ここでまとめてみると、今回このような施策決定に至った理由は先の通り、トヨタが永年、HV開発でモーター・バッテリー・PCU等の車両電動化のコア技術を軸に、電動車普及へ積極的に取り組んできたものの、それが一貫してトヨタ単独の取り組みに終始しているところにある。
これこそが今のトヨタが抱えるジレンマだ。結果、国際的に極めて秀でたストロングハイブリッド技術であるのものの「孤高」の存在となってしまった。言い方を変えると「孤立」しつつあるということだ。
これは分野や投入技術の先進性という意味で、厳密には今例とは意味合いが幾分異なるものの、誤解を恐れずに云うと携帯電話業界に於ける、いわゆる「ガラパゴス化携帯」を連想させる。
今後もこの状況を、そのまま放置していけばトヨタの技術は独自のものゆえに一層の孤立化が進むと考えられる。そして大手自動車メーカーはトヨタのハイブリッド技術を避けた独自戦略を歩んでいき、少なくともHV車での世界の主導は、マイルドハイブリッド由来の48V化が当面の間、幅を利かすことになってしまう可能性が高い。
これに対してトヨタ側の意志表示としては、「地球温暖化抑制の取り組みは喫緊の課題であること」「電動車の開発には多くの時間と費用を必要とすること」など踏まえ、CO2排出量削減のピッチを上げるためには、多くのステークホルダーと思いを共有し、協調して電動車の普及に取り組む必要があると判断したとしている。
ゆえにトヨタとしては「今回の新たな取り組みがきっかけとなり、世界で電動車の開発・市場投入の促進につながることで、CO2排出量削減による地球温暖化抑制に貢献したいと考えています」と結んでいる。
本来、技術のオープン化戦略というのは、自社技術をより早く世界に広げ、デファクトスタンダードにしていくという自社優位策が下敷きとなるもの。
過去にボルボが3点式シートベルトの技術をオープン化したのは、自社技術の普及を進めていくことで企業イメージの向上を目指しただけでなく、同装備の実装着にあたって調達コストを大幅に下げることにも役立つからだ。トヨタ製のハイブリッド技術も、他の自動車メーカーへの採用を促すことで、同システム搭載車全体のコスト削減が実現され、今後10年という時間軸のなかでボリュームメリットを活かして行くことが出来るようになる。
幾ら優れた孤高の技術とは云え、トヨタ単独の搭載技術では未来に向けた投資効果で行き詰まる。そうした意味で今回の技術のオープン化が、果たしてこの時期で最適だったかという面での疑問は残る。
トヨタ自身では「ハイブリッド技術への本格的引き合いが始まったのは近年のことで、技術の世界に広めるタイミングという面では今が最適。より早くても、また遅くてもタイミングを失しただろう」と話しているが、この答えを知るためには今後の10年程度の期間を待ちたい。
また先に今回のハイブリッドに先立ち、トヨタは燃料電池技術もいち早くオープン化した訳だが、現段階で技術ベース上の世界覇権は未だ実現しておらず、こちらについても答えを得るまでまだまだ時間が掛かりそうだ。
一方、現段階でトヨタが注目しているマーケットは中国市場だと考えられ、技術供与で2030年までという期間限定の技術提供だとしているゆえに、少なくとも中国市場や新興国への売り込みに成功すれば、世界が完全にエンジン搭載車の時代を終えてしまうまでの当分の間、トヨタへ年間・数百億円超規模の収益貢献をもたらすかも知れない。
なお今日の段階では、首都圏に於ける記者会見等がまだ実施されておらず、より詳報の情報拡散は、今後の報道機関への周知を介して、伝えられていくものと見られる。
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