– MOBILITY INSIGHT –
世界的に広がる新型コロナウイルス感染症の脅威が未だに止まりそうにない。一方で、経済活動は相次いで再開されており、世はまさに新型コロナとどう共生するか「ウイズ・コロナ」の時代に突入した。
こうしたなか、自動車産業も停止や制限下にあった生産や販売活動が徐々に回復し、通常の業態に戻りつつある。ただし、コロナ前の状態へと完全復活するかは不透明。感染症終息後も「様々な形で影響、変化が残るだろう」との見方もある。(佃モビリティ総研・松下次男)
少し時間を戻してみると、自動車産業は「100年に一度の大変革期」に差し掛かっているという見方で一致。トヨタ自動車の豊田章男社長はトヨタを「自動車をつくる会社からモビリティカンパニーへとモデルチェンジする」と述べ、変化に積極的に対応する姿勢をみせていた。
世界の主要メーカーをみても、CASEやMaaSと呼ばれる次世代技術で激しい競合を繰り広げており、その開発競争にはIT(情報技術)系トップ企業など異業種も加わる。そこへ全く予期せぬ新型コロナ感染症の脅威が直撃した。
まずは新型コロナ感染症の打撃を最小限に抑え、事業活動をもとの姿に戻すというのが産業界にとって、第1の優先事項といえるだろう。と同時に、コロナ感染症は企業の事業継続に別の視点からインパクトを与えることにもなった。
コロナ禍で、企業はテレワーク勤務を余儀なくされ、社会生活においてもソーシャルディスタンスなどの新たな行動様式が迫られた。
これらはニューノーマルや新しい生活様式と呼ばれているが、感染症の第1波収束後も一部分が定着する。
移動手段にも変化が及ぶ。特に日本では、大都市圏を中心に朝の通勤列車の大混雑が常態化していたが、これを避け、パーソナルユース志向が高まったという声も聞く。それがクルマの購入につながるケースにも。
CASEで呼称される次世代モビリティ技術は、それぞれコネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化の頭文字をとったものだが、ウイズ・コロナ時代に入り、こうした動きにも変化が現れる。
自動車産業界の見解を分析すると、まず成長分野の一つとされていた相乗りや相互利用などのシェアリング分野へ影響が出そうだ。
「新しい生活様式のもとでは、他者との接触を避ける傾向が強まり、シェアリングには逆風となる。もちろん長期的にみれば、進化するするだろうが」と業界のトップは会見でこう述べる。
実際に、急成長していたライドシェアリングも新型コロナの感染拡大後は苦戦が続く。逆に、進行が早まると予測されるのがコネクテッド分野だ。
第1波の感染拡大期には、世界各地で都市が封鎖され、日本でも自粛期間がしばらく続いた。そこで出現したのがリモート環境下での社会・経済活動。会議や生産工場の監視はデジタルを活用し、リモートで行うのが一つの日常となった。
こうした動きは、あらゆるものがインターネットにつながるIoTを加速させるとの予測を強める。コネクテッドカーもその一つ。
インターネットで外部とつながり、家庭環境と同様に相互交信し、ソフトウェアや不具合もOTA(オーバー・ザ・エアー)で自動更新する。新車ディーラーにとっても、過度の接触が減らせる。
販売活動でもIoTが進展するだろう。実際にデジタルを活用した新車販売が増えており、サブスクリプションなど新たな販売手法も拡大すると見られている。
一方で、IoT実用化は新たな危機を抱え込む。あらゆるものがインターネットにつながることは、当然、既存デバイスとも接続することになり、こうした端末機ではセキュリティ対策が不備なものが少なくない。
加えて、通信は今やクラウド環境下で行われるのが大半で、サイバー攻撃の被害も多面的に及ぶ。現実に、オンライン会議で被害に遭遇した事例は増えており、コネクテッドカーはクラウド環境下でつながる。今後、脆弱性の克服なども重要な課題だ。
それでは自動運転、電動化分野はどうだろう。両分野とも重要分野として継続するとした見方が大半で、コネクテッドとの親和性もある。
ただし、自動運転でいえば新型コロナ感染症の影響で実証実験は中断、延期となったケースも多い。このため、2020年代の半ばにも本格化するとみられていたレベル4以上の自動運転は2030年近くへずれ込むという見方が強まっている。
電動化では、電気自動車(EV)の投入計画が相次ぎ、懸案だった航続距離や充電時間短縮などの技術進化も著しい。このため、普及の要素はそろってきた。あとはユーザーが「快適で、使い勝手が良い」ものとして受け入れられるかだろう。