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2023年11月11日【SDGs】

トヨタ、水素エンジン車の豪州実証など研究開発を更に加速

坂上 賢治

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水素エンジンカローラ

 

モータースポーツの場で鍛えた技術を、実用化に向け公道実証で更に鍛える

 

トヨタ自動車は11月11日、水素エンジン車の開発・研究を重ねるべく2023年シーズンに於いて「ENEOSスーパー耐久シリーズ2023 Supported by BRIDGESTONE」に参戦してきましたが、同分野の動きを更に加速させる。

 

具体的には、11月11日・12日に行われる最終戦「第7戦 S耐ファイナル 富士4時間レースwithフジニックフェス」に参戦する「水素エンジンカローラ(#32 ORC ROOKIE GR Corolla H2 Concept)」で改良車両を走らせる。なお、これに加えてカーボンニュートラル燃料で走行する「GR86(#28 ORC ROOKIE GR86 CNF Concept)」も出走させる。

 

なお先の水素エンジンカローラについては、液体水素を燃料として搭載した車両(水素エンジンカローラ)を今年5月のS耐 24時間レースで初参戦させたが、7月の「第4戦 スーパー耐久レースinオートポリス」を皮切りに、更なる進化を重ねているという。

 

これら改良点には、「エンジン性能」「航続距離」「車重」の3つに加えて「CO2回収技術への挑戦」が掲げられており、個々の概要は以下の通りだ。

 

エンジン性能
高出力実現のためには、液体水素ポンプが安定して高い燃料圧力を発生させる必要がある。そこで予てより課題として認識していた液体水素ポンプの昇圧性能と耐久性の向上を図った。これによりガソリンエンジン及び気体水素搭載時と同等レベルの出力を実現した。

 

航続距離
5月に行われた富士24時間レースでは、1回の給水素で走行できる最大の周回数が16周だった。そこで給水素時満タン判定の精度向上、タンク内への入熱低減によりボイルオフガス量の低減、アクセルが全開ではない時の燃料噴射量最適化などの改良を行い、20周を目標としてレースに臨む。

 

安全弁(左が軽量化前、右が軽量化後)

 

ボイルオフガス弁(左が軽量化前、右が軽量化後)

 

車重
水素エンジンカローラの車両に関しては、安全安心を第一に、多くの安全装備を搭載している。今後もこの〝安全安心第一〟の軸は変えず、これまでの走行で培った知見を活かす。

 

より具体的には、軽量化できる部品を特定し、厚さ、数の調整等による軽量化を行った。加えてタンク、安全弁・ボイルオフガス弁、ロールケージ、高圧部水素系部品なども軽量化。結果、オートポリス大会(7月29日・30日)の1,910kgから更に50kg軽量化した、1,860kgの車重を実現した。

 

CO2回収技術への挑戦
カーボンニュートラル実現のためには、車両や工場から排出されるCO2を減らすだけでなく、大気中のCO2も回収していくことが必要となる。

 

今回、水素エンジンカローラは、内燃機関が持つ「大気を大量に吸気する特徴」と「燃焼により発生する熱」を活用し、CO2回収装置をエンジンルームに装着することで、大気中のCO2を回収する挑戦を試験的に行う。

 

具体的には、エアクリーナー入口にCO2を吸着する装置を設置。更にその隣にはエンジンオイルの熱によってCO2を脱離する装置を設置した。これにより脱離したCO2は吸着溶液で満たされた小型タンクに回収される。

 

大気からCO2を吸着・脱離・回収する装置には、川崎重工業株式会社が開発した「従来よりも低温でCO2脱離できる吸着剤」を塗着させたフィルターを使用することで、CO2の回収効率を上げている。

 

水素エンジン車によるモータースポーツ活動に関しては、来たる2024年シーズンも、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を通じて車両や人をアジャイルに鍛え、さらなる進化を目指し、改良を続けていきますとトヨタ自動車では話している。

 

水素エンジンハイエースの走行実証をオーストラリアで開始

 

トヨタ自動車では、上記のレース稼働に加えて今回、新たに実用領域に於ける水素エンジン車の実証にも乗り出す構えだ。

 

同社では、「カーボンニュートラル社会の実現に向けた意志ある情熱と行動は海外にも広がり、水素エンジン技術は新たな挑戦を開始しました。

 

オーストラリアの実証で使用する水素エンジンハイエース

 

スーパー耐久シリーズへの参戦を通して鍛え続けている水素エンジン技術を、将来の実用化に向けてさらに鍛えるため、水素エンジンを商用ハイエースに搭載し、事業会社の運行による走行実証を、オーストラリアの公道で行います」と公道に於ける実証に乗り出すことを宣言した。その実証概要は以下の通りだ。

 

実証概要
日時 :2023年10月23日~2024年1月(詳細日は未定)の約4か月間
場所 :オーストラリア・メルボルン近郊の公道
車両 :ハイエースをベースとし、水素エンジン搭載仕様に変更した車両(気体水素搭載)1台
実証内容 :建設会社、警備会社の運行による走行実証

 

同公道実証に関して同社では、「これまで、スーパー耐久シリーズを通して、厳しい環境でも走行できる耐久性や、水素燃焼技術、異常燃焼の制御、水素の安全性の担保など、水素エンジン技術を鍛えてきました。

 

モータースポーツの環境で鍛えていくことに加え、今回の走行実証を通して公道でも鍛えていくことで、お客様の使用環境下での商用利用としての実用性や運転操作性、耐久性などの開発を進めて将来の実用化に繋げ、より良いカーボンニュートラル社会の実現に向けて仲間と共に選択肢を広げる取り組みを進めていきます」と実証の意図と、最終的な成果について説明している。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。