トヨタ自動車は12月9日、燃料電池自動車(FCV)「MIRAI(ミライ)」をフルモデルチェンジし、同日から発売したと発表した。新車発表会で前田昌彦CTO(最高技術責任者)は発売にあたり「多様なモビリティへ転用できるよう新たなFCシステムを開発した」と強調し、第2世代となるミライを「水素社会への出発点」となるモデルと位置づけた。(佃モビリティ総研・松下次男)
初代に比べ生産量を10倍に拡大、高速距離を約30%アップの850kmへ
新型ミライは2014年発売の初代モデルに比べて、生産能力を10倍に引き上げ、航続距離を30%アップの850キロメートル(WLTC走行モード)へと延ばした。
環境への取り組み強化が今や世界的に加速しており、わが国でも菅首相が2050年までに「カーボンニュートラルを目指す」と宣言。また、水素についても欧州や中国などが戦略を策定し、早期の実用化を目指して動き始めている。
こうした中で、トヨタは「電動化を全方位で加速する」とHV(ハイブリッド車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、EV(電気自動車)それにFCVを用途に応じて展開する考えを打ち出しており、とくにFCVについてはEVと比べて長距離にも適した環境対応車として投入する。
FCVは水素充填時間が3分程度とガソリン車並みで、扱いやすさの点でもEVより優位性がある。トヨタは2014年に量産タイプのFCVである初代ミライを先駆けて発売。その累計販売台数は全世界で1万台以上にのぼるが、発売初期には長期間の納車待ちとなったうえ、様々な課題も見えてきたという。
その一つに、基幹システムであるFCスタックの様々な分野への転用要望がある。ゼロエミッションを見据え、大型、小型トラックなどの商用車、フォークリフト、産業用発電機などへの応用だが、初代ミライはそのための転用が難しかった。
そこで2代目ミライ開発にあたっては様々なモビリティへ転用できるようFCシステムを開発し、水素利用拡大に活用することにした。新型ミライは元町工場で生産する。
発売した新型ミライは「究極のエコカー」であると同時に、「本当に欲しいと思う、未来のプレミアムカーを目指した」という。
マイナスエモーション「走れば走るだけ空気をきれいに」、PM2・5を除去
車両は全長4975ミリメートル、全幅1885ミリメートル、全高1470ミリメートルで、ホールベースが2920ミリメートルの長さ。
新開発の燃料電池ユニットは、出力密度が1リットル当たり5・4キロワットで、最高出力が129キロワット(174馬力)。高圧水素タンクを3本配置し、航続距離をアップした。最高出力134キロワット(182馬力)のモーターを搭載する。燃費も約10%向上した。
また、新型ミライは「マイナスエミッション」の表現で、空気をきれいにする機能をトヨタ車で初めて採用。発電のため、走行時に空気を取り入れ、排出するFCVの特徴を活かし、吸入した空気をきれいにして排出する空気清浄システムを導入した。
具体的にはエアークリーナーエレメントでPM2・5レベルの細かい粒子を補足するとともに、ケミカルフィルターで有害な化学物質を除去、PM2・5の発生を抑制する。
デザインは「SILENT DYNAMISM(サイレント・ダイナミズム)」をコンセプトに、スピード感のあるプロポーションと大胆な面の変化を重視した造形を融合させた外形デザインを採用。環境車だからでなく、スタイリングで選ばれるクルマを目指した。
安全面では最新の予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense(トヨタ・セーフティー・センス)」を採用。交差点での衝突回避、被害軽減などを支援するプリクラッシュセーフティ、レーダークルーズコントロール、ドライバー異常時対応システムなどを進化させ、搭載した。
高度運転支援技術も新型ミライには先行して採用する。駐車を支援するAdvanced Park(アドバンスド・パーク)装着車を設定するほか、自動車専用道での車線維持、レーンチェンジなどを支援するAdvanced Drive(アドバンスド・ドライブ)装着車を2021年に発売する。
災害時などの非常時の電源として活用できる給電機能も備えている。グレードは標準グレードのGと上級グレードのZを用意。車両価格(消費税込み)は710万円から805万円。同車はクリーンエネルギー自動車導入事業費補助金(CEV補助金)や地歩自治体の補助金などの助成が適用される。