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2019年4月3日【エネルギー】

トヨタ自動車、ハイブリッド車技術の実施権を無償提供へ

坂上 賢治

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 ここでまとめてみると、今回このような施策決定に至った理由は先の通り、トヨタが永年、HV開発でモーター・バッテリー・PCU等の車両電動化のコア技術を軸に、電動車普及へ積極的に取り組んできたものの、それが一貫してトヨタ単独の取り組みに終始しているところにある。

 

これこそが今のトヨタが抱えるジレンマだ。結果、国際的に極めて秀でたストロングハイブリッド技術であるのものの「孤高」の存在となってしまった。言い方を変えると「孤立」しつつあるということだ。

 

これは分野や投入技術の先進性という意味で、厳密には今例とは意味合いが幾分異なるものの、誤解を恐れずに云うと携帯電話業界に於ける、いわゆる「ガラパゴス化携帯」を連想させる。

 

 

今後もこの状況を、そのまま放置していけばトヨタの技術は独自のものゆえに一層の孤立化が進むと考えられる。そして大手自動車メーカーはトヨタのハイブリッド技術を避けた独自戦略を歩んでいき、少なくともHV車での世界の主導は、マイルドハイブリッド由来の48V化が当面の間、幅を利かすことになってしまう可能性が高い。

 

 これに対してトヨタ側の意志表示としては、「地球温暖化抑制の取り組みは喫緊の課題であること」「電動車の開発には多くの時間と費用を必要とすること」など踏まえ、CO2排出量削減のピッチを上げるためには、多くのステークホルダーと思いを共有し、協調して電動車の普及に取り組む必要があると判断したとしている。

 

ゆえにトヨタとしては「今回の新たな取り組みがきっかけとなり、世界で電動車の開発・市場投入の促進につながることで、CO2排出量削減による地球温暖化抑制に貢献したいと考えています」と結んでいる。

 

 本来、技術のオープン化戦略というのは、自社技術をより早く世界に広げ、デファクトスタンダードにしていくという自社優位策が下敷きとなるもの。

 

過去にボルボが3点式シートベルトの技術をオープン化したのは、自社技術の普及を進めていくことで企業イメージの向上を目指しただけでなく、同装備の実装着にあたって調達コストを大幅に下げることにも役立つからだ。トヨタ製のハイブリッド技術も、他の自動車メーカーへの採用を促すことで、同システム搭載車全体のコスト削減が実現され、今後10年という時間軸のなかでボリュームメリットを活かして行くことが出来るようになる。

 

 幾ら優れた孤高の技術とは云え、トヨタ単独の搭載技術では未来に向けた投資効果で行き詰まる。そうした意味で今回の技術のオープン化が、果たしてこの時期で最適だったかという面での疑問は残る。

 

トヨタ自身では「ハイブリッド技術への本格的引き合いが始まったのは近年のことで、技術の世界に広めるタイミングという面では今が最適。より早くても、また遅くてもタイミングを失しただろう」と話しているが、この答えを知るためには今後の10年程度の期間を待ちたい。

 

また先に今回のハイブリッドに先立ち、トヨタは燃料電池技術もいち早くオープン化した訳だが、現段階で技術ベース上の世界覇権は未だ実現しておらず、こちらについても答えを得るまでまだまだ時間が掛かりそうだ。

 

 一方、現段階でトヨタが注目しているマーケットは中国市場だと考えられ、技術供与で2030年までという期間限定の技術提供だとしているゆえに、少なくとも中国市場や新興国への売り込みに成功すれば、世界が完全にエンジン搭載車の時代を終えてしまうまでの当分の間、トヨタへ年間・数百億円超規模の収益貢献をもたらすかも知れない。

 

なお今日の段階では、首都圏に於ける記者会見等がまだ実施されておらず、より詳報の情報拡散は、今後の報道機関への周知を介して、伝えられていくものと見られる。

 

企業からの問い合わせフォーム:https://global.toyota/jp/mobility/case/patents2030.html

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。