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2024年3月1日【事業資源】

ブリヂストン新中計を発表、26年に売上収益を4.8兆円に

山田清志

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ブリヂストンは3月1日、3年間の新中期事業計画(2024~2026)を発表した。それは23年12月期に4兆3138億円だった売上収益を26年12月期には4兆8000億円レベルまで引き上げ、調整後営業利益を4806億円から6400億円レベルまで拡大し、調整後営業利益率13%レベルを目標としたものだ。年間配当についても、最低250円とし、23年12月期よりも50円以上増やす。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

まだまだ稼ぐ力の強化が必要

 

「2023年の業績は残念ながら23年2月に発表した通期見込みを下回り、ターゲットであったROIC10%に届かない着地となった。21年中計で目指していた“変化に対応できる強いブリヂストン”へは戻ることができなかった。事業ポートフォリオ別では、プレミアムタイヤは増収増益、ソリューションは鉱山・航空ソリューションの貢献もあり増収増益、化工品・多角化事業においても改善が見られたが、まだまだ稼ぐ力の強化が必要だ」と石橋秀一グローバルCEOは会見の冒頭、反省の弁を述べた。

 

24中期事業計画のシン・グローカル・ポートフォリオ経営シナリオ

 

当初の計画では、売上収益が4兆1500億円、調整後営業利益5100億円、調整後営業利益率12.3%、ROIC10.5%、当期利益3400億円だった。それが4兆3138億円、4806億円、11.1%、8.7%、3269億円と、売上収益は円安の影響で計画を上回ったものの、ほかの数値はことごとく下回ってしまったのだ。

 

「24中計では、初年度の24年でまず21中計の残課題と表面化した新たな課題に対応し、ビジネス体質強化、欧州と中国事業の再編、タイ事業・日本REPチャネル再構築を実行するとともに、価値創造へよりフォーカスして稼ぐ力を強化していく」と石橋CEOは説明し、25年から26年にかけて24中計の「真の次のステージ」へ進む考えを示した。

 

次のステージへの経営指標として掲げたのが、売上収益4兆8000億円レベル、調整後営業利益6400億円レベル、調整後営業利益率13%レベル、ROIC10%レベル、1株当たり配当金250億円レベルである。そして、「経営の3つの軸、過去の課題から正面から向き合い、先送りしない、脚物をしっかりさせて実行と結果にこだわる、将来への布石を打つ」とした。

 

新プレミアム技術で多様化するモビリティに対応

 

その経営指標の達成するために、シン・グローカル・ポートフォリオ経営シナリオを策定した。基本軸はグローバルでROIC10%以上を確立して、強いブリヂストン・強いビジネス体質を構築へ経営・業務品質・管理レベルの向上を図る。探索事業を除いて、ROIC5.5%未満の事業をなくし。プレミアムタイヤ事業をコア事業、ソリューション事業を成長事業とし、探索事業、化工品・多角化事業を合わせた4つの事業において、それぞれの事業特性に合ったポートフォリオ経営を進めていく。

 

24中期事業計画の経営指標

 

コア事業では、稼ぐ力の強化へ向け、プレミアムタイヤの拡大と新たなプレミアムの創造を推進する。「EV化のスピードは足元では軟化傾向だが、中長期的なEV普及・拡大は変わらないと見ており、多様化するモビリティに合わせてタイヤに求められる性能はますます複雑になる。当社が独自に想像する新たなプレミアム「ENLITEN(エンライテン)」技術による究極のカスタマイズでそれらに対応していく」と石橋CEOは話す。

 

エンライテン技術とは、タイヤ重量を大幅に軽量化し、省資源化やタイヤの転がり抵抗を大幅に低減することで、環境負荷を軽減するとともにハンドリングなどの運動性能との両立を可能にするタイヤ技術だ。すでにフォルクスワーゲンのEVに採用されている。さらに価値向上に向けて、サステナブルなプレミアムブランドの構築にも着手しているそうだ。

 

成長事業では、プレミアムタイヤの価値を増幅するソリューションへフォーカスし、次の2027年中期事業計画において拡大成長ステージに入る基盤を構築する。具体的には、小売サービス、リトレッド、鉱山・航空ソリューションを強化し、すでに強固な小売サービスとリトレッドのビジネス基盤を持つ北米でビジネスの質を向上させながら稼ぐ力の強化を図る。さらに、モビリティテック事業の構築に向けて、19年に買収した欧州ウェブフリートと21年に買収した北米アズーガのモビリティソリューションを強化していく。

 

探索事業では、技術の探索からビジネスモデルの探索へステップアップするとともに、新たな種まきを行っていく。例えば、空気の充填がいらない次世代タイヤの実証をはじめ、新たな天然ゴム資源「グアユール」の拡充、タイヤを原材料に戻すリサイクル、さらにはソフトロボティクスといった、新たな社会価値の創造へつながるビジネスを推進する。

 

24中期事業計画の設備投資

 

設備投資は3年間で約1兆4000億円を計画

 

化工品・多角化事業では、コアコンピタンスの活きる領域にフォーカスし、着実な成長を目指していく。具体的には、高分子複合体を極める技術コア、長い歴史と実力で培われたブランド力、プレミアム商品力、現物現場・顧客志向に基づく技術提案力といったコアコンピタンスで、油圧・高機能ホースや免震ゴム、空気バネ、ゴルフ用品、自転車事業の収益を上げて、調整後営業利益率8%レベルまで持って行く。ちなみに、コア事業と成長事業の利益率目標はそれぞれ16%、8%レベルだ。

 

また、課題が山積している欧州については、これまでの事業体制を変えて、生産から販売、ソリューションまでバリューチェーン全体でプレミアムによりフォーカスする体制に強化していく。生産では、トラック・バス用タイヤ3工場で、販売に合わせた固定費効率化を図る。販売では、パッセンジャー、トラック・バス用タイヤともにプレミアムフォーカスをより強化し、ダントツ商品投入を軸に赤字・不採算タイヤをもう一段削減する。

 

「小売りについては、強い基盤を持つ米国チームからのサポートによって抜本的に見直し、少なくとも26年に黒字化する。すでにオペレーション会社が再構築に着手している」(石橋CEO)という。

 

設備投資は24中計の3年間で総額約1兆4000億円を計画し、21中計の1.4倍にあたる。プレミアムタイヤ事業への戦略投資を中心に進め、その配分は21中計の約3割から6割弱へとアップするそうだ。加えて、ソリューション事業へも投資の拡充を図っていく方針だ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。