トヨタ3兆円、ホンダ1兆円の営業利益を見込むなど更なる成長へ
上場自動車メーカーの2023年3月期連結決算発表が5月15日までに出揃った。決算内容は資材高騰や半導体不足などの厳しい環境下にあるものの、需要の回復で大半が業績を伸ばし、力強さを戻しつつある。2024年3月期連結業績予想では各社とも更なる上積みを計画する。(佃モビリティ総研・松下次男)
トヨタ自動車3兆円、ホンダ1兆円。2024年3月期の営業利益予想でトヨタ、ホンダなどが過去最高を目指している。トヨタの目標はわが国企業としても初の3兆円越えであり、達成が注目される。
好業績予想の背景にあるのがコロナ禍の落ち込みから回復し、世界的に新車需要が根強いためだ。
トヨタは2023年度、1010万台(前期比10・6%増)のトヨタ・レクサスの生産台数を計画。半導体不足などから2022年度は計画未達の生産台数となったが、半導体不足解消の兆しが見えてきたことから、改めて生産・販売台数1千万台越えに挑戦する。
トヨタの佐藤恒治社長は決算発表会見で「多様な産業と連携しながら付加価値を高めて、モビリティ産業へと転換する未来をつくる」ことが次の成長の目標と述べ、ステージが変化しつつあることを強調した。
そのため全地域で販売を伸ばし、成長領域への投資を加速する。カーボンニュートラルへの対応はマルチパスウェイで展開するとしながらも進展の早いバッテリー電気自動車(BEV)への注力を表明。
専任組織の「BEVファクトリー」を発足させたほか、今年秋のジャパンモビリティショーに2026年投入予定の新EVのコンセプトモデルを出展することを明らかにした。
同モデルは車台、電子プラットフォーム、ソフトウェアプラットフォームを刷新したEVとし、中嶋祐樹副社長は生産ラインも従来とは全く異なる手法で「製造工程の半減を目指す」と述べた。
ホンダも2023年度、前年実績比18%増の435万台の四輪車販売を目指す。北米を中心に販売を伸ばす計画で、青山真二副社長は景気後退が懸念される米国について「自動車市場は堅調に推移しており、新車の投入など2023モデルは鮮度も高い」と述べ、目標達成に自信を示した。
半導体不足問題について「下期には回復に向かうだろう」とし、厳しいとみているのが中国市場。前期より増販を計画するものの、昨年末の減税措置終了による反動減の影響が懸念されるとした。
根強い新車需要は、コロナ化で苦しんでいた日産自動車、スズキ、マツダ、スバル、三菱自動車の業績についても大きく伸ばす要因となった。
2023年3月期連結業績でスバルが前期比約3倍弱、三菱自が2倍強の営業利益を達成したほか、スズキが80%強、日産が50%強、マツダが40%弱の営業増益となった。
上海ロックダウンや半導体不足からともに生産台数に制約があったものの、販売の質の向上、コストダウン効果などで対応。加えて、原材料費上昇分の一部を車両価格へ転嫁したことや円安が進んだことも利益を押し上げた。
課題は、電動化シフトへのスピードアップとEV時代の収益性の確保
マツダはラージ商品群の展開により、大当たりの収益性が大幅に高まったとし、2023年度もCX-90などの新商品に期待を寄せる。
2023年度は悩みの種だった資材費高騰も落ち着く見通しで、一部資材は「値下がりを見せている」という。半面で、為替は円高を予想し、電力代などインフレによるコストアップ、春闘での賃上げによる費用負担が逆に圧し掛かる。
これらを生産、販売増により各社ともカバーする計画だが、一部負担を重く見ているところも。スズキは研究開発費や固定費増などで2024年3月期は減益を見込んでいる。
長期納車問題では、販売方法を見直し対応する動きも進んでおり、トヨタの宮崎洋一副社長は米国では店頭での直販売に加えて、「供給段階でも受注できる仕組みに変更した」と述べた。
日産のアシュワニ・グプタCOO(最高執行責任者)はデジタルをきっかけとした販売の重要性が増しているとし、中国では「売り上げのほぼ3分の1を占めている」と話す。
このようにわが国の自動車メーカーの業績は力強さが戻りつつあるが、課題となるのは急ピッチで進むEV化の流れに中長期的にどう対応するか。
今回の決算発表でも各首脳から口を揃えて発せられたのが上海モーターショーでのEVの進化の速さであり、「驚きを隠せない」という表現だ。
中国に滞在経験のある日産の内田誠社長は「この2~3年で風景がガラリと変わった」と中国地場メーカーのEVの競争力向上をこう話した。
こうしたことからスバルの大崎篤次期社長はBEVの2026年時点での生産能力を当初計画10万台から20万台に引き上げ、「柔軟性と拡張性」を持たせると表明した。
いずれにしろ各社ともEVシフト前倒しの動きを強めており、同時に、電動車時代の収益性確保を模索し始めている。
いすゞ自動車、日野自動車の商用車メーカーは海外市場の回復で、2022年度売上を伸ばした。とくにいすゞは部品不足が改善したことから、タイ国内向け、輸出ともに大幅に伸ばした。生産制約があった国内も子会社化したUDトラックスともに普通トラックのシェアを高めた。
一方、日野は海外市場で販売を伸ばしたものの、認証不正問題による出荷停止の影響により全ての車種で2022年度の国内販売の台数、シェアを落とした。
日野自動車の小木曾聡社長はこうした認証不正問題を受け、チャレンジ2025で掲げた「数値目標は旗を降ろす」と表明し、「総合品質や人の成長を優先する」取り組みを目指すと述べた。