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2024年11月1日【新型車】

スズキ「フロンクス」 試乗・インプレッション

松下次男

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印グジャラート工場で生産する世界戦略車で「クーペスタイルSUV」がコンセプト

 

スズキがBセグメントSUVの新型「フロンクス」を発売した。インド・グジャラート工場で生産する世界戦略車であり、新モデルは日本を含め世界70か国以上に投入する。特に日本向けには専用の4WD(四輪駆動)車を設定するとともに、日本市場に合わせてチューニングを施しているという。10月16日から販売を開始した。(佃モビリティ総研・松下次男)

 

インド生産の新モデル、これがどう日本のユーザーに受け止められるか。
先の新車発表会で鈴木俊宏社長は、新モデルについて「スズキの品質基準に基づいたスズキ製」と強調し、海外からの輸入車という懸念を払拭する。

 

 

というのも過去に苦い経験がある。2016年にインド生産車第一弾となる「バレーノ」を輸入、販売したが、売れ行きが芳しくなかった。鈴木社長は販売店からにおいの問題が指摘されるなど同モデルは「日本仕様と少しずれがあった」と反省の弁を示した。

 

こうした経験を生かし、今回満を持してインド生産車の第2弾として投入したのがフロンクスだ。投入に当たっては、道路事情に合わせてサスペンションをチューニングするなど、日本のユーザーに合わせた仕様を施す。

 

実際、10月末に千葉の海浜幕張で行われた試乗会に参加しハンドルを握った感触からみると、操作性、走行性能、居住性などはグローバルモデルに相応しい仕上がりといってよいだろう。

 

1・5リットルエンジン+マイルドハイブリッドで力強い加速性能を発揮

 

フロンクスは2023年1月に開催したインド「オートエキスポ」で世界初公開。車両サイズは全長3995ミリ、全幅1765ミリ、全高1550ミリ。ホイールベースは2520ミリで、最低地上高は170ミリ。後席を含め、少し大きめの大人4人が乗車しても余裕のある居住スペースだ。

 

 

しかもBセグながら、4・8メートルとクラストップの最小回転半径を実現。実際、コーナリングや交差点などのハンドル操作でも扱いやすさ、取り回しの良さが実感できた。こうした「扱いやすいクーペスタイルSUV」をコンセプトにしたフロンクスはインドの乗用車市場で最速で累計販売台数10万台を達成。今やインドでもSUV人気が高まっているのに加えて、このような取り回しの良さや流麗なクーペスタイルのデザインがユーザーに受け入れられたのだろう。

 

ちなみにインドではマルチスズキの新車販売網の2チャネルのうち、プレミア販売網で発売する。日本市場向けパワートレインは1・5リットル4気筒エンジンとマイルドハイブリッドの組み合わせ。それに6速オートマチックトランスミッションを搭載する。

 

先行投入したインドは税制上の優遇措置などから1・2リットルエンジンを搭載。その他輸出向けには排ガス規制が厳しい日本などの地域と緩やかなところへ、主に1・5リットル・エンジンを使い分ける。さらに日本向けには2WD(前輪駆動車)に加えて、専用仕様の4WDを設定。

 

その4WDはアクセルレスポンスを重視したエンジン制御によりスポーツ感のある走りが楽しめる「スポーツモード」のほか、「ヒルディセントコントロール」「グリップコントロール」「スノーモード」のシーンに合わせて使い分け可能なモードが搭載されている。

 

競合ひしめく日本のBセグSUV市場に投入、日本向けは専用仕様の4WDを設定

 

 

ヒルディセントコントロールは急な下り坂に対応したモードであり、グリップコントロールは滑りやすい路面でスリップを防止するモード。スノーモードは雪道などの滑りやすい路面走行でエンジンの出力を自動で調整する。スポーツモードは2WDにも設定されているが、それ以外の3つのモードは4WD専用だ。

 

 

4WD車は滑りやすい雪道などで前後輪に最適な駆動力を配分し、走行安定性を保つシステムで、日本で人気の駆動方式だが、今後車両改良に合わせ、他地域向けでも設定を検討する可能性もありそうだ。試乗で2WDと4WDに乗り比べてみると、走行安定性で4WD設定車の方がどっしりした感があるとの印象を受けた。

 

もっとも今回は市街地の平坦な道路での試乗だったこともあり、2WD設定車も加減速、走りはスムーズで、十分に快適な走行が楽しめた。モード別の走行では、力強く、一気にスピードが増すスポーツモードとノーマルの違いが瞬時に、分かった。ただ残念ながら、晴天時の試乗だったため、滑りやすい路面での走行機能などは試せなかった。衝突被害軽減ブレーキやアダプティブクルーズコントール、車線維持支援機能など最新の予防安全機能も標準装備されており、実際に車線維持支援機能の効果も体験できた。

 

SUVカテゴリーは日本の登録車市場で最も大きなボリュームゾーン。しかも、フロンクスのBセグSUV市場は競合がひしめいており、その中で、埋没せずにどう存在感を示すことができるかが課題だ。チーフエンジニアの森田祐司氏は「個性を主張できる力強さ」および「上質感にこだわった」と述べ、国内販売に期待感を示した。

 

実際、月販目標台数の1000台に対し、すでに日本での受注台数は9000台を超えており、車両発表後も受注は伸びているという。受注の約4割が4WD車。車両価格(税込み)も2WD車が254万1千円、4WD車が273万9千円と手ごろ感がある。ただし、スズキはインドでの販売が好調で、グラジャート工場の生産もタイトな状態。このため、日本向けに生産を増やすのは難しく、受注したユーザーはしばらく納車待ちの状態が続きそうだ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。