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2024年7月22日【ESG】

スズキが示した「もっといいクルマ」のつくりかた

坂上 賢治

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スズキが行動理念として掲げる「小・少・軽・短・美」とは

 

スズキの鈴木俊宏社長は先の7月17日、東京都千代田区で開いた「技術戦略説明会」の冒頭で、会見に駆けつけた報道陣を前に、〝NHK・魔改造の夜〟の番組企画〝電動マッサージ器25mドラッグレース( 5月30日放送 )〟に大真面目に挑む自社・技術者達の「美しい、ものづくり」に感動したという。( 坂上 賢治 )

 

その番組で、スズキの社員達が腐心した小さなドラッグレーサーは、構成部品を選び抜き、軽く、短く、それでいて絶対性能が求められる部分には満身の独自技術が注ぎ込まれていた。そこには、常々スズキが行動理念として掲げる「小・少・軽・短・美」の体現企業としての矜持が存分に活かされていると誇らしく語った。

 

 

また同事例から俊宏社長は、「それゆえ当社には、対象車の製造から使用を経てリサイクルに至る一連の流れに於いて、より高度なカーボンニュートラルの実現に貢献できるという想いを新たにした」と述べ、これらを踏まえ俊宏社長は次のように畳み掛けた。

 

飽くなき快適性を求め続けた結果、クルマは大きく豪華になり過ぎた

 

現在、鋭意・開発中の次世代アルトは、現行アルトから7世代前に相当する約100kgの軽量化を目指したい。その理由は、小さなクルマづくりを得意とするスズキに於いても、これまでは飽くなき快適性を求め続けた結果、近年の製品は大きく豪華になり過ぎたと思うからだ。

 

 

例えばプロダクトとしては、クルマとは全く別製品ではあるが、80〜90年代に持ち歩ける通話欲求を満たすために製品化が進んだ携帯電話は、その後にスマートフォンとなって、相次いで多彩な機能を追加し続けた結果、今や10万円を大きく超える端末も珍しくなくなった。

 

しかし、お客様のニーズは様々だ。高機能な製品を求めるお客様が存在する一方で、使い切れない機能を満載した高価な端末を、好むと好まざるに関わらず買わざる得ないお客様もいる。

 

そうしたなかで当社は、小さなクルマづくりを得意とするメーカーであり、適切な値頃感を持たせつつ、現代社会に見合う道具として、必要充分な機能のみを搭載したものづくりも行うべき。実際、お客様にもよるが一度も使う事のないような機能を搭載したクルマは、今の当社の製品にも存在する。

 

 

シンプルな作り見込みで美しいものができれば、着飾る必要がない

 

但し、それは何事も安く仕立て上げるという意味ではない。一例を挙げるとスイッチの操作によって、ある特定の機能を切り替える機能があったとする。しかしそのスイッチは、クルマを購入した時に一度設定を決めたら、それ以降はスイッチを全く使わなくなるものもある。

 

もしも本当に、そのようなスイッチであるのなら、センターモニター内での操作できるものにしたら独立したスイッチはいらない。結局、そのスイッチは、部品メーカーが儲かるだけの余計なものに過ぎないから。

 

またインテリア部材として組み込まれている樹脂トリムは、それぞれの美観を保つため、異なる素材を組み合わせたものもある。そうした樹脂トリムは最終的にクルマを廃棄・リサイクルする際に余計な分別コストが掛かる。

 

 

大体ボロ隠しのためだけに樹脂トリムを使うのなら、そもそも樹脂トリムがない、むき出しで美しいインテリアが作れないのかと常々考えている。それで美しいものができれば、着飾る必要がないからだ。

 

スズキは、小さなクルマづくりでの独自の強みを活かすべき

 

もちろん、お客様から求められるニーズがある限りは、大きくて豪華で高価なクルマづくりも良いとは思う。しかし当社は、小さなクルマづくりでの強みをもっと活かすべきだ。

 

小さく軽いクルマであれば、製造工程に於けるエネルギーも少なくて済む。搭載するモーターも、電池も、内燃エンジンの排気量だっても小さくできる。小さく軽いクルマであれば、走行中のエネルギーも少なくなる。 

 

小さく軽いクルマであれば道路の痛みも少なく、道路下に埋めた水道管やガス管へのダメージも小さくなってインフラ整備のコストも安くなる。更に小さく、軽く、美しく機能的に作られたクルマであれば、リサイクル時のコスト負担も小さくなる。結果、ボディサイズや使われる部品が、小さく、少なく、軽く、短く、美しく仕上げられた製品は、後々いいことに繫がる好循環のサイクルを作り出す。

 

 

こんなクルマが欲しかったと言われるスズキらしい製品を

 

技術の小さな積み重ねを決して惜しまず「小・少・軽・短・美」を求めていくことは、エネルギーの極少化を、より効果的に、より安く、より早く実現できるというスズキならではの技術の真骨頂であり、我々らしい技術戦略であると自負している。

 

先の質問にもあったが、共に歩むことを決めているトヨタさんの技術は、心から素晴らしいと思う。けれども、もっといいクルマづくりを目指すための山の上り方には、スズキらしい登頂ルートもある。

 

他社との切削琢磨という面では、今後も、仲良くケンカしながら、お互いの技術を磨き合っていきたい。その結果、こんなクルマが欲しかったと言われるスズキらしいクルマを披露したい。だからこそスズキは、全体最適で、そうした目標に向かってチャレンジしていくと結んだ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。