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2024年5月23日【政治経済】

40歳以下の米消費者は、中国製EV購入に前向き

坂上 賢治

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但し年齢層を問わずプライバシーに対する懸念は強い

 

1986年設立の米自動車市場の調査会社「オートパシフィック( AutoPacific / カリフォルニア州ロングビーチ発 )」は5月22日、米国内の18歳から80歳までの自動車所有者約800人を対象に「中国ブランド車とプライバシーに関する意識調査」を実施・発表した。

 

そのレポートの冒頭で同社は、現段階で、中国製自動車の米市場参入にあたっては、米政府がインフレ削減法( IRA )や、対中追加関税の見直しなどの法規制の見直しなどの講じていることもあり目下、米国内で中国製の自動車の大半は販売されていない。しかし今日の段階で、仮に輸入・販売されていたとしたらどうなるだろうか。

 

オートパシフィックでは自社調査で、回答者の半数が中国製の自動車ブランド名を幾つか知っており、回答者の約35%が、現時点で中国ブランドの新車が販売されるとしたら、おそらく購入を検討するだろうと答えた、と書き出している。

 

ちなみにこうした結果は、オートパシフィックが米国内の自動車所有者へ対して、隔月で 発行している自動車燃料価格の影響調査の一部だとした。この中国ブランド車と、同車購入に係るプライバシーの懸念の設問が含まれた独自調査で、18~80歳までの約800人の回答が集まったという。

 

 

その内容を年齢別に見ると、40歳未満の回答者の76%が「中国車の購入を検討する」と答えている。またこれは年齢層毎で微妙に異なっており、60歳以上の回答者で「検討する」と答えたのは約26%に留まっている。

 

しかしオートパシフィックの社長 兼 主任アナリストを務めるエド・キム氏は、「現在、米国に於いて中国製車両が販売されていないにも関わらず、驚くほど多くの消費者が中国の自動車ブランド名を知っている。 更に情報通のミレニアル世代とZ世代は、中国ブランド車の購入を検討する可能性が最も高い世代だ」と結論づけている。

 

最大のゲームチェンジャーになるのは北米域内での製造車?

 

またキム氏は、「それでも中国車が米国内で販売された場合、プライバシーについて懸念していると答える自動車ユーザーは多い。なお、こうした懸念は40歳未満の若い回答者も含まれている。

 

しかし40歳未満の年齢層は、プライバシーに関して強い懸念を抱いているにも関わらず、仮に中国車が販売された場合、購入を検討をする率は高い」とした。

 

 

これは既に、一般消費者が毎日使用しているスマートフォン、スマートウォッチ、ラップトップPCなどインターネットに接続されている家庭用機器の多くが、中国で製造されていることが影響している。仮に今後、中国車が米国内に流通した場合、プライバシーに係る懸念は、最終的にやわらぐ可能性が高いのではないかと解説している。

 

なお米国内の多くの消費者は、中国の自動車メーカーが米国内で自動車を販売した場合の潜在的な国家安全保障上のリスクについて、等しく懸念しており(年齢層によって68%から82%)、それは中国ブランド車の生産拠点が、中国、米国、メキシコを含む他の国のいずれであっても、プライバシー問題について懸念していることには大きく変わりはないとした。

 

一方で今日、自動車メーカーの国籍を問わず、北米域内での車両組み立てが米国内でのEV販売に係る連邦税額控除の資格要件を満たすための「必須条件」になっている。

 

では、先のプライバシー問題の懸念を乗り越えて、中国車を米国で組み立てることになれば、消費者が中国製EVの購入検討を促すための決定打になるのだろうか?

 

今回の調査では、回答者全体の相当数が中国車が米国内で製造されていると分かれば購入を検討する可能性が高まると答えた。それは年齢の全域層を取り上げて、購入傾向に繫がる可能性を示唆しており。60歳以上の回答者でも12%は中国ブランド車に対してよりオープンになると答えている。

 

なお一部の中国自動車メーカーは、既にメキシコ市場向けに低価格の自動車をメキシコ国内で販売されるか、近々にも生産される予定となっている。

 

 

現在のUSMCA自由貿易協定下では、こうした自動車は米国で販売された場合、全額税額控除の対象となる可能性があり、またバイデン政権が先に発表したばかりの中国製自動車に対する100%の関税も回避できる可能性がある。

 

北米製のEVは、当地の車両購入に係る心理的障害を乗り越える

 

そこで仮に、中国ブランドの車両がメキシコで組み立てられ、米国で販売された場合、中国製ブランド車を検討するのかを尋ねたところ、全体で約37%がメキシコ製の中国ブランドの車の購入を概ね検討すると答え、40歳未満ではその割合は73%に跳ね上がった。対して60歳以上の人のうちメキシコで製造された中国車の購入を検討すると答えたのは約29%に過ぎなかった。

 

それでも今日、中国車の多くが目覚ましい技術、最先端のソフトウェア、超高速充電など、若い消費者が求める機能を満載した新型EVを製造していること自体は、多くの消費者にとって周知の事実であり、それらは現在、米国市場で販売されている米国、日本、韓国、欧州ブランドのEV価格を大幅に下回るプライスで流通していることも、広く知られている事実でもある。

 

そもそもオートパシフィックの調査によると、多くの米国人にとってEV購入を躊躇する理由は購入価格であり、手頃な価格でEVを提供できれば、需要を喚起できる可能性がある。

 

それでも当面は、中国製自動車に対する厳しい100%関税によって、米国内に中国製EVが怒濤のように押し寄せてくる可能性を防いでいくれるかもしれない。しかし先の通り、第三国を介して中国製自動車が米国に上陸するのは時間の問題だろう。

 

それは数十年前の米国内に於いて、日本の自動車メーカーの存在感を制限しようとしたにも関わらず、米国に日本車が続々と上陸したことを想起させる。

 

オートパシフィックで製品・消費者インサイト担当マネージャーを務めるロビー・デグラフ氏は、「若い世代の購買層は、中国の自動車メーカーが海外で魅力的な製品を開発・販売していることをシッカリ認識している。問題は、それを彼らがいつ手に入れることができるようになるかという時間の問題に過ぎないだろう」と結んでいる。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。