アウディAGのインゴルシュタット工場は、今年1月1日からネットカーボンニュートラルな方法による生産を開始したことを( 2月19日 )明らかにした。
これにより同工場は、ブリュッセル( ベルギー/2018年にネットカーボンニュートラル方法による生産を開始 )とジェール( ハンガリー/2020年にネットカーボンニュートラル方法による生産を開始 )に続くネットゼロエミッションで稼働するアウディの3番目の工場となった。
一方、〝Audi R8〟および〝Audi e-tron GT quattro〟は、既に2020年からベーリンガーホフ工場でカーボンニュートラルな方法で生産されている。
アウディは2014年から、Mission:Zero環境プログラムを掲げ、来たる2025年までに世界のすべての拠点でネットカーボンニュートラルを達成するという目標を設定している。それゆえ、ネッカーズルムとサンホセチアパ(メキシコ)の生産拠点に於いても、その目標に向けた最終段階を迎えているとした。
そんなアウディAGで、生産およびロジスティクス担当取締役を務めるガードウォーカー氏( Gerd Walker )は、「環境保護に最善を尽くすことがアウディの企業戦略の根幹となっています。
私たちは、インゴルシュタット拠点のエネルギー源を再生可能エネルギーに切り替えることで、ネットカーボンニュートラルな車両を生産するという目標達成に更に近づきました。
また我々は、この目標を達成するために4つの柱から構成されるコンセプトを策定しています」と語った。その4つのコンセプトは以下に述べる通りとなる。
1. エネルギー効率の向上
まず最初のステップは、アウディ拠点のエネルギー効率を改善することにある。これにより既に大量のCO2 排出量が削減される。
例えば2022年には、これらのエネルギー管理対策により、インゴルシュタット拠点では、35,000メガワット時( MWh )を超えるエネルギーを節約し、5,000トン以上のCO2 排出量を削減した。
なおアウディが自社開発したEnergy Analytics( エネルギー分析 )プラットフォームは、この目標の達成に大きく貢献している。このEnergy Analyticsは、社内の生産プロセスに於ける様々な現場から大量のデータを収集し、オンタイムでコンパイル、プレパレーション、プロセッシングといった一連の処理を実行するソフトウェアベースの分析システムを指す。
そのプロセスは、大量のデータに対して統計学やAIなどを駆使した分析を行う、データマイニングとして一般的によく知られているものだが、その分析結果は、ユーザーが分析の重要な結果を、すぐに特定できるように視覚的に表示されるのが大きな特徴となっている。
これにより、不要なエネルギー消費の原因をより簡単に理解して分類、その上で潜在的なエネルギー節減の可能性を特定し、最終的に適切な対策を導き出せる。
2. 拠点内で再生可能エネルギーを生成
再生可能エネルギーによる電力を自社で生成するのが次ステップとなる。例えばインゴルシュタット工場の23,000mm²の敷地には、太陽光発電モジュールが設置されている。
今後数年アウディは、全ての生産拠点で自ら生成するエネルギーの割合を増やし続ける構えだ。本社工場でも約41,000mm²の太陽光発電モジュールの建設を計画しており、その一部は既に着工済だ。
アウディはこのような発電に係る取り組みに加えて、カーボンニュートラルな方法による熱エネルギーの自社生成にも注力している。またヒートポンプを利用し生産工程の廃熱を再利用するなどして、熱エネルギーの生成を徐々に増やしていく計画も敷いている。
3. 再生可能エネルギーの購入
3番目の柱としてアウディは、エネルギーの調達もネットカーボンニュートラルな方法に移行させている。アウディは、2012年初頭からインゴルシュタットでグリーン電力のみを使用して車両を生産しており、当時の自動車業界に於いては、同取り組みによりサステナビリティ分野の先駆者となっている。
この領域の施策についてアウディグループ環境保護責任者を務めるDr. リュディガー レクナゲル氏( Rüdiger Recknagel )は、「インゴルシュタット工場に隣接する製油所と都市廃棄物リサイクルプラントから、ネットカーボンニュートラルな廃熱が供給されています。更にネットカーボンニュートラルな熱供給を確保するために、大量のバイオガスを確保しました」と説明している。
4. 現時点で避けられないCO2 排出量を相殺
このようにしてインゴルシュタットの拠点は、エネルギー需要のほぼ全てを再生可能エネルギーで賄っている。但し最後のコンセプトとなる4番目の柱として、アウディがまだ回避できていない排出量( 従来のCO2 排出量の最大10% )が存在する。そこでGold Standard基準に従い、認定されたカーボンクレジットを購入することでそれを相殺している。
これは独立機関による品質基準が設けられており、厳格化された気候保護プロジェクトのみが適合を受ける。
アウディはこれらの証明書を通じてCO2排出量を相殺してるが、特にグローバルサウスに於ける風力発電所の建設に係る投資に熱心だ。例えば、インゴルシュタット工場の場合、物流から排出されるCO2 をこのようなプロジェクトで相殺する仕組みを採用した。
Mission:Zero:脱炭素のその先へ
加えて脱炭素化を超えて、水の再利用、資源の効率化、生物多様性の保護と保全などの活動分野にも取り組んでいる。ここでアウディが掲げる目標は、プラスチック、水、その他の原材料などの資源を一定のサイクルの中で有効活用し、循環型の生産体制を構築することにある。
例えば、インゴルシュタットでは、水資源を効率的に活用するために、2019年から膜分離活性汚泥法( MBR:membrane bioreactor )によるプロセス水の供給センターを運営している。
2023年、アウディはプレミアム自動車メーカーとして初めて、責任ある水資源管理を行うための機関、Alliance for Water Stewardship( AWS )に参加。同社は、2035年までに世界中の生産拠点で、環境にとって重要な水の消費量を半減させることを計画している。実際、メキシコのサンホセチアパの生産拠点は、2018年以来、廃水を一切出さずに車両を生産しており、水資源の責任ある利用の模範的な工場となっている。
360factoryと持続可能な土地利用
アウディが拠点開発を更に進めるにあたり持続可能性が最重要ポイントとなる。同社はeモビリティへの移行に伴い世界的な生産ネットワークの包括的な変革を行い、360factoryによる将来の生産についての明確なビジョンを策定している。
アウディは持続可能な土地利用に関しても、かつての工業用地を再活性化する取り組みを進めている。インゴルシュタットの南にあるインキャンパスも、本社工場に付属する部門として、アウディの持続可能性活動に組み込まれ、インゴルシュタットの東にある75ヘクタールの利用されていなかった工業用団地を再開発した。
ここでは、新しい土地を開発することなく、テクノロジーパークを建設。総面積のうち15ヘクタールが自然および景観保護区域に指定。このエリアは元々栄養分の乏しい痩せた土壌だったが、現在では草木が生い茂り、自然に近い状態の林が広がっている。