ヤマトホールディングス(HD)と日本郵政は6月19日、ヤマト運輸が手がけるメール便「クロネコDM便」と小型薄型荷物「ネコポス」などの配達を日本郵便に全量委託すると発表した。トラック運転手の残業規制と人手不足で物流の停滞が危惧されている「2024年問題」を控え、これまで対立していた両社が協業することになった。(経済ジャーナリスト・山田清志)
宅配便の配送網をうまく生かせず
「正直申し上げて、日本郵便の投函ビジネスの精度の高さや安定性は当社がまねをしてもたどり着けないと常々感じていた。協業して持続可能なビジネスの構築と利用者の利便性向上を両立させることは、物流企業としての責務だ」
ヤマトホールディングスの長尾裕社長
ヤマトHDの長尾裕社長はこう話し、メール便と小型薄型荷物の自前配送から撤退し、今後はサービス名称を変え、ヤマトは集荷のみを担当し、配達は日本郵便が手がけることになる。利用者から預かった荷物をヤマトが全国62カ所ある日本郵便の拠点まで運び、日本郵便が仕分けをして配達をする。
ヤマトの2022年度のメール便の取扱個数は8億個、小型薄型荷物は4億個で、両事業の売上高は約1300億円だった。しかし、これらの荷物はヤマトが強みとする宅配便の配送網を生かせなかったのだ。
というのも、配送別に荷物を仕分けるヤマトの自動化設備は宅配便で扱う箱形の荷物に最適で、小型薄型などの荷物は手作業で仕分けなどをしなければならなかったからだ。そのうえ、配達用の車両は約3万5000台保有するが、2トンと4トンのトラックが主体で、メール便や小型薄型の荷物を運ぶには適していなかった。
それに対し、日本郵便は二輪車を約8万2000台、軽四輪車を約3万台保有し、小型の荷物を運ぶには効率が良かった。また、仕分け作業も小包区分機である程度の自動化が進んでいた。
そこで、ヤマトは日本郵政に今回の協業を持ちかけ、宅配便事業に注力しようと考えた。一方、日本郵便は郵便物の減少が続いており、少しでも荷物量を獲得したいという事情があった。
日本郵政の増田寬也社長
「2020年をピークにゆうパック、ゆうパケットの荷物量が減っており、それを引き上げるのが大きな経営課題だった。ヤマトのDM便とネコポスは大変大きな量で、経営に非常にプラスになる」と日本郵政の増田寬也社長は話す。
相互にネットワークやリソースを活用する時代に
ヤマトと日本郵便はこれまで激しく対立してきた歴史がある。1984年に日本郵便の事業を手がけていた旧郵政省が、宅配便荷物に入った「添え状」が信書に当たるとヤマト運輸に警告。それに対して、規制緩和を訴え続けていたヤマト運輸の小倉昌男会長は、「立件されたら最高裁まで争う」と徹底抗戦の構えを示した。
1997年には信書の取り扱いを独占してきた日本郵便と国に開放を求め、印刷物の需要を取り込もうとメール便を始めたこともあった。さらに近年では、日本郵便がゆうパケットの料金を値上げした間隙をぬって、ヤマトがネコポスのメルカリ向けの料金を値下げして攻勢をかけた。
しかし、2024年問題によって、両社が対立している状況ではなくなった。同年春からトラック運転手の時間外労働時間が年960時間に制限される。ただでさえ、運転手不足で困っている物流とっては、うまく事業が回らなくなる可能性もある。あるシンクタンクの調査では、25年には全国の荷物の28%、30年には35%を運べなくなるという話もある。
日本郵便の衣川和秀社長
日本郵便は佐川急便とも22年から長距離輸送を相互委託する形で共同運送を開始し、運転手不足やコスト削減に向けて協力している。その佐川急便との関係について、日本郵便の衣川和秀社長は「提携関係を深めており、そちらはそちらでしっかりとやっていく」と話す。
「相互のネットワークやリソースを活用し、物流問題が抱える2024年問題、トラックドライバー不足、環境問題などの社会課題の解決を目指す」とは増田社長。今後も物流業界では、効率化を目指して、鎬を削ってきた企業同士が提携、協業していくケースが増えていくのは間違いないだろう。