トヨタ自動車は4月28日、ダイハツ工業による側面衝突試験の認証申請に係る不正行為で、トヨタ自動車会長の豊田章男氏が同日夜半にコメントを発表した。( 坂上 賢治 )
同不正行為に該当する車種は( 2023年3月末時点 )、先に小誌上で掲載した当該不正申請の記事にある通り、2022年8月からタイで生産しているトヨタ「ヤリスエイティブ」が7万6289台( 仕向地 / タイ、UAE、サウジアラビア、オマーン、バーレーン、カタール、クウェート、メキシコなど )。
2023年2月からマレーシアで生産ているプロドゥア「アジア」が1万1834台( 仕向地 / マレーシア )。更に2023年6月からインドネシアで生産を開始する予定であったトヨタ「アギヤ( 仕向地 / エクアドル )」、加えて目下開発段階にある新型車種1車種が含まれる。
安全問題は、お客様の信頼を裏切る、絶対にあってはならない行為
こうした状況を踏まえ、トヨタ自動車の豊田章男会長は、「この度のダイハツ工業の不正は、クルマにとって最も大切な安全性に関わる問題であり、お客様の信頼を裏切る、絶対にあってはならない行為だと思っております。
ご迷惑、ご心配お掛けしている世界中のお客様、全ての関係の皆様に、心よりお詫び申し上げます。本当に申し訳ございませんでした。
本件はトヨタブランドの乗用車で発生した問題でもありますので、ダイハツ工業だけではなく、トヨタ自動車も含めた問題であると考えております。
これから詳細な調査を進めていくことになりますが、現場で何が起こっているのか、徹底的に事実を把握し、真因を究明し、再発防止に真摯に取り組んでいくことをお約束致します。
世界中のお客様に対してトヨタは〝逃げない、隠さない、嘘をつかない〟
そして、調査でわかった事実については、包み隠さず、タイムリーに世の中の皆様にお知らせしたいと思っております。
私自身、2009年に発生した大規模リコール問題の際に、世界中のお客様に対し、トヨタは〝逃げない、隠さない、嘘をつかない〟ということをお約束致しました。それにも関わらず、グループ会社で、こうした問題が発生したことを大変重く受け止めております。
今後、トヨタおよびグループ各社のクルマづくりのオペレーション上の問題については、執行トップである社長の佐藤が責任をもって改善に取り組み、ガバナンスやコンプライアンスに関する部分は、会長であり、リコール問題を経験した私自身が責任をもって取り組んでいきたいと思っております。
トヨタグループ一丸となって、一日も早く、お客様の信頼を取り戻せるよう全力で取り組んで参ります」と記している。
危害性を更に低めるべく量産車の設計で設けなかった措置を加えた
ちなみに今回の不正発覚の経緯は、2023年4月に内部通報で認知。これに係る担当部署・関連部首への調査、現物車両の調査、設計変更履歴、開発過程の試験結果などを経て不正行為を確認した。その不正は、認証対象となった車両の前席ドア内張りに不正な加工を行なったとしている。
当該不正に抵触するルールは、UNR95という国連法規に加え、中近東で制定されるGSO法規。いずれも側面衝突用の台車が車両側面に50km/hで衝突した際の乗員への危害性を確認する法規だ。
具体的には、乗員への危害性を更に低めるべく量産車設計では設けていなかった措置を追加で加えたもの。
より詳細には、滋賀県竜王町のテクニカルセンターで側面衝突試験を実施する際、先の内装のドアトリム部に切り込み加工を追加で入れて、あえてその弱い部分から潰れるよう衝撃の波及順序をコントロール。これにより、乗員に対する安全性を高めて一回の試験で合格させようとした。
これは車両側面に台車が衝突した際、ドアトリム部品が壊れて先端が鋭くなると乗員に与える被害の度合いが増すため、こうした「不安要因を予め解消させておくべく、乗員に当たらない部分が壊れて危害性を低めるよう配慮したのではないか( ダイハツ奥平総一郎社長 )」という。
問題なのは、認証をパスするためだけに試験車両に変更が行なわれたこと
ただ、ここで問題なのは、同変更が実際の生産・流通車両には反映されず、認証時の試験車両だけに施されたこと。つまり認証をパスするためだけに変更が行なわれたことにある。
つまり今事案で実際は、あえて前出の加工を施さなくても当該法規に対して充分に適合出来るだけの実力(車両性能)があるにも関わらず、不正が行われたのである。しかし、なぜこのようなことを行うことになってしまったのか。
これについてトヨタ自動車の佐藤恒治社長は、現段階では自身の憶測も含む内容であると前置きしつつ、「内装の内張へ意図的にスリットを入れるなどで弱体部を作って、安全性を高めることは日々開発の中で行っている。エンジニアがなぜそれをオープンに言えなかったのか。
これはNGをOKに書き換える以上に根が深く深刻だと考えている。また試験の結果や開発プロセスをみると、複数回の設計変更の上で認証取得のタイミングを迎えている。
従って本来であれば、正式な設計変更として申請すべきだった。この変更が必要だと主張できる環境であれば不正にはならなかった」という趣旨の内容を語っている。
大事なのは、内部の課題を自ら改善していける証を外に向かって示すこと
筆者は、両社間で自由闊達に主張出来る環境を備えることなく、言わば放置していたことが、今回の不正の核心であるように思える。例え、一発勝負の側面衝突試験に於いて一方的にダイハツの開発側が不安に思い、不正に手を染めたとしても、結局クルマづくりは2社による共同作業であったゆえに、その不安を払拭する環境作りは欠かせない。
翻ってみれば、大きな事故から小さな不具合に至るまで全く問題が起きない組織など、この世界には存在しない。それゆえ自らの瑕疵を組織自身が認めることを原動力に当該組織が社会から信頼を勝ち得ていく道を作っていくことが重要だ。
それには外からは見えない組織内の問題を、内部だけで改善していける力を持っていることを外に向かって示すことだ。
そうした意味でトヨタ自動車は、このような非常事態を解決出来るだけの充分な器があり、対するダイハツ工業も今後、内部調査委員会に加え、独立した第三者委員会を設置。不正解明や再発防止策の取りまとめに取り組むとしている。なお調査結果は、第三者委員会の報告を受けてから速やかに公開されるとしている。
最後に両社は、同不正発覚後に社内で追試験を行い、上記の様な切り欠きを施さなくとも、危害性並びに安全性上の問題がないことを確認済みであるため、改めて認定機関から再認証を得られるならば、量産商品としての車両に係る問題は解消されると述べている。
これを踏まえダイハツ工業では、審査機関・認証当局に報告した上でトヨタ自動車と協議。認可対象国への車両出荷を停止。今後、審査機関・認証当局の立ち合いで再試験が行えれば、出荷を再開出来る可能性があるとした。また現時点で当該車種の使用ユーザーが、使用の継続を躊躇う必要はないと答えている。