共同タスクチームで固体電解質の開発・量産化、サプライチェーン構築へ
トヨタ自動車と出光興産がバッテリー電気自動車(BEV)向け次世代電池「全固体電池」の量産化で協業することに合意した。これを踏まえ両社首脳は10月12日、東京都内で記者会見し、共同のタスクチームやパイロットプラント(量産実証装置)を立ち上げ、トヨタが2027―28年に市場投入する全固体電池搭載BEV車で商品化すると表明した。(佃モビリティ総研・松下次男)
両社の協業化はまず2020年代後半に商品化し、そのあと本格的な量産化を目指す。BEV用の有力な次世代電池である全固体電池をめぐっては複数メーカーが開発に乗り出しているが、まだ実用化域に達していないのが実態。
このため、両社はそれぞれの知見を合わせることで商品化を先行し、全固体電池のデファクトスタンダードを目指す方針だ。トヨタの佐藤恒治社長、出光の木藤俊一社長はこれにより「クルマ、エネルギーの未来を変えていく」と記者会見で強調した。
出光の硫化物固体電解質は柔軟性と密着性に優れ、量産しやすいのが特徴
出光は2001年から、トヨタは2006年から全固体電池の要素技術の研究・開発に取り組み、両社は約10年前から共同研究にも乗り出しているという。
出光は石油精製の副産物として硫化物を取り出し、新たなエネルギー用途開拓を目指す中で、EV用途が有望と開発研究を進めてきた。トヨタも全固体電池用に様々な固体電解質を研究する中で、硫化物固体電解質が現段階は最も有望と判断し、材料分野にまで踏み込んで開発を進めることにした。
こうした思惑が一致し、今回、硫化物系の固体電解質を採用した全体固体電池の量産化に向け、協業することに合意したものだ。
全固体電池は早くから有力な次世代電池として期待されていたが、最大の課題となっていたのが耐久性。「充放電を繰り返すと、正極・負極の固体電解質の亀裂が発生し、電池性能が劣化してしまうのが技術課題だった」(佐藤社長)と話す。
今回両社が共同で取り組む硫化物固体電解質は柔軟性と密着性に優れており、電池の量産化がしやすいというのが特性を持つ。
出光興産は年産数百トン規模のパイロットプラントを千葉で立ち上げ
協業はまず両社で数十人規模のタスクチームを立ち上げ、全固体電池の量産化に向けて固体電解質の量産技術や生産性向上、サプライチェーン構築などに共同で取り組む。
これを踏まえ、出光が固体電解質製造のパイロットプラントを立ち上げ、量産化を推進する。パイロットプラントは出光の主力事業所である「千葉事業所内が有力」(出光・中本肇専務執行役員)で、トヨタが市場投入する全固体電池搭載BEVに合わせ、2027年をめどに稼働させる計画だ。
パイロットプラントの規模は年産「数万トン規模」(中本専務執行役員)。全固体電池本体の組み立てはトヨタ本社工場内で行う。
こうした実績を経て、次のステップとして将来の本格量産と事業化に向けた検討を両社で実施する。本格的な量産化段階では、1ラインの固体電解質の規模は「数千トン、車両では数万台分になるだろう」(同)とみている。
液系電池でできなかったブレークスルーを全固体電池で実現したい
商品化段階のコストについては「全固体電池は高いというイメージがあるが、構造上は液系電池と変わりなく、同程度を目指す」と佐藤社長は披露した。
加えて、全固体電池は液系電池に比べエネルギー密度が高く、航続距離が延び、充電時間も大幅に短縮できる。トヨタの海田啓司CN先行開発センター長は2026年時点で「2割以上のエネルギー密度のアップを目指し、液系電池でできなかったブレークスルーを全固体電池で実現したい」と述べた。
さらに全固体電池はエネルギー密度がアップする分、「バッテリーの設計自由度が高まることで、車両の室内空間が拡大し、多様な選択が可能になる。さらに充放電特性のスピードが上がり、充電時間のニーズの高い商用車など、乗用のみならず用途が広がるだろう」(佐藤社長)というメリットも生まれるとの見方を示す。
こうした全固体電池に量産化に向け、佐藤、木藤の両社長が強調したのが「実現力」。両社の協業により「材料から一気通貫で実現できる」ことが可能になり、「実現力が何倍にもなる」とアピールした。