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2023年2月22日【企業・経営】

ベントレー史上最もパワフルな12気筒エンジンの生産終了へ

坂上 賢治

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生産終了に至る頃には10万台以上のW12ユニットが生産される計算

 

ベントレーは2月22日、W型12気筒ガソリンエンジンの生産を2024年4月に終了させると発表した。この先、生産終了に至る頃には10万台以上のW12ユニットが生産される計算だという。

 

この決断は、ベントレーが持続可能な未来に向けて加速し続ける姿勢を示すものであり、2030年迄に全モデルラインを完全電動化。これらの取り組みは、車両1台あたりの平均排出量の完全ゼロを目指している証左でもある。

 

そこでベントレーは、このW12エンジンの生産終了を見据えつつ、W12史上の最もパワフルなバージョンの開発作業を先に終了させたばかりだ。

 

 

その最新のW12エンジンは、2002年に誕生したベントレーの6.0リッターツインターボW12エンジンから大きく進化した。同社のエンジニアリングチームは、パワー、トルク、排気ガス、洗練性の面でエンジンの絶対性能を着実に高めて来た。

 

実際この20年間で、出力は37パーセント、トルクは54パーセント向上し、排気ガスは25パーセント削減された。当初は、制御システムの進化と最適化、オイルや冷却設計の改善、ターボチャージャー技術、より効果的な噴射・燃焼プロセスによってこれらを可能にして来た。

 

例えば、独自のWコンフィギュレーションは、誕生時のV12エンジンよりも24パーセントも短くなったため、パッケージング的に有利で、使用可能なキャビンスペースを最大限も活かす事が出来ている。

 

2015年にはベンテイガのリリースにあたりW12は完全に再設計された

 

続く2015年にはベンテイガのリリースにあたり、W12は完全に再設計され、先代よりも30パーセントも強度が強いクランクケースを採用し、シリンダー表面には摩擦低減と耐腐食性を高めるためのコーティングが施された。ボアにはAPS( Atmospheric Plasma Spray / 大気プラズマ溶射 )プロセスで低合金鋼のコーティングが施されている。

 

 

吸入系では、高圧直接燃料噴射( 噴射圧200bar )と低圧ポート噴射( 6bar )が組み合わされており、この2つのシステムを組み合わせる事で洗練性を高めつつも粒子状物質の排出を抑え、パワーとトルクの伝達効率を最適化させている。

 

同内燃ユニットに組み合わせたツインスクロールターボチャージャーは、ターボの応答時間を最小限に抑え、より効率的な排気パッケージを提供。中でもフロント3気筒とリア3気筒エグゾーストアセンブリは、互いに分離されており、ツインスクロールインペラーに供給される。

 

ターボチャージャー自体のハウジングは、エキゾーストマニホールドに直接溶接されており、統合された速度センサーを備えているため、エンジンはターボ性能を監視して最大限の効率を得る事が出来る。

 

また可変容量システムは、定められた条件下でエンジンの半分を停止させる事も出来る。吸気バルブ、排気バルブ、燃料噴射、点火は全て定義されたシリンダーで停止し、最終的にエンジン稼働は6気筒となっても稼働し続けて燃焼効率を向上を諦めない。このモードでは3速から8速、3,000rpm以下、最大トルク出力300Nmで走行する。

 

そんな歴代のW12エンジンは、職人の手によって6.5時間かけて組み立てられ、その後、3台の専門診断機によって1時間以上に亘る高度なテストが行われる。更に毎週1台のエンジンが長時間のテストサイクルで試運転され、検査のために完全に分解される。

 

 

最新のW12エンジンは最高出力750ps、最大トルク1,000Nmを発生

 

今回、マリナーのチーフテクニカルオフィサーであるポール・ウィリアムズ氏( 第2世代W12の開発を指揮したエンジニア )の監督の下、製作された僅か18台のベントレーバトゥールに搭載した最後かつ最新のエンジンは、最高出力750ps、最大トルク1,000Nmを発生する。

 

トルクの増大カーブは、ベントレーらしいトルクプラトーを形成しつつ1,750rpmから5,000rpmまで続き、5,600rpmで最大パワーを記録する迄に至った。

 

同エンジンは、ターボチャージャーのコンプレッサーは効率を高めるために新設計され、そこに空気を送るダクトも33パーセント大きくなった。

 

最新型のエンジンは、ピーク出力時に1時間あたり1トン以上(1,050kg)の空気を取り込み、大型のチャージエアクーラーは深さが10mm増加。新しいコア形状を持つため、加圧された吸気から35パーセント多く熱を取り除き、吸気温度をより低くして、より高密度な充電による出力向上を実現している。

 

結果、このW12の最終バージョンとして、マリナーのエンジニアリングチームは吸気、排気、冷却システムを改良し、これまで以上にパワーとトルクを解放する事に成功した事になる。

 

ちなみにこれらの歴史を刻んだW12の生産が来年に終了した後は、ベントレーの全モデルラインナップにハイブリッドパワートレインのオプションが用意される。一方、代表車種であるコンチネンタルGTに初めて搭載されて以降20年間、歴代ベントレーを動かしてきたエンジンは、遂にその歴史に幕を下ろす。

 

 

持続可能なラグジュアリーモビリティを目指す旅に大きな変化をもたらす

 

こうしてパワーユニットが磨かれる歴史を見届け続けてきたベントレーのエイドリアン・ホールマーク会長兼CEOは、「持続可能なラグジュアリーモビリティを目指す私たちの旅は、ベントレーモーターズのあらゆる分野に変化をもたらす事を意味します。

 

2003年に初めてW12を発表した時、私たちは車とブランドの両方をスピードアップさせるための強力なエンジンを手に入れたと確信しました。

 

その後、20年の歳月と10万台以上のW12を経た後、私たちは電動化に向けて前進するため、このアイコニックなパワートレインを引退させる事になります。しかし、ベントレー史上最もパワフルなエンジンで、史上最高峰に仕立てた上で見送る事で手を緩めた訳ではありません。

 

しかしマリナーがバトゥールのために作り上げた750psの巨人は、我々のエンジニアリングと製造に携わる者にとって、誇り高い内燃エンジン開発の旅の終わりを意味します。

 

 

なおコンチネンタルGT、ベンテイガ、フライングスパーのスピードバージョン、コンチネンタルGTマリナー、フライングスパーマリナーに搭載される659psバージョンのW12エンジンは引き続き限定数で注文する事が可能です。

 

最後のW12エンジンを搭載するこれらのスピードモデルおよびマリナーモデルは、今後、人気になる事が予想されるため、史上最後の12気筒ベントレーを手に入れたいと考えるお客様は、W12エンジン搭載モデルの受注終了時期が、市場毎に異なりますので、なるべく早く販売店にご連絡ください。

 

また来年4月の生産終了後、我々は、現在も手作業でエンジンを作っている全ての熟練工の再教育と再配置を行う予定です。W12エンジン工場は、今年20周年を迎える頃には10万5,000基以上のエンジンを納品した事になるでしょう。

 

いずれにしてもベントレーは、カーボンニュートラルなベントレーの工場内でW12エンジンを一つ一つ手作業で組み立てた後、エンジンテストに携わる22人の熟練工全員も再教育し再配置します。

 

具体的にはW12エンジンの生産施設は、プラグインハイブリッドモデルに使用される他のベントレーエンジンのための拡張ラインに移行する予定です」と述べている。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。