に貢献していく」と強調した。ソニー・ホンダモビリティが2025年に受注開始予定の電気自動車「アフィーラ」には、これらの技術がふんだんに盛り込まれるそうだ。
PS5の普及拡大でアクティブユーザーの増加を
吉田会長の後に壇上に上がった十時裕樹社長兼CFOは、第4次中期経営計画の進捗、各事業の成長戦略などについて説明した。
「本中計のKPIである累計の調整後EBITDAは、音楽・映画分野を中心に当初計画を大幅に上回って進捗しており、現時点では、目標である4.3兆円に対し16%増となる5兆円を見込んでいる」と十時社長は話し、各事業の成長戦略を丁寧に説明し始めた。
ゲーム&ネットワークビジネス(G&NS)分野では、アクティブユーザーを増加させることを戦略の中核に位置づけ、プレイステーション5(PS5)の普及拡大やファーストパーティ・ゲームポートフォリオの強化と拡充に力を入れる。
PS5は、2022年度第4四半期の販売台数が630万台となり、引き続きフルキャパシティでの生産を継続していく計画だ。「今後は、パブリッシャーやデベロッパーの皆さまとの連携を通して、コンテンツパイプラインの拡充と、より革新的で魅力的なゲーム体験の訴求を強化することで、PS5のインストールベースを拡大し、アクティブユーザーを増やしていく」という。
音楽分野では、ストリーミングおよびエマージング・メディアの市場の伸びを上回る成長を目指し、4つの戦略を進める。1つ目はソニー・ミュージックが所有するレーベルや所属アーティストの新曲を訴求し、シェアを伸ばすこと。2つ目は子会社のオーチャードを核にデストリビューション・レーベルへのサービスを拡大していくこと。
3つ目は21年に買収したAWALなどを通じてエマージング・アーチストとの接点を早期に確保すること。4つ目は地元アーティストの発掘を含めてエマージング市場を開拓すること、である。
「音楽はどのようなエンタテインメント・メディアでも必要とされている。ソーシャルメディアやゲーム内ライブコンサートはその最たる例で、新しいメディアにおける音楽利用も、音楽業界の収益化を図り、アーティストに還元し、ソニーの成長につなげていきたい」と十時社長。
映画分野では、長期的なIP価値の最大化を戦略の中心に置く。ストラテジックサプライヤーとして、独自の配信プラットフォームを持つことで発生する投資負担を抑え、その分をクリエイティブ領域に投資し、作品の質の向上につなげるという現在の方針を継続。その魅力を一番理解してくれる配信プラットフォームに提供することで、長期的なIP先の最大化を目指していく。
また、劇場公開も重視していくとしており、「劇場公開が生み出す文化的なインパクトは、長期的な収益の向上だけでなく、クリエイターにとっても重要だと考えている。足元では、独自の配信プラットフォームを有するプレイヤーも劇場公開の価値を再認識しているように見受けられ、劇場に映画ファンが戻っている」という。
車載・インフラ領域のセンサーも事業の柱に育成
エンターテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野では、法人から個人まで幅広いクリエイター向けに、テクノロジーを駆使してソリューションとサービスを着実に拡大していくことを目指す。
フォトグラファーや放送業者に対しては、「α」シリーズを通じて獲得したテクノロジーに対する信頼を起点として、クラウド上での効率的な映像製作や、低遅延高画質伝送、ライブAR映像製作支援などサービス領域での事業拡大を進めていく。
また、映像制作者に対しては、「VENICE」などの映像製作用カメラとバーチャルプロダクションといった新しいクリエイションテクノロジーをハードとサービスの両面から進化させ、時間と空間の制約から解放していくという。
イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)分野では、イメージセンサーNo.1ポジションをさらに強化していくことが基本方針で、大黒柱のスマートフォン用CMOSイメージセンサーに加えて、車載・インフラ領域のセンサーも事業の柱に育てていく。
「スマートフォンでは、カメラの差異化要素としてイメージセンサーへの期待は非常に高く、要求される技術水準も年々高まっている。画素の進化、ロジックチップ貼り合わせによる高機能化、さらにカッパーカッパー接続による高精度かつ安定した品質で応えていく。業界をリードする技術力と生産能力をさらに磨き上げ、圧倒的No.1としてさらなる成長につなげていく」と十時社長は力強く話す。
また、市場の拡大が今後見込まれる車載領域では、CMOSイメージセンサーやLiDAR向けSPAD距離センサーなどでモビリティの安全に貢献していく。さらに産業・社会インフラ領域で、ユニークかつ多彩なセンサー群によって、検査や認識のユースケースを広げ、自動化、省人化など社会のスマート化に貢献して、事業企画を拡大していく。
2~3年後をメドに金融事業をスピンオフ
金融分野では、成長のポイントとして「ブランディングの再強化」と「グループインフラの活用と成長投資」の2つをあげた。そして、それを推し進めるために、今回の説明会で、ソニーファイナンシャルグループの株式上場を前提にしたパーシャル・スピンオフの検討を開始することを発表した。
実行時期などについては今のところ未定だが、2~3年後のスピンオフの実行に向けて、23年度中に詳細の検討を進めるそうだ。スピンオフ後もソニーグループが20%未満の株式を保有し、金融各社の社名、ブランドなどソニーの名前を残し、ソニーグループ各社とのシナジー創出を継続できるようにする方針だ。質疑応答では、この件に関しての質問が集中した。
「金融事業の顧客基盤の拡大には、ソニーグループ各社とのデータ連携など、DXインフラを効果的に活用するとともに、ITシステム投資なども必要になる。また、金融事業には、財務の健全性が強く求められており、多くの資本を必要とする。
ソニーグループ全体のキャピタルアロケーションの観点からいうと、エンタテインメント事業やイメージセンサー事業などへの投資との両立は容易ではない。こうした課題に対処し、金融事業のさらなる成長を実現するために、新たに認められたパーシャル・スピンオフを活用することにした。
金融事業を上場させ、独自に資金調達能力を備え、中長期での成長につなげることができると考えている」と十時社長は説明する。
金融事業は創業者の一人、盛田昭夫氏が米国で思い立って1979年に参入した生命保険が起点。その後、損害保険や銀行なども手がけるようになった。
しかし、累積損失の解消までに20年かかるなど苦戦。ただその後はグループの安定した収益基盤となり、2008年のリーマン・ショック後のエレクトロニクス低迷期には会社を支えた。
ソニーはこれまで何度かピンチに陥ったものの、業態をうまく変えながら成長を続けてきた。今回、金融事業を分離することを発表したが、それも今後ソニーグループが大きく発展するために必要なことなのかもしれない。