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2019年8月2日【自動車・販売】

トヨタ、2020年3月期第1四半期の連結決算説明会

間宮 潔

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トヨタの2020年3月期の業績を下方修正、円高で営業益1500億円縮小

 

 トヨタ自動車は8月2日、東京・水道橋の東京本社で2020年3月期第1四半期(2019年4~6月)の連結決算(米国会計基準)説明会を開催、通期での業績予想を下方修正した。
売上高の通期見通しは、5月の期首見通し30兆円から5000億円減額した29兆5000億円、営業利益も1500億円減額の2兆4000億円、最終の当期利益も1000億円減額の2兆1500億円にそれぞれ引き下げた。

 

 業績予想の主な変動要因は為替変動によるもの。具体的には連結販売台数で期首見通しの900万台に据え置いたものの、円高進行により、前期実績比で3500億円の影響を見込み、原価低減などでの穴埋めを織り込みつつも下方修正を余儀なくされた。結果、前期実績に対し期首の「減収増益」予想から「減収減益」の見通しに転換した格好だ。

 

この結果、為替レートでは対米ドルで期首の110円から106円に。対ユーロでも125円から121円に変更した。いずれも4円の円高を織り込んでいる。トヨタの見通しとしては前期の為替レートに比べ、ドルで5円、ユーロで7円の円高を見込んでいる。

 2019年度の連結販売台数は、期首見通しの900万台のままとして前期実績897万7千台に対して0.3%の増とした。
対して市場別の見通しでは、北米エリアで1万台減る269万台とした分、日本では1万台多い221万台に修正している。欧州は103万台、アジアは173万台、中南米その他地域で134万台と据え置いた。

 

2020年3月期第1四半期決算はRAV4、カローラなど新モデル増販で増収増益

 

 2020年3月期第1四半期の決算概要では、売上高7兆6460億円で前年同期比3.8%増。営業利益7419億円で8.7%増。当期純利益6829億円で3.9%増となった。
同期での連結販売台数は230万3千台で前年同期比3%増となって北米で伸び悩んだが、日本と欧州での伸びがこれをカバーするなどで数値改善に貢献した。

 

特に新プラットフォーム「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ―)で開発されたRAV4、カローラなど新型車が日本、欧州、北米に投入されたことは決算に良い要素をもたらしたとしており、増販による売り上げ増とインセンティブの適正化などで利益確保に繫がっている。

 

 その他、営業利益面の増益要因は、為替による差益200億円。原価低減努力で150億円、営業面での努力で800億円。その他では192億円が印されており、これらが減益要因である研究開発費など諸経費増750億円をカバーした格好だ。
地域別営業利益では、日本が前年同期に比べ402億円増益の4364億円、北米が同370億円増益の1154億円、欧州が同116億円増益の347億円、アジアが同256億円減益の1165億円、その他地域が同192億円減益の217億円となった。

 

 

 決算説明で登壇した今健太執行役員(経理本部副本部長兼先進技術開発カンパニー・エグゼクティブバイスプレジデント)は、特に北米での収益改善に触れて「きめ細かく、メリハリをつけたインセンティブの効率的な投入、車種軸の原価低減活動の強化、SUV(スポーツ用多目的車)やトラック系の供給改善努力、工場ごとの生産性改善、全社一丸となった固定費低減など全方位での活動」を成果に結びつけた貢献要因として挙げた。

 

 一方、アジアは中国の元安やタイのバーツ高などの為替変動で減益になったとした。
特に中国事業(1~3月期実績を反映)はC-HR,IZOA、レビンなどが好調で、小売り台数は2万3千台多い34万8千台としたが、為替変動から前年同期比196億円少ない364億円に留まった。

 

「もっといいクルマづくり」「変えてはいけないこと」を訴え、競争力を磨き続けることを強調

 

 代わって登壇したトヨタ自動車の吉田守孝副社長(クルマ開発センター長兼ミッドサイズビークルカンパニー・プレジデント)は、7月1日付の組織改正で新設となった「クルマ開発センター」の役割など、もっといいクルマづくり”について、プレゼンテーションを行った。

 

吉田副社長は「100年に一度の大変革の時代に、トヨタはモビリティ―カンパニーへのフルモデルチェンジに向け、様々な取り組みを進めている。
5月の決算報告の際、豊田社長が申し上げたように変化が求められる時代だからこそ、変えてはいけないことを明確にしておく必要がある。リアルなクルマづくりにおいて、競争力を磨き続けることは正に変えてはいけないこのとの一つ」と前置きして、具体的な取り組みを説明した。

 

 それによるとトヨタの特徴として、『グローバルで1000万台の生産・販売を行なう大きなボリュームがあること』、もう一は『小型から大型、乗用から商用、環境車やスポーツ車までフルラインアップの商品を揃えていること』にあると話す。
その特徴を活かしてトヨタは、クルマのポテンシャルを大幅にあげた上で、1000万台の数を活かして『賢く共用化するTNGA』と、お客様目線でクルマづくりに拘るカンパニー制、この両輪を軸にしてお客様第一で競争力を磨き続けていくとしていた。

 

先に挙がったTNGAについて吉田副社長は、導入から4年、カンパニー制導入から3年を経過した現状の成果について次のように触れた。
「2015年のプリウスPHVに始まりレクサス車、カローラスポーツ、RAV4、さらにカムリ、クラウン、ジャパンタクシー、スープラと広げ、現在、15モデルに展開、台数にして300万台、全体の3割を切り替えた。

 

なかでも世界でも最も売れているSUVであるRAV4は今年4月に新型を投入したが、力強いデザイン、使い易くて広い室内、気持ちの良い4WDの走り、そして求めやすい価格に対してポジティブな反応をいただく、販売も順調に推移している。
特にクルマ離れが進む30代以下の若いお客様がRAV4の購入層の45%を占めたことを大変うれしく思う」とし、良品廉価を目指すトヨタとして、RAV4のスターティング価格を260万円台としたクルマづくりの成果を強調した。

 

このTNGAの導入効果では、開発工数でのグルーピング開発や部品共用化を進めた結果、導入前のモデルに対して約25%の工数低減を実現したという。「ここで捻出した工数を、CASEなどの先行開発に充てている」とし、また新型モデルを生産する設備投資は共用化が進んだ結果、同じ設備で効率的に複数のクルマが生産できるようになり、1ライン当たり平均25%を軽減したも語った。

 

結果、車両原価は構成部品の共用化や生産工程の簡素化などを徹底して推し進めたことで約10%の低減を実現したという。
一方で吉田副社長は「ただし車両販価は環境規制対応や安全装備の拡充などで、お客様の望むレベルにはまだまだ十分でない状況にある」とし、今後「TPS(トヨタ生産方式)」と原価低減に徹底的にこだわり、これらの取り組みを加速させる」ことを強調した。

 

 なおトヨタは、今後のクルマづくりを取り巻く環境が一層厳しさを増すと想定している。特に北米市場では想定した以上にセダンからSUVへの移行が加速。一部の競合メーカーはセダン市場から撤退するなどの波乱要因から大胆に戦い方を変える構えだ。

 

具体的には「最大の成長市場である中国では安くて使い勝手のいい大柄のマルチメディアを搭載した現地メーカーが躍進するなど、地域ごとに多様化するお客様の嗜好の変化にもっともっとスピード感をもって対応していく必要がある。
また環境規制の強化に対応して電動車の投入を加速させていくが、さらなる原価低減と、CASEに備えたリソーセスのシフトを加速させていく必要がある。

 

 併せてTNGAに係る取り組みでは、グローバルで全てのプラットフォームを共通化することには固執せず、必要に応じ地域毎、車種毎にお客様のニーズに合わせながら賢い共用化開発と原価のつくり込みを始める」としている。セダンやSUVなど異なるモデルをフレキシブルに生産し、需要変動に強い体制づくりも一層強化していく意向だ。

 

なおトヨタグループの強みと弱みを見極めながら進めるホーム&アウェイの考え方、アライアンスを進めるという。このような安全対策では、自社開発を加速させると共に、積極的に他社との協調も進めていくなど仲間づくりにも取り組んでいくとした。

 

 吉田副社長は、「特に高齢者によるペダル踏み間違いによる事故への対応は喫緊の課題であり、様々な啓発活動、国や自治体との連携など自動車業界が一体となった取り組みを進めている最中である。
今後の商品投入計画は向こう2年間で、コンパクトから商用、SUVまで様々なタイプの18のモデルを新たに投入し、650万台程度、約6割を新型車に切り替える態勢を実現する。

 

その中で今年9月、トヨタのコアモデルであり、1966年の初代から数えて12代目となるカローラセダンおよびワゴンをフルモデルチェンジする」と話し「グローバルモデルと上手に共通化を進めながら、日本専用モデルとしてスタイル、装備を大幅に向上させた」と期待を込めていた。(佃モビリティ総研・間宮潔)

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。