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2020年5月12日【トピックス】

トヨタ自動車、2020年3月期連結決算

間宮 潔

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2021年3月期の連結業績予想では5000億円の営業黒字を見込む
 
 トヨタ自動車は、5月12日午後1時15分から〝2020年3月期の連結決算説明会〟をライブ中継で開き、オンライン上で記者からの質問にも答えた。二部制となった同中継の〝説明会第I部〟では、近 健太CFOと白柳 正義執行役員が担当。期末時点の新型コロナウイルスによる台数減の影響が12万7千台に上ったものの、期初からの販売増などにより、連結販売台数は前期比1万9千台少ない895万8千台にとどめたとした。(佃モビリティ総研・間宮潔)

 

 

その結果、連結売上高は前期比0.8%減の29兆9299億円、また営業利益も同1%減の2兆4428億円と、ほぼ前期並みの業績を確保した。当期純利益では、同10.3%増の2兆761億円とし、期末配当の120円を維持した。但し今期末に於ける自己株式取得は見送り、手元資金の確保を図っている。

 

 次期(2021年3月期)の業績予想については「先々を見通すことは難しい」としながらも、コロナウイルスの影響は4月を底に徐々に上向き、今年末から来年にかけて「前年並みに回復する」との期待を込めつつも連結販売台数を「700万台」に設定。前期実績に対して195万8千台、率にして21.9%の大幅減を織り込んだ。

 

この前提台数を基準に営業収益24兆円(前期比19.8%減)、営業利益5000億円(同79.5%減)の数値を示した。一方で税引き前利益および当期利益を現時点で「合理的に算定することは困難」だと未定に、地域別の見通しも手控えた。なお前期までの米国会計基準ので算定を21年3月期から国際財務報告基準(IFRS)適用にするとした。

 

コロナ禍による利益影響は、台数減で1000億円、金融面で600億円

 

 20年3月期業績でのコロナウイルスの影響は、売上高で3800億円、営業利益で1600億円の減額とした。営業利益の減額で最も大きな影響は為替変動によるものが3050億円。原価低減、諸経費圧縮など増益努力は2850億円あったのだが、コロナの影響で1250億円に目減りした。

 

コロナによる利益への影響は、台数減で1000億円、金融面で600億円とした。なかでも北米に於ける中古車価格下落が懸念されるため、予めリース車両の残価損を引き当てて回復の遅れに備えた。
なお21年3月期業績予想に関連して、収益回復のイメージを第1四半期(4~6月)で「6割」、第2四半期(7~9月)で「8割」、第3四半期(10~12月)で「9割」、第4四半期(来年1~3月)で「前期並み」とした。

 

 またコロナ問題で懸念されたサプライチェーン寸断に対する対策について、白柳執行役員は「東日本大震災を契機にレスキューと呼ぶシステムを構築して課題を“見える化”した。結果、それまで問題特定に2週間かかっていたものが、現在、半日で特定でき、事故の未然防止に役立てると共に代替生産などの実行力向上が実現していた。

 

それでも今回の危機は、中国一極から世界へコロナ感染が大きく広がり、現地・現物の確認が取れずに、そうした支援もままならないという初めての経験となった。この危機について現段階では、明確な答えを出せる状況にはないが、より一層知恵を絞っていきたい」と答えた。

 

 一方、1兆2500億円の借り入れを4月に実行したことにも触れ、近CFOは「現在、手元が不足しているとは感じていない。しかし、これからモノづくりの事業を継続する上で幅広い取引先があり、そうした自動車産業全体を守る中で、より厳しい取引先が出てきた時にしっかり資金供給できるようにしていく」と語った。

 

 

第II部では豊田社長が、世界中の仲間と‶共に〟強くなるとスピーチ

 

 決算説明会の第II部では豊田章男社長が登壇。2009年に社長就任して以来、11年の軌跡を振り返ると共に今回のコロナ渦に対する〝企業のあり方〟〝企業の使命〟について熱く語った。特に次期業績で営業利益5000億円の黒字予想を公表したことで、トヨタがコロナ危機終息後の経済復興のけん引役になれるという企業姿勢を示した。

 

豊田社長は「新しいトヨタに生まれ変われるスタートポイントに立てたと思います」と述べるに加え、裾野の広い自動車産業(自社の取引先)と共に「何かしらの計画、何かしらの準備を進めることができるのではないでしょうか」と自社の未来への取り組みを通した波及効果へ期待を滲ませた。

 

平時の改革の難しさが企業改革に本気で取り組む切っ掛けになった

 

 スピーチの冒頭で豊田社長は、かつて経済界を襲ったリーマンショック直後の状況や業績不振に触れ「当時の当社は販売台数で135万台、前年比で15%減少。さらに円高の影響もあって4610億円の赤字に転落しました。

 

その後に発生した米国に於ける大規模リコールの問題。東日本大震災での6重苦など、相次ぐ危機への対応に追われ続けました。しかしその後の13年3月期で、1ドル83円の超円高になっても1兆3208億円の営業利益を確保することができました。

 

あの時は出血を止めるため、将来への投資も含めてすべてを〝やめた〟結果、企業体質としては随分スリムになったものの、必要な筋肉まで落としてしまったように思います」と過去の試練を振り返った。

 

「そこから足元に至る7年間では、もっといいクルマづくりを加速するための投資。CASE対応の投資を推し進め、固定費の増加を原価改善で吸収するなど体質強化に取り組みました。

 

なかでも取り組み最初の3年間は〝意志ある踊り場〟として真の競争力強化を目指したのですが、十分な成果が得られませんでした」と平時の改革の難しさを痛感したことを述べ、「そうした気づきが〝トヨタは大丈夫〟という大企業ならではの社内意識を痛感することに繋がり、企業風土の改革に本気で取り組む切っ掛けになったのです」と語った。

 

現在の改革役は私の代で最後、次世代には未来づくりに時間を使って欲しい

 

 以来、数年間は「100年に一度の大変革も重なって〝トヨタらしさを取り戻す闘い〟〝未来に向けたトヨタのフルモデルチェンジ〟にがむしゃらに取り組んできました。

 

まずは正解のない時代のなかで会社を大きく変えるため、経営層から変わらなければならないと考えてカンパニー制を導入。〝七人の侍〟体制や副社長の廃止など、役員・組織体制の抜本的な見直しを実施。従業員とのコミュニケーションについても、労使で徹底的に議論するという抜本的な働き方改革に取り組んでいます。

 

これらを踏まえ今後は、思い描く理想のトヨタを作って未来の世代へタスキを渡したい。今のトヨタらしさを取り戻す役割は私の代で最後にし、次の世代には未来の社会や未来の企業づくりを考えていくことだけに時間を使わせてあげたい」と話した。

 

 そこでまずは「アライアンスによる仲間づくりを積極的に推進したい」と述べ、それは〝資本の論理で傘下に収める〟のではなく「志を同じくする仲間をリスペクトし、仕事を通じて連携していく異業種間のネットワークづくりにあります。

 

トヨタグループ内の連携も〝ホーム&アウェイ〟という新戦略の下、個社としてだけでなくグループとして〝共に強くなる考え方〟に基づき大きく変えてきました。結果、モビリティ・カンパニーへのフルモデルチェンジを目指しつつ、政策保有株の見直しや遊休不動産の売却などアセットの組み換えにも積極的に取り組んでいます」と語った。

 

人はコストではなく改善の源、モノづくりこそが企業を成長させる原動力

 

 これを前提とした未来のトヨタについて豊田社長は「2021年3月期の見通しは、かつてのリーマンショック以上の販売台数195万台、前年比約20%という減少傾向が見込まれるなかでも、営業利益は5000億円の黒字確保を見込んでいます。これは、これまでの企業体質強化の成果といえるのでないでしょうか」と述べた。

 

また今回のコロナ危機について豊田章男社長は「ものづくりの現場でも、必要な時に必要なモノが手に入らない事態に直面しました。こうしたいわゆる〝マスク現象〟は、生産現場で何事も安くつくることだけを追求してしまった結果、起こった現象ではないでしょうか。本来モノづくりで大切にしたい基本は〝人づくり〟にあります。人はコストではなく改善の源であり、モノづくりを成長・発展させる原動力です。

 

今は多くの企業が、医療用フェイスシールドやガウン、マスクなどの生産に乗り出しています。私たちも米国で3Dプリンター技術を活用したフェイスシールドを作り、日本や欧州などグローバルに展開させて頂いています。さらに人工呼吸器のような、自分たちで作れないものはTPSを活用した生産性向上支援にも取り組ませてもらっています。

 

こうした前向きなものづくりができるのも、トヨタが国内生産300万台体制にこだわり、日本にトヨタ流のモノづくりを残してきたからではないでしょうか。当社が常に守り続けてきたのは、世の中が困った時に必要なモノを作ることができる、そんな技術と技能を取得した人財づくりにあります。

 

今日〝V字回復〟など雇用やモノづくりの精神を犠牲にして、個社の業績を回復させることが評価される流れもみられますが、当社はそれは違うと思うのです。
実際、規模の大小に関係なく苦しい時こそ歯を食いしばって、技術と技能を有した人財を守り抜いてきた企業が日本には沢山あります。そういう企業を応援できる社会が今こそ必要だと思うのです」と畳み掛けた。

 

トヨタはコロナ危機でも仲間達と強くなり〝共に〟壁を乗り越えていく

 

 最後に豊田社長は「私は、これまで11年間に亘ってトヨタを〝世界中が頼りにされる企業〟〝必要とされる企業〟にしたいという一心で経営の舵取りをしてきました。そのなかで大切なことは〝何のために強くなるのか〟にあります。

 

トヨタは世の中に役立つために、世界中の仲間と助け合い〝共に強くならなければならない〟と思っています。地球と共に、社会と共に、全てのステークホルダーと共に生きていく。そんなホームプラネットを大切にした企業活動を提唱してきました。

 

そんな姿勢を貫いてきて改めて気付いたことは〝ありがとう〟と言い合える関係をつくること。医療の最前線で我々の命を守っている方々がいることに感謝したいと思います。今まで当たり前だと思っていたことが当たり前でなくなった今、どこかで誰かが頑張っているおかげと気づかされます。企業も人間も〝どう生きるか〟を真剣に考え、行動を変えていく大きなチャンスが与えられていると思うのです。

 

 トヨタは日本で生れ、世界で育った〝グローバルなモノづくり企業〟です。私たちの使命は〝幸せを量産すること〟、そのために自分以外の誰かの幸せを願い、行動することができるトヨタパーソンを育てることにあります。

 

それを私流にいえば〝YOUの視点〟をもった人財を育てることに繫がります。当社は世界中から頼りにされる企業、必要とされる企業になれるよう世界中の仲間と共に強くならなければならないと思います。トヨタはコロナ危機を仲間達と〝共に〟乗り越えていく覚悟です」と結んだ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。