スズキが行動理念として掲げる「小・少・軽・短・美」とは
スズキの鈴木俊宏社長は先の7月17日、東京都千代田区で開いた「技術戦略説明会」の冒頭で、会見に駆けつけた報道陣を前に、〝NHK・魔改造の夜〟の番組企画〝電動マッサージ器25mドラッグレース( 5月30日放送 )〟に大真面目に挑む自社・技術者達の「美しい、ものづくり」に感動したという。( 坂上 賢治 )
その番組で、スズキの社員達が腐心した小さなドラッグレーサーは、構成部品を選び抜き、軽く、短く、それでいて絶対性能が求められる部分には満身の独自技術が注ぎ込まれていた。そこには、常々スズキが行動理念として掲げる「小・少・軽・短・美」の体現企業としての矜持が存分に活かされていると誇らしく語った。
また同事例から俊宏社長は、「それゆえ当社には、対象車の製造から使用を経てリサイクルに至る一連の流れに於いて、より高度なカーボンニュートラルの実現に貢献できるという想いを新たにした」と述べ、これらを踏まえ俊宏社長は次のように畳み掛けた。
飽くなき快適性を求め続けた結果、クルマは大きく豪華になり過ぎた
現在、鋭意・開発中の次世代アルトは、現行アルトから7世代前に相当する約100kgの軽量化を目指したい。その理由は、小さなクルマづくりを得意とするスズキに於いても、これまでは飽くなき快適性を求め続けた結果、近年の製品は大きく豪華になり過ぎたと思うからだ。
例えばプロダクトとしては、クルマとは全く別製品ではあるが、80〜90年代に持ち歩ける通話欲求を満たすために製品化が進んだ携帯電話は、その後にスマートフォンとなって、相次いで多彩な機能を追加し続けた結果、今や10万円を大きく超える端末も珍しくなくなった。
しかし、お客様のニーズは様々だ。高機能な製品を求めるお客様が存在する一方で、使い切れない機能を満載した高価な端末を、好むと好まざるに関わらず買わざる得ないお客様もいる。
そうしたなかで当社は、小さなクルマづくりを得意とするメーカーであり、適切な値頃感を持たせつつ、現代社会に見合う道具として、必要充分な機能のみを搭載したものづくりも行うべき。実際、お客様にもよるが一度も使う事のないような機能を搭載したクルマは、今の当社の製品にも存在する。
シンプルな作り見込みで美しいものができれば、着飾る必要がない
但し、それは何事も安く仕立て上げるという意味ではない。一例を挙げるとスイッチの操作によって、ある特定の機能を切り替える機能があったとする。しかしそのスイッチは、クルマを購入した時に一度設定を決めたら、それ以降はスイッチを全く使わなくなるものもある。
もしも本当に、そのようなスイッチであるのなら、センターモニター内での操作できるものにしたら独立したスイッチはいらない。結局、そのスイッチは、部品メーカーが儲かるだけの余計なものに過ぎないから。
またインテリア部材として組み込まれている樹脂トリムは、それぞれの美観を保つため、異なる素材を組み合わせたものもある。そうした樹脂トリムは最終的にクルマを廃棄・リサイクルする際に余計な分別コストが掛かる。
大体ボロ隠しのためだけに樹脂トリムを使うのなら、そもそも樹脂トリムがない、むき出しで美しいインテリアが作れないのかと常々考えている。それで美しいものができれば、着飾る必要がないからだ。
スズキは、小さなクルマづくりでの独自の強みを活かすべき
もちろん、お客様から求められるニーズがある限りは、大きくて豪華で高価なクルマづくりも良いとは思う。しかし当社は、小さなクルマづくりでの強みをもっと活かすべきだ。
小さく軽いクルマであれば、製造工程に於けるエネルギーも少なくて済む。搭載するモーターも、電池も、内燃エンジンの排気量だっても小さくできる。小さく軽いクルマであれば、走行中のエネルギーも少なくなる。
小さく軽いクルマであれば道路の痛みも少なく、道路下に埋めた水道管やガス管へのダメージも小さくなってインフラ整備のコストも安くなる。更に小さく、軽く、美しく機能的に作られたクルマであれば、リサイクル時のコスト負担も小さくなる。結果、ボディサイズや使われる部品が、小さく、少なく、軽く、短く、美しく仕上げられた製品は、後々いいことに繫がる好循環のサイクルを作り出す。
こんなクルマが欲しかったと言われるスズキらしい製品を
技術の小さな積み重ねを決して惜しまず「小・少・軽・短・美」を求めていくことは、エネルギーの極少化を、より効果的に、より安く、より早く実現できるというスズキならではの技術の真骨頂であり、我々らしい技術戦略であると自負している。
先の質問にもあったが、共に歩むことを決めているトヨタさんの技術は、心から素晴らしいと思う。けれども、もっといいクルマづくりを目指すための山の上り方には、スズキらしい登頂ルートもある。
他社との切削琢磨という面では、今後も、仲良くケンカしながら、お互いの技術を磨き合っていきたい。その結果、こんなクルマが欲しかったと言われるスズキらしいクルマを披露したい。だからこそスズキは、全体最適で、そうした目標に向かってチャレンジしていくと結んだ。