トヨタ自動車は9月29日、トヨタ・レクサス販売店の総点検結果と今後の取り組みについてオンライン会見を開催。総点検では、販売会社11社12店舗で車検の不正行為があったと発表した。対象となる台数は調査のきっかけとなったクルマを含め累計で6659台に上った。(経済ジャーナリスト・山田清志)
全国で11販社、12店舗で不正が判明
「この度の不正車検では、オーナー、弊社の多くのお客さま、そして広く自動車整備業界の皆さまにご心配とご迷惑をおかけしたことをお詫びする」
会見はトヨタモビリティ東京の関島誠一社長による謝罪から始まり、レクサス高輪(東京都港区)への処分について報告した。レクサス高輪は自動車整備事業の指定を取り消され、検査員は資格の解任となった。「合わせて弊社の懲罰に基づく社内処分も実施した」と関島社長は話し、自身を含めた役員、およびレクサス高輪の関係者を対象にしたという。
トヨタモビリティ東京の関島誠一社長
トヨタ・レクサスの販売店ではこれまで、レクサス高輪のほかにネッツトヨタ山梨本社セイリア店(山梨県甲府市)、ネッツトヨタ愛知プラザ豊橋店でも不正車検が行われていたことが発覚している。これを受けて、トヨタでは7月20日から全国販売店の4852拠点で総点検を行った。
総点検では、トヨタの社員約530人も販売店の現場に入り込み、販売店の従業員への聞き取りをはじめ、資料・帳票などを確認しながら、指定整備に関係する法令が遵守されているかをチェックした。その結果、全国で11社、12店舗で不正が判明したのだ。
「12件の内訳は自社で発見できたのが8件、残りの4件は各運輸支局の監査により判明した。うち6件はレクサス高輪と同様、検査の未実施、検査数値の改ざんという故意、残りの6件は過失のよるものだった」とトヨタ自動車国内販売事業本部の佐藤康彦本部長は説明し、対象となる車両は合計で1345台だった。これらの車両については、それぞれの販売店が無償で再検査をしているそうだ。
まずは標準作業の明確化と負荷の標準化
総点検から見えてきた課題として、トヨタでは「サービス現場における過大な業務量と、エンジニアの人員不足」「車検制度への役割認識と遵法意識の不足」「経営層・管理者と現場作業車の風通しの悪さ」「指定整備における監査機能の不備」をあげた。
また、メーカー側の課題として、「販売店の活動へのサポートが不十分」「表彰制度による助長」をあげた。トヨタは販売店各社の売上台数によって表彰する制度を設けるなど、売上第一主義が定常化し、販売と整備の現場の状況をしっかりと把握できない状況になっていたというわけだ。
トヨタ自動車国内販売事業本部の佐藤康彦本部長
また、トヨタの2021年4~6月期の営業利益は9974億円と過去最高を達成し、営業利益率は12.6%と高収益を誇るが、そのしわ寄せが販売店などの第一線にいっているのかも知れない。
これらの課題に対する改善策は、まず標準作業の明確化と負荷の標準化を進め、エンジニアが本来作業へ集中できるようにすること。これまでは入庫予約や当日受付、洗車などエンジニアが担当していたが、それらの作業は営業スタッフや専門スタッフに任せる。
そのほか、現場担当者に対する教育、販売店代表者や経営陣が現場を回り現場の困りごとをしっかり聞くこと、サービス機器の更新などを進めるとともに、不正を誘発する背景となり得る要因をなくすように働く環境の改善や職場風土づくりにも取り組んでいく。
また、必要な人材の増強では、深刻な人手不足から外国人留学生や技能実習生を含めた多様な人材の登用も考えていく。そして、エンジニアに対し検査員手当など処遇面の見直しもしていくそうだ。
一方、トヨタ側の取り組みとしては、販売店の販売スタッフや整備スタッフをトヨタの生産現場に招いて研修して、TPS(トヨタ生産方式)を通じた人材育成を行う。さらに、販売店との向き合い方や制度の見直しも進めていく。
「1店舗1店舗、ひとつひとつの課題に向き合い、現地、現物、現場に寄り添った取り組み改善をスタートし、やり抜く覚悟だ」と佐藤本部長は強調する。
トヨタの販売店は、地域の名士が経営し、独立意識が強いところもあり、トヨタとの距離感もばらつきがある。そこで、トヨタの基本的なプログラムに則ったうえで各社独自のスタイルで販売や修理を行うという体制を長年にわたり続けてきた。
100年に一度を言われる自動車の大変革時代を迎え、メーカーだけでなく販売店も変わる必要に迫られている。トヨタは20年からすべての販売店で「全車種併売」を開始した。そのうえ、サブスクリプション(定額制)といった新しいサービスも登場した。今回の販売店による不正車検は、トヨタが販売店と連携を強化するいいチャンスかも知れない。