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2024年9月6日【事業資源】

ボッシュ日本法人。横浜・都筑区に竣工した新本社を公開

松下次男

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SDVに対応し、開発体制を強化 事業部をまたいだ協業を促進

 

独ボッシュの日本法人、ボッシュは9月6日、横浜市都筑区に竣工した新本社施設を報道陣に公開した。新本社は都筑区文化センターを併設した公民連携プロジェクトであり、次期社長に内定しているクリスチャン・メッカ―副社長は竣工記念記者会見で「この一帯は、近隣住民はもちろん、一般の方もシームレスに利用できるオープンな施設だ」と強調した。(佃モビリティ総研・松下次男)

 

ボッシュの新本社機能は今年5月から先行して稼働を開始。今回、ボッシュ新本社に加え、同敷地内に建設していた都筑区民文化センターや全天候型広場を含めた施設一帯が竣工したのに伴い施設を披露したものだ。都筑区民センターは「ボッシュホール」(愛称)とネーミングされ、2025年3月に開館の予定。

 

ロバート・ボッシュGmbH取締役会メンバーであり日本担当役員のタニア・リュッカート氏は新本社に役割について次のように述べた。

 

「昨日、初めてこの新本社に足を踏み入れましたが、そこで気づいた、いくつか誇りに思っている点があります。一つめは、サステナビリティの観点。ボッシュにとって、環境保全や気候変動に関する取り組みは最優先事項です。そのため、新社屋には太陽光パネルや窓のルーバー、自動換気システム、雨水の利用など、省エネや自然資源の活用を可能にするさまざまなテクノロジーを導入しました」

 

「二つ目はデジタルの観点で、ボッシュの新本社そして都筑区民文化センターの建設では日本のボッシュでは初となるデジタルツインを用いました。企画から設計、建設において、インフラやケーブルダクトなど、建築物に関わる現実世界のさまざまなデータをコンピュータ上で再現することで、建設プロセスの最適化や修繕作業のシミュレーションが可能となりました」

 

「しかし重要なのは、新本社の建設だけではありません。わたしたちは今回のプロジェクトで、地域社会に対するコミットメントも体現しています。2018年、『横浜市都筑区における区民文化センター等整備予定地活用事業』における事業者として横浜市から選定されました。

 

興味深いことに、これはボッシュの拠点と地域の施設を一体として建設するという、グローバルにおいてもボッシュ・グループ初となる公民連携プロジェクトです。この場を借りて、ボッシュを信頼し、事業者として選定してくださった横浜市に感謝の意を表したいと思います」

 

「日本はボッシュにとっても重要な役割を担う市場です。ボッシュは1911年、まさに横浜の地で日本のビジネスをスタートしました。以来ボッシュは、日本での拠点を拡大し、モビリティ分野を中心に、電動工具から産業機器まで、幅広い分野で日本の産業の発展に貢献してまいりました。そして世界の自動車生産の30%を担う日本の自動車メーカーを、ボッシュは継続的にサポートしてきました」

 

「日本は、イノベーションとテクノロジーで発展し続けています。そして近年、日本の自動車メーカーはソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)に力を入れるなど、常に進化を続けています。ボッシュはこれからも日本で、多様化するお客様のニーズに寄り添い、包括的ソリューションを提供することで、日本の産業の発展に寄与していきます」

 

新本社は敷地面積が約1万2千平方メートルで、地上7階、地下2階の構造。延べ床面積は約5・3万平方メートル。

 

今回の本社移転に伴いボッシュは東京・横浜エリアにある8拠点に点在していた事業部およびグループ企業に在籍する約2000人の従業員を新社屋に集約。同じ横浜市都筑区牛久保にある既存の研究開発施設も新本社から約2キロメートルの場所に位置しており、これら二つの施設にボッシュ・グループ全体の4割以上の従業員が集約された。今後、これらの2拠点の事業部間での協業、連携を促進するという。

 

 

グループ初の公民連携プロジェクト、開かれた施設を目指す

 

クラウス・メーダ―社長(9月末で退任予定)は新本社の機能について次のように話した。

 

「新本社の建設が先に完了したことで、私たち今年の5月から本社を移転し、業務をしています。引っ越してから約3か月が過ぎましたが、オフィスエリアはもちろん、食堂や、オフィス階の中央に設置したコミュニケーションゾーンなど、あらゆる場所でのコミュニケーションが非常に活発になったと感じています。より多くのコミュニケーションやエンゲージメントの促進を狙ったオフィスデザインが功を奏したと言えます」

 

「また現在、日本のボッシュでは約40か国の従業員が働いています。そのため、この新本社ではダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンを意識したオフィス設計を導入しました。例えば、全フロアにユニバーサルデザイントイレを設置。さらにオフィス内に従業員向けの搾乳室や、祈祷室としても利用できるマルチパーパスルームを設置しています。このように、従業員が働きやすい職場になるようなオフィス環境を目指しました」

 

「加えて、急激に変化する自動車業界における市場の要求に対応するため、ボッシュは今年、グローバルにおけるモビリティ事業を再編しました。

 

例えば、二つの事業部を統合したビークルモーション事業部は、現在はABSや横滑り防止装置ESCからステアリングに至るまで、ビークルダイナミクスを扱います。これまで別の事業部だった従業員が共に開発を進めることになったこのタイミングで、コラボレーションが活性化される新しい拠点に移ることができたことは、非常に意味のある事です。

 

再編成した組織が、この新本社、そして同じ都筑区内にある既存の研究開発施設に集約されたことで、事業部をまたいだ協業が促進されることでしょう。そして今後、国内の研究開発体制のさらなる強化を見込んでいます」

 

10月1日付でボッシュの新社長(ボッシュ・モビリティ・東アジア・東南アジア プレジデント兼最高技術責任者も継続)に就任するメッカ―副社長は新本社の役割および日本事業の取り組みについて次のように話した。

 

「ボッシュは1990年に、ここから約2キロメートル離れた都筑区牛久保に、研究開発施設を建設しました。そして今回、同じ都筑区内に、研究開発施設を備えた新本社が完成しました。これらふたつの施設にボッシュ・グループ全体の4割以上にあたる従業員が集約されています」

 

「昨今、モビリティ市場において自動車開発は急激に発展しています。そこで、新本社では、自動車の電動化や自動化、さらにSDVといったトレンドに対応するべく、研究開発設備を強化しています。新本社では、地下1階と2階に『ヘビーラボ』と呼ばれる大型の実験・研究設備を、そして2階から4階の業務フロアには中小規模の『ライトラボ』を設置しています」

 

「新本社では一部のテスト設備を拡大、そして新規投入することで、常に変化する日本のお客様の多様なニーズに迅速に対応できるように体制を整えています。

 

電動化の例としては、自動車における搭載製品の作動音、振動が車両全体にどのように伝達されるかをテストするための半無響室を地下に年内に新設予定です。近年、自動車走行時の遮音性が向上し、さらに電気自動車やハイブリッド車が普及してきたことで、エンジンノイズが低下し、運転時の快適性が高っています。

 

 

しかし、静かな車室内での機械作動音を気にするユーザが増えています。特に日本人は静寂性を好む傾向にあることから、音、振動に対する試験の重要性が高まっています」「自動化に向けた対応としては、先進運転支援システム(ADAS)に必要なレーダーの測定を行う電波暗室を新設しました。

 

従来、ボッシュは特殊設備を兼ね備えているドイツやハンガリーの拠点にテストを依頼していました。しかしその場合、サンプル受領後、お客様への結果の報告までに約1か月かかっていました。

 

国内に新設備を備えたことで、テストに使用するパーツを輸送する時間やコストが省けます。かつサンプル受領から結果の報告まで最短約1週間と、試験期間の短縮や輸送コスト削減に貢献しています」

 

「また近年、自動車のネットワーク化に伴い、車内でハンズフリーの通話をする機会も多くなったと思います。音声認識はハンズフリーでのインフォテインメント操作など、車の利便性を高めることにも貢献しています。そこでボッシュでは今回、車内での通話品質を車載インフォテインメントシステムから調整する『チューニングルーム』という施設を新設しました。

 

このチューニングルームでは、お客様の開発車両を試験機器につなげ、スピーカーやマイクなどの出力を調整し、車内での音声認識の品質が、国際基準や各種自動車メーカーの基準に満たしているかどうかをテストします」

 

「さらに、従業員同士のコミュニケーションの活発化を目指し、業務フロアにライトラボを複数設置しています。ガラス張りのラボや、あえて仕切りを作らないオープンなラボを業務フロアに隣接しました。

 

そうすることで、モノに直接触れながら開発を進められるようになっています。さらに、他部署や異なるチーム間の連携を促進するため、間仕切りのないオープンなオフィスにしています。例えば、研究開発エリアで働くエンジニアと、業務エリアで働くプロジェクトマネージャーの間で、プロジェクトの進捗確認がしやすくなっています」

 

「このように、異なる技術領域のエキスパート間のコミュニケーションが効率化することが期待され、領域をまたいだ開発がさらに推進されるでしょう。このように新本社ではこれまで複数拠点に点在していたエキスパートが連携し、チーム内や他の事業部と密にコミュニケーションを取りながら研究開発を進めています。

 

これはアーキテクチャーの集約化やソSDV時代の到来に伴い、さまざまな機能を開発する異なるチームが、ソフトウェア・システムをシームレスに共同開発できる体制を見据えた取り組みです」新本社の所在地は、神奈川県横浜市都筑区中川中央1-9―32。

 

 

竣工記念記者会見における主な質疑は次のとおり。

 

――新本社の意義、日本事業の取り組みについてお聞かせください。

「これまで分散していた事業部、機能が集約できたことは素晴らしく、より事業活動が強化できる態勢が整えられたといえるでしょう。クルマは一段と複雑化しており、とくにSDV化時代を迎えて、こうした複雑化に対応できる体制が欠かせません。新本社ができたことで、こうした活動に一体感をもって取り組むことができます。また、スピード感を高める必要もありました。自動運転への対応などについえも、都筑区牛久保の研究開発施設との協業、連携もより生かせることになります」

 

 

――本社屋の総工費はいくらになるのでしょう。

「総予算で390億円です。ほぼ予定通り、予算どおり竣工できました」

 

――自動車と取り巻くグローバルの動きをみますと、このところEV(電気自動車)の需要が鈍化し、エンジンが再認識されているようにも見えます。こうした動向はボッシュの活動にも影響を及ばすことになるのでしょうか。

「電動化の取り組みやBEV、ICE(内燃機関)のどちらが主力になっているかという点では、国・地域によってスピード感が異なっているでしょう。

 

ただし、方向は決まっています。欧州は2035年にICEを無くすというリールが決まっていますし、日本はHVが強い市場であり、マルチパスウエイの動きとなっています。

 

このため、我々は欧州向けに製品を出すメーカーをサポートすると同時に、それぞれ地域ごとに柔軟に対応する考えです。我々は“ローカル・フォー・ローカル“の考えにもとに、それぞれ地域ごとに貢献するというのがボッシュの基本姿勢です。どのようなクルマになるかは、最終的に自動車メーカーが決めることですが、同時に自動車メーカーはグローバル市場を目指しています」

 

――新拠点をR&Dセンターとせずに、新本社とした意義は。
「ビジネスは近いところで行うというのが今回のプロジェクトの意義です。事業部門と研究施設が近くにあり、協業、連携できるのが望ましい姿だと思っています。それに渋谷の旧本社が手狭になっていたのも一つの要因です」

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。